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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第3章 星を造る 神の真似事編

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1 魔女さんの依頼

 

 わたしが一人で錬金術部屋に籠もり、旅の準備をしていると背後に気配を感じた。

 入り口は別の所にある。この気配の主は、知り合いを座標に転移出来るのは知っていた。でも、ダンジョンのような異空間にまで来れるんだって事には驚いたわよ。


 そんな真似をするのは、当然ながら魔女さんしかいない。しかも、誰も入って来れないようにするためなのか、またも時間の流れがおかしい。


「え〜と、今日は何のようで」


 正直、魔女さんが訪れるような理由に心当たりがないのよね。ニコニコ顔なんだけど、目の奥が、冷めてるから面倒臭い要件をまた押し付けて来そうで嫌になるわね。


「目の前に相手がいる時には、そういう気持ちを、口にも心にも出さない方がいいわよ」


 わたしのブツブツ呟く声に、魔女さんからの反応が返ってくる。幻覚でも催眠でもない。

 別の世界のような時間の流れの中で、何度も死の恐怖を体感させられて、わたしは身体中から嫌な汗が出るのがわかった。何か怒ってらっしゃるのが、それでわかる。わたししかいないのに、わたしにしかわからない重圧をかけてるのよ。


「だって、貴女アミュラの事を引き抜いたでしょ」


 当たり前だけどバレてました。怒っているのは彼女の息子、つまりクラン【星竜の翼】のリーダーが、頭を抱えて悶絶していたからだ。冷遇していたわけじゃないのは、アミュラさんの様子から良くわかる。

 ただ彼女自身が自分の価値に気づいてなくて、気づいていたのがわたしと魔女さんの親子くらいだったのだろう。


 魔女さんも咎めに来たわけではないようだ。アミュラさんが自主的にやりたい事を応援するつもりでいる。

 クランを脱退したわけでもなく、組織として上下関係がややこしくなるけれど、ロムゥリの商業ギルドは、クラン【星竜の翼】の支部扱いになるので問題ないそうだ。ならいいじゃないと思う。


「あの娘の能力を活かすなら、ロムゥリの街は最適ね。ただね、相談はして欲しかったかな」


 頭の両こめかみが痛みだす。先輩にグリグリされるみたいに、魔力で圧力がかかる。しかもわたしの魔力なので、倍に疲れる嫌がらせだ。膨大な魔力があるのに、どうしてこんなに細やかな魔力操作が出来るのよ。


 アミュラさんもきちんと繋がりを保ちつつ義理は通して、自由意志を尊重して貰えてるのなら問題ないじゃない。


「貴女にそれを言われるのが腹立つだけよ」


 あっ、この魔女さん開き直ったわ。ムカつくから八つ当たりしに来たって言ったようなものだもの。ごめんなさい、グリグリが地味に痛いので止めてください。わたしのなけなしの魔力を奪わないで。


 八つ当たりしてスッキリしたのか、魔女さんの目に輝きが戻る。そして手のひらくらいの大きさの、三つの瓶に密封された液体をわたしの前にチラつかせた。


「貴女なら、これの価値がわかるわよね」


 中身が何かはあえて触れない。何の成分かなんて、見てすぐにわかるものだから、言葉にするのは野暮だわ。問題は誰のどういう能力のある方のものか、だ。

 

「一つはわたしのよ」


 少し恥ずかしそうに魔女さんが言う。その成分は奪ってでも手に入れたい代物。わたしじゃなくても、変わった趣向の持ち主なら、眼の前の美少女のソレはご褒美だと思うわよ。実態はおばさんだけど。


「グエッ」


「懲りないというより、条件反射で正直な気持ちを口にしちゃうのね」


 一瞬超高速で身体を揺さぶられたような感覚がわたしを襲い、わたしは嘔吐してしまう。口には水玉のようなもので塞がれていて、球体の中に吐き出したものがしっかり受け止めていた。

 魔女さんが何を意図したのか理解したけれど、やり方がわたしより酷い。というか、扱い慣れてる。


「貴女、自分の発言をもう忘れているの?」


 忘却の魔女さんもびっくりの、わたしの忘却力を舐められては困るわ。忘却? まあ、いいか。魔女さんは虹色輝星石(カルミアスター)がご所望なのだ。持って来た成分量を見ると、わたしと魔女さんで半分ずつ作れる。前に貰ったものは蠍人の星用なので、これは貴重だわね。


 でも、ただじゃないはずだわ。この人、先に餌で釣るから人使いが荒いのよね。


「簡単なことよ。悪しきものが行っていた役割を、貴女に代行してもらいたいのよ」


 この魔女さんは、何を言ってるんだろうか。悪しきものって、曲がりなりにも信徒を多数抱えた偽神だか準亜神みたいなやつなのよね。わたしに替わりが出来るわけないじゃないのよ。


「悪しきものがこの世界で滅んでも、信徒がまだあちらこちらで生き残り根を張っているのよ。うちの混沌娘(ファウダー)に任せると真面目ちゃんだから融通が、ね」


 役割を任せようとした人材が真面目で固すぎて、悪しきものが全て悪いとわかっていても、面接で全て落としてしまうのだとか。関わりなく呼ばれたものまで断罪するのは、ちょっとね、とボヤく魔女さん。


「あの······何の話しか、わたしにはさっぱり見えないのだけど」


 よくない荷物の片棒を、担がされそうになっているのだけはわかる。全力で拒否して逃げたい。でも、時空の檻に閉じ込められている間は、助けも呼べない。勝手にわたしの魔力を使ってわたしの魔法も封じる。悪しきものより、この魔女さんの方が非道なんじゃないかしら。


「警告は三度までよ?」


 うん、この人も暴君だ。学園にやって来た帝国の皇子より、魔力も武力も火竜以上にあるから無敵過ぎだわ。なんなの、この魔女さんのいる組織。


「説明がまだだったわね。悪しきものが信徒を使って、異界の勇者や強者を呼ばせていたのは知っているわね」


 散々戦わされたので、それは知っているわ。ロブルタ内のあいつらの拠点はほぼ潰したはずだもの。いまも、タニアさんが吸血鬼族の偵察チームを四つほどつくり、交代でバスティラ王国、ロブルタ王国内を調べさせている。


 ちなみにタニアさんはエドラの冒険者ギルドのギルドマスターに就任してもらった。モーラさんはヤムゥリ様付きの護衛騎士になっているのよね。


「あの召喚でこちらの世界に呼ばれたもの達を面談して、この世界に縛りつける役目をしていたのが悪しきものよ」


 なるほど、納得したわ。信徒達による召喚術で膨大な魔力を得ることが出来る。術師達の技量や、儀式の形式、呼ばれたものの器によって変化するにしても、強者と呼ばれる力くらいは得られると思う。それが異界の強者、勇者と呼ばれる存在なわけか。


「話しが早くて助かるわね」


 異教徒達が滅びるまで、異界の召喚は続く。ただ悪しきものは既にいないので、呼ばれた魂は行き場を失い彷徨う事になる。

 混沌娘なる子は、悪しきものに呼ばれた関係者だったらしい。蠍人の巫女セルケトみたいな人だろうね。


「贖罪としてなのか、あの娘は全て浄化させて帰してしまうのよ。正しいのだけど、困ることもあるわけ」


 魔女さんが何か企んでいたことがあって、仲間の真面目過ぎる性格に困っていると。そこで代役にわたしが選ばれたというわけね。何故?


「貴女も欲しいでしょ、()()


 悪い魔女さんもいたもんだわ。彼女としては、選別はするにしても、あちらに奪われた分を取り返したいようだった。やってる事は変わらなくないかと思うけど、先に奪いに来たのあっちだからね。


「いいわ。その話しに乗ったわ。いらないの来たらどうするのかしら」


 力を得ると大抵のものは力に溺れ暴れ始める。急に身の丈を越える大金が入って、ウハウハしちゃうのと同じだ。


「ここが難しいのだけど、時間を超えて魂をすり替えたいのよね」


 時間を超え、悪しきものに使い潰されそうな魂と、暴走する魂を入れ替え、過去の世界から悪しきものを追いつめる罠へ変えるのだとか。


 高度な時間軸を使った罠とか、ついていけない。たぶん、この時間も悪しきものに対しての対策なのだとわかるくらいだ。

 すごく高度な魔法技術と知識があっても、時間に関するやり取りって難しいのに。本当に魔女さんって神々より恐ろしいわ。そしてわたしが選ばれたのは、まさに魂のなせる業ってやつね。


「取り返した英雄の器は貴女が保管しても良いし、仲間に使うか、聖霊人形(ニューマノイド)にするかは任せるわ」


 ぬっふっふ、何よ、その英雄の魂を収穫し放題みたいなお祭りは。涎が出そうだわ。

 散々荒らされ、いたぶられた分のお返しを、消えた悪しきものにぶつけられるのもいいわね。


「話しはわかったようね。そこでこの二つの瓶との取り引きになるわけよ」


 ほぅほぅ、さすがは魔女さんね。美味しい部分の説明を餌として釣りつつ、お宝は最後まで提示しなかったものね。多分この、魂のすり替えとやらは殆どが雑務になる気がする。


 真面目ちゃんは真面目ちゃんだからぶった斬ったんじゃなく、面倒になっただけだと思うのよね。魔女さんがしらばっくれたから間違いないわ。


「その事については、後でまた相談しましょう。それで返事は?」


「ほしいです」


 これはもう、即答よね。なんというか魔女さんの瓶も素晴らしいけれど、他の二つも輝きが違うのがわかる。メネスの病んだ成分と比べると違いが一目瞭然だわ。


「それなら、今からイメージする者たちがやって来たときだけ、注意を払ってほしいの。とくにこのおじさんと、少女はね」


 ぬふふ、初めて魔女さんの弱みを握った感じがする。彼女にとって、存在を揺るがし兼ねない大切なもの。

 そして、それは失敗すると容赦なく消される事も意味していた。頭を優しく撫でられたので、間違いないわね。

 めちゃくちゃ圧が強くて鳥肌が立つのに、美しい魔女さんから目が離せなかった。

 第三章がスタートしました。引き続きお楽しみ下さい。

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