25 湯郷理想郷計画 ユートピア
どうしてわたしが困るのか、わかったわ。ずっと考えないようにしていたのよ。わたしに足りないのはわたしだわ。ロブルタの事も、バスティラの事も全てに関わって大変なのは、わたしのかわりがいないからなのよね。
誰よりも王樣としての資質があるのに、わたしに全部丸投げで、自由気ままに動く先輩が元凶なのだ。まあ先輩にはそのまでいてほしいので、仕方がないのよね。
ヤムゥリ様も、自分を見下した親族を見返すためだけに女王になったようなもので、有能なのにわたしが来るとすぐにサボるのよ。
「それは君が口うるさいからでは?」
うっさいのは眼鏡エルフの貴女よ。まったく、エルミィもロムゥリに留まるのは嫌がった。わたしの側でずっと助手でいいとか、助かるけどね。
そんなわけでわたしはわたしに替わるものをまず造ることにした。
わたしには聖霊人形、もう特技になっている人材創出の技術がある。吸血鬼族が入り、フレミールが真竜化して、セルケトも加わったのでわたし以上の能力も期待出来るわ。
いっそムキムキにして先輩につけて、わたしにとって替わらせるのもありね。なにかエルミィとヤムゥリ様がジトッとした目で見るけどいいじゃない、わたしと似たようなものなんだからさ。
いろいろ混ぜてみたら魔力がとんでもなく高く、わたしに似たような少女が生まれた。わたしを造ったのだから当たり前か。
「貴女は今日からカルディアと名乗りなさいね」
わたしにそっくりな聖霊人形なんだけど、わたしと違い、両肩には真火竜の大咆門が内蔵されている。いざというときの切り札だけど、使い方を気をつけないとロムゥリの街を消し飛ばしちゃうから気をつけてね。
「さっそくだけど、カルディア。先輩達が戻って来たら、わたしのかわりに吸魔の里に一緒に行ってちょうだい」
カルディアが先輩のお守りをしてくれれば、わたしはのんびりお風呂を楽しみながら、ものづくりライフの日々が送れる。
エドラからロムゥリそしてプロウトの港町まで水路を繋いで、遊覧船ならぬ湯覧船を造ってのんびり船旅もいいわね。
「それは致しかねます、御主人様。先輩樣のお相手は御主人様の務め。湯郷理想郷計画並びに湯覧船計画は、このカルディアが承りました」
あっ、この娘拒否ったよ。それに、勝手にわたしの湯けむりウハウハ案を現実的な計画に仕立てようとしてる。
「カルミアの心の渇望が、反映された結果じゃないの。だいたい君を基本にして、言う事を聞くわけないよ」
「なんで自分の事なのに、わからなかったのよ」
「その通りでございます」
ぐぬぬっ、ヤムゥリ様と眼鏡エルフに追随するカルディア。小馬鹿にされた感じがして悔しい。これって、わたしの分身を造ったのはいいけれど、政務に関しては、ほぼ役に立たないって事よね。
自分に腹が立つ。でもわたしってこういうやつなので、悔しいけど何も言い返せない。みんな、なんでこんな、わたしに良くしてくれるのだろう。
人のふり見て我がふり直せっていうけれど、わたしはわたしを見て反省したわ。
◇
「そういうわけで商業ギルドを立ち上げてギルドマスターとして、ロムゥリの長官を兼任して下さい、アミュラさん」
ちょうどいい所に来訪したアミュラさんに、商業ギルドの新設とギルドマスターの就任要請、ついでにロムゥリの都市管理の長官を依頼した。仮のギルドはつくってあるのよ。でもヤムゥリ様が大半の職員をエドラに連れて行くからね。
「意味がわからない」
そんなに難しい話しをした覚えないのに、きょとんとされた。言い方が悪かったのかな。
「ロブルタと、エドラを結びプロウトを外洋の玄関口に持つロムゥリは、金の成る都市になると思いませんか」
「思う」
商人には商売の話しをするべきだったわね。商人なのに口数が少ないから押せば行けそうに見えて、結構すっとぼけるのよね。
あの変態女商人より、手強いようだけど、儲かる話には食いつきがいいのは知っているのよ。目に光が宿ったもの。
「先に言っておきますが、この国はいずれ香辛料と、茶葉の産地になります」
わたしが香辛料を異常に使用して常に欲するので、ヒュエギアが農産物の増産計画に、香辛料を加えたのよね。茶葉は先輩が教えてくれたけれど、実はロブルタの数少ない特産品だった。
「大地に所縁を持つ種族が総力を上げて育てた嗜好品となります。他の大陸へと売り出した際の利益は計り知れないと思うのですよね。ギルマスになれば······あとは言わなくてもわかりますよね?」
ぬっふっふ〜、こんな美味しい条件を逃すようなら商人やめたほうがいいわ。
「わかった。ギルマスになる」
ロムゥリの商業ギルドのギルドマスターになるという事は、ロムゥリの長官も兼任することを認めたと言う事。私腹を肥やしてもいいから、管理と防衛はしっかりお願いしますね。
領主としないのは、いずれ先輩が帰還した後、ロムゥリが王都になるかもしれないためだ。ロブルタよりも良い位置にあるのよね、このロムゥリの街って。
これはアミュラさんの独断だったらしく、彼女が身支度を整えにクランに戻った時に叱られたらしい。もう契約は交わした後なので、魔女さんが文句を言いに来ても遅いのだ。
腹心にカルディアを置き、蠍人の戦士アクラブの魂を招霊君に呼び、蠍人戦士人形へ移らせた。十数名の部下も招聘に応じたので、戦士人形にて復活させる。蠍人器械兵と違い、自我を持ち、聖霊人形より戦いに特化していた。
アクラブは、敵ながら武人として芯の通った蠍人だった。セルケトのため同胞のためならば喜んで働くことを誓った。
ただ守るのはエドラの地ではなく、いまはロムゥリなのだけど、彼らは構わないそうだ。
ロムゥリの人々は少し複雑そうにしていたわね。でも、はぐれものの蠍人がロムゥリに来た時に、知った戦士達がいれば戦闘をしないで済むわよね。
蠍人戦士人形にもハサミに小火竜咆門を仕込んである。先輩の魔銃のように魔力弾丸を発射、連射可能なので対空兵器にもなるのだ。




