6 糸使いの独白
私には隠していた秘密があります。いやあったと訂正しておきましょう。
ロブルタ王国にひっそりと暮らす私達は、この地に逃れて来た蜘蛛人族の末裔です。祖先達は人化して、人々の中で冒険者として暮らしていました。
代を重ねるごとに一族の血は薄まり、純粋に力を受け継いだもの達は人々の輪になじめず別の地へと聞きます。
私はこの地に馴染むことの出来た子孫ですが、人化した蜘蛛人族ではなく、元の姿に戻れなくなった蜘蛛人族なのです。
ただ生活に支障はなく、家を守るものとしての蜘蛛の能力のおかげか、人のお世話をするのが好きでした。
ロブルタ王国の第三王子付きのメイドに選ばれたのは、秘密を抱える私の無口な性格が好まれたのと、手のかかるやんちゃな王子様を見つけ出すのが得意だったからかもしれません。
アストリア様が王子として生きる事が決まっても、私のやる事は変わりません。むしろ重大な秘密を抱える中で、王子様が選んだのは私だけでした。
アスト様がカルミア様と出会えたのは偶然ではありません。非常に切り換えの早く聡明な方で、試験時の振る舞いでアスト様が目をつけていました。私は彼女の持つトラブル気質が気になりましたが、アスト様は楽しそうに目を輝かせてました。
はぁ··心労が増えそうな予感に私はため息を漏らしました。
騒動の尽きないカルミア様の体質は、見事に接点のなかったアスト様との出会いを引き寄せました。アスト様の試しは正直に言って厳しいのですが、カルミア様は軽々と突破してついにはアスト様まで魅了されてしまいました。
魅了の魔法を使ったわけではないのに人を引き付ける、それこそがカルミア様のお力なのでしょう。そして心を許せる友を得た事で、アスト様も急に覚醒し始めました。
二人のトラブルメーカーの前には波を打つように災難が訪れますが、その度にお二人は頼れる仲間とともに乗り越えてゆくのです。
そう、その中の一人に私も含まれているのです。カルミア様の視線が私の秘密をお調べになっているのがよくわかります。
「シェリハの武器は糸が良さそうね。得意でしょうから」
メイドだからお裁縫は得意です、そう切り返したかったのですが、この方は招霊君なるものから話しを聞いて、私の秘密をあっさり看破してしまいました。そして、それを知っても態度は変わらず受け入れてくれました。
「先輩はともかく、わたしやみんなには敬称不要よ」
ぐいっとわたしを引き寄せ、わたしは魂に触れられた感じがしました。あぁ、これが彼女の相性調べ。合わないものへは、彼女はとても冷めるというそうですが私は――――。
色々ありましたが、すっかり私もこの騒がしい仲間たちが大好きで大切なものたちになりました。名目上はアスト様の付き人なのは変わりませんが、頼まれればヤムゥリ様にも付きますし、メネス··さんと偵察にも行きます。
成分を吐き出すのだけはいまだに恥ずかしいです。躊躇いのないアスト様は本当に器の大きいことが実感出来ます。
カルミア様、いえカルミアが勘違いされているようなので訂正させていただきます。身分の高い貴族階級の方は確かに多くの側仕えのものに囲まれていて、見られることに慣れています。
ですが、アスト様は特殊な育てられ方をしているのはご存知ですよね。
あの方の、開けっ広げで躊躇いのない性分は、あなたの最初の予測通りです。ある意味、男前なのかもしれませんが、長年付き添った私が断言します。
アスト様は変態である、と。




