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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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4 価値観の違い

 リビューア帝国内の東部の街は危険なことが良くわかった。運良く襲われない旅商がいるのは、略奪品を取り引きしている商人と、通行料を払っている商人がいるからよね。


「逆に言うと、お金さえ払えば奪われずに済むってことかしら」


 馬賊から彼らの根城とする街の状況や、リビューア帝国の様子を聞き出した。


「利用価値の問題だろうね。彼らにとって都合の良い相手以外は、通す価値より奪う実利を取るだろう」


 尋問したバステト達の話から、先輩の考えが正しそうだとわかった。彼らの欲するのは食料品に、資源ね。腹の足しにならない貴金属は、強奪して帝国側の商人との取り引きに使う。


「シンマからの商人は強引な関税をかけられていたようなものね。よくそんな損な取り引きを続けていたものだわ」


 儲けにならないなら、交易は途絶えておかしくない。


「甘味類とかの調味料や魔導具が、リビューア帝国からしか手に入らないものがあったみたいよ」


 お菓子作りをするヘレナが、甘味の仕入れが高い理由を知って憤慨していた。今はロブルタの農園や、ロムゥリで栽培を試みているので、比較的安価に抑えられるようになったのよね。


「状況を照らしてみると、リビューア帝国側は、賊徒の振る舞いを黙認している感じね。少なくとも東部に関しては放置に近いわ」


 それでも賊徒だからと、街の人間を攻撃して良いものかどうか迷う。たとえ正当防衛でも、リビューア帝国側の判断で国防軍が動く可能性もあるからだ。


「でも、もう()っちゃったし、逃したから今さらなのよね」


 逃げた馬賊が領主や国の機関に報告すれば、わたし達は犯罪者になるかもしれない。

 逃げて来たシンマの王族や貴族はどうしたのかしら。それに暗殺者集団も。異界の強者達もいたので、野垂れ死にするように思えないのよね。


「僕の予想だが暗殺者達はリビューア帝国の出身の出稼ぎだと踏んでいるよ。この国には冒険者ギルドもないのだろう?」


 先輩がメネスに話しを振ると、元冒険者ギルドの受付嬢でもあったメネスが頷く。盗賊とかの犯罪者ギルドもあるんだっけ。とことん、わたし達とは常識が違う国だ。


「先輩の仮説が正しいのなら、暗殺者集団を叩くのは難しいかもしれませんね」


 先輩があえて可能性を限定したので、わたしもあえて乗る。元シンマの王族貴族は彼らの価値観に照らし合わせると、ゴミよね。暗殺者集団に守られて、いくつかお宝を持って逃げて来たとしても、彼らからすれば荷馬がわりだった気がして来た。

 国元まで運ばせれば用済みだ。家畜を始末するように、首をはねそうだわ。ユルゥム王女の生存本能は正しかったようね。


 気性の荒い冒険者のような、ならず者達だけが集い、国家を築くとこうなるのかしら。こちらが強いとなると、あっさり退いたので完全に無法地帯なわけでもなさそう。

 強いことが条件なのかもしれないけれど、単純な筋力勝負とかだと、ティアマトとノヴェル、それにフレミールを呼べばなんとかいけるかな。


 みんなの意見で、街へ行ってみることになった。食料や水は充分あるし、寝床の心配はない。喧嘩を売ってくるなら買えばいいって、ずいぶん脳筋な逞しい考えになって来たわね貴女達。


 方針が決まったので、わたし達は転がる馬賊達から、使えそうな装備品などを回収する。馬の移動が速い理由は、馬の鞍につけられた魔導具の性能の補助のおかげだ。


「これを見て。リーダーっぽい馬に基本となる魔導具がついていて、ある程度の範囲内にこの魔導具を持っていると、恩恵を得られるみたいね」


 受信具があれば、誰でも恩恵を得られる。わたしの美声君も伝声させるために同じ処置をしているけれど、少し違う。こちらは受信具の魔力波長を合わせれば誰でも恩恵を受けることが出来てしまう。敵も味方も。

 お手軽だから軍隊向きかもしれないけれど、夢がないわよね。


「指揮官の立場からすると、安定した能力向上を果たせるのなら理想ではないのかね」


 上に立つものとして、普通にそう考えが浮かぶあたりは先輩は王者だわ。そしてわたしの発明品が不安定だと、ほのめかしているわよね、ぐぬぬ先輩め。


「正常な状態なら良いのですよ。でも、これを持って魔導具本体の範囲内にいると、ずっと恩恵を得させられてしまうんです」


 受信具を見て気になったのは、機能制限をつけて作成費用や維持費を抑えていることだ。要は、受信具のオフ機能がない。


「傷を負った時に受信具を外せるのなら問題はないのですが、これは受信具そのものも少し効果範囲を広げてるのが欠陥になるんですよ」


 費用と効率重視。軍隊の魔導具としては正しいのかしら。


「戦いになれば受信反応を消す魔導具などを設置した医療部隊があるのではないかね。担ぎ込んで、いければの話しになるが」


「そうだといいけれど。わたしが悪しきもののような悪いやつなら、人体に組み込んで一方的に命令出す道具にしそうだわ。異界の強者たちの召喚術式に、強制命令組み込むように」


 先につけるか後につけるかの違いで、自ら外すのが難しいのが厄介よね。だから狂信者やいかれた統率者は嫌いなのよ。


 わたしも意志のない人形兵(ゴーレム)を作るけれど、自動で動かす時は招霊君に任せている。こうして欲しいとお願いするけれど、あれ命令じゃないから聞かない子も中にはいるのよね。


 シェリハみたいに伝達糸でまとめて扱う時は、逆に共通認識を持って従ってくれる。招霊君って、かなり気まぐれなのにシェリハって凄いと思うわ。


「話しが逸れたわね。僻地の馬賊の集団ですら、魔導具を持っていると頭に入れて行動した方が無難よね。魔導具の種類によっては、強制的な集団催眠状態を引き起こす可能性もあり得るから」


 そういう土地だと考えておく必要がある。なにも受信具は人にだけつける必要はないのだから。結界のように、街の要所に張り巡らせることで街ごと影響下におくこともあるはず。


「我々から見ると、好戦的で狩猟的なもの達であるとつけ加えたまえ」


 先輩がなにを持ってそう言ったかは、みんなわかるわよね。街へ入る前に、わたしは辛玉、臭玉、酔玉を配合した噴射式手甲(アーム・スプレー)を全員の腕に付けさせる。それとルーネの力を借りて、美声君の催眠無効化と耐性再強化し直した。


 一番近い街までガレスとガルフの歩む速度で一日かかった。普通の馬車が荒野を走れたとしても三日はかかる距離なのよね。


「街の名前は確かムルクルだったわね」


 ガレスとガルフそれにバルスが逃げた馬賊の臭いを追ってやって来たのがこのムルクルだ。荒れた大地しかないわね。


「侵食が酷いのね。大地の力が弱りすぎて、回復出来ていないわ」


 魔力侵食という、魔力の引き起こすいわば病気の一つね。シンマが滅び悪しきものの拠点は潰れたけれど、この国のどこかにまだ悪しきものの教団が残って悪さしているか、牛人に関わる別な集団がいると思う。


「ノヴェル、大地の魔力の流れ、わかるかしら」


「あっちの方に力が流れてるだよ」


 ノヴェルの差した方向は、馬賊から聞き出した帝都のある方向だ。ただ、ノヴェルが首を傾げている。貴女の感覚が正しいのよ。

 はぁ······それにしても、なんか既視感があるわね。リビューア帝国と戦う未来しか見えないのだけど、見なかったことにして帰ろうかしら。


 ロブルタとバスティラも連合王国になって領土的には広くなったけれど、ローディス帝国に比べるとまだまだなのよ。

 そしてリビューア帝国はそのローディス帝国より広く、人口もあって魔導具作りが盛んなわけよね。話しの分かる人を掴まえて、全面戦争だけは避けたい所だわ。

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