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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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5 困窮する街

 わたし達がムルクルの街へ近づくと、街に警戒音が鳴り響いた。自分達から問答無用で襲っておいて、簡単にあしらわれたら災厄扱いするのね。

 シンマの貴族は頭がおかしく思ったけれど、リビューア帝国とよく長い付き合いをしてこれたわね。意外と忍耐強かったのかしら。どっちもおかしいからとも言えるのかもね。


「忍耐強かったのなら、民衆を真っ先に見捨てないと思うよ」


 眼鏡エルフに正論で駄目出しをくらった。街中なので櫓は出していない。ノヴェルが代わりに円形風樽火門(フレミールドーム)を屋根部分に展開してティアマトと見張ってくれた。


「凄い人の数ね」


 遠目に見てもわかるくらい、人が列を成していた。街は防衛の概念がないのか、防壁は柵のようなものしかなかった。


「魔導具で防壁を形成する様子もないわね」


 ロブルタで言うと農村が一箇所に集まりすぎて大変な状態、それがムルクルの街の印象だった。

 人の壁で防げるくらいなら、馬賊も逃げたりしないでしょ。


「なんか様子がおかしいだよ」


 ノヴェルが注意を促した。出てきた人達は、なぜか座り込み平伏しだしたのだ。よく見ると、平伏して捧げるように十数個の人の頭がある。


「さっき逃げた馬賊の頭に見えるんだけど」


 傲慢で悪いやつと別な意味で、面倒で頑固なやつだわ。エルミィから融通を取り払い、真正直を強化したようなタイプって、会話が噛み合わないのよね。たぶん、これはそういう種類のヤツよ。


 警戒しながら近づくと、首は全部で三十近い数があって、先程の戦闘で逃げた馬賊の人数と同じくらいだった。


「ふむ、話しを聞くつもりがありそうだな。屋根からドームを外したまえ」


 先輩はおおらかよね。円盤君の周りにはガレスとガルフ、それにバルスが平伏する人たちを睨むように並走している。

 魔獣である彼らを見ても驚かないのは、馬賊から話しを聞いているからかもしれない。



 円盤の上に出たのはエルミィとヘレナだ。エルミィは弓をいつでも射抜けるように、矢をつがえたままだ。一本の実弾の矢が十二の魔法の矢に分裂する代物だ。エルミィはその魔法の実弾矢を同時に五つ放てる。

 ヘレナは、そのエルミィと背中合わせに様子を見ている。ヘレナはもとの台座に八門同時に発射出来る風樽砲を換装して備えていた。


「街の代表は誰だい?」


 先輩がルーネの扱う先輩型器械像(アストタイプタロス)を通して、わたしの示した人物の方に向いて話しかけた。明らかに戦闘力の低い人達の中で、指導者らしき彼女だけが魔力が飛び抜けて見えた。馬賊の長でもないのかな。


「スキュティアと申します、アストリア殿下の御活躍は、このリビューア帝国まで届いております」


 この女騎馬武者、予想以上に出来るわね。なんで馬賊に身をやつしているのかしら。いえ、違うわね。なんでその実力を振るって戦いを挑まず、仲間の首を差し出したのかしら。先輩が円盤君の中にいるのも気づいているし。


 ティアマトとバステトが警戒を一段上げる。バステトは首を欲してわたしとスキュティアという人物を見比べるのは止めなさいね。


「うむ、蠍人に巫女がいたように、さしずめキミは牛人の巫女かね」


 たぶん、彼女は違うわね。セルケトの忠臣アクラブが近いのかしら。先輩はバレているにも関わらず、ルーネの扱う影に喋らせる。


「わたしは、アマテル様に仕える従者に過ぎません」


 リビューア帝国はもともとは牛を放牧し、生活の基盤を季節こどに移してゆく人々、いわゆる遊牧民族の国だ。

 牛人が完全に人化して住んでいてもおかしくない。リビューア帝国が帝国になるまえは小さな国が乱立していて、このあたりはアークトゥルスという名の王が、治めていた豊かな穀倉地域だったみたいだからね。


 遊牧民族と農民達は仲良く協力して暮らしていたという。農作業に牛の力を借りて畑を耕し、遊牧民族達は代わりに休耕地を使って放牧をしていたようだ。


 魔法を使わなくても、大地の恵みを自然に回復させる手段を良く知る民だったようね。わたしとしては好ましい民に思えた。



 ひとまず馬賊の首については、先輩は後回しにしていた。本当に敵意がないことを示す為に、仲間の首を差し出すとか気持ち悪いもの。

 ただ実力を図るために襲った、けじめのつけ方でもあるように思う。なかなか異国らしい、価値の相違を見せつけられたわ。


 そうした違いに関して、こちらの思想を押し付けても根幹が違うので理解するのが難しいのだ。スキュティアが賢いのは、それを踏まえていまは話しを進める事に専念したためだ。手強いし、やっぱ面倒な相手だったわ。


 場所を変えて、ぞろぞろと街中へと戻る姿も、本当の腹の中が見えないのでなんとも言えない。好ましいのは過去の彼らだ。今の彼らは悪しきものの信徒と区別が付き辛い。それも要因の一つと言えた。


 時折スキュティアが、円盤君の中にいるわたしを見る。何か心からすがる思いは感じた。でも、わたしに言われても困るわよ。頼るのなら、貴女の信ずる主であってわたしじゃないわよ。


「悪しきものに、我らの神聖なる神の牛(アピス)様が奪われ、貶められたのが始まりなのです······」


 ムルクルの街の中央の大きな市場。そこの倉庫を保有する市長の屋敷に、先輩とわたし達は招かれた。

 馬賊の街の人々は恭順を示して無抵抗を誓ったけれど、念のため円盤君のまま中へ進むことを許可してくれた。

 

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