18 滅びた王都
メネスに連れられやって来た冒険者は、商人のアミュラさんが所属するクラン【星竜の翼】の仲良し三人組だそうだ。
「本当に本の扉から行けるんだ」
リーダーっぽいオルティナさんが、自分達の出てきた魔本の扉を見て、感心したように言う。
「はじめまして、皆様。【星竜の翼】に所属するオルティナと申します」
皆様、といいつつもしっかりと王族である先輩に向けて挨拶をしていた。ヤムゥリ王女樣は、公式上は元王女樣なのよね。
「ガリアと申します。今回の戦いに助力するように、依頼されました」
「マーシャです。我々三人をそちらの作戦の一画に、組み込んで頂きたいと思います」
あの冒険者達に比べると、凄くまともそうだわ。アミュラさんの紹介で良かったわ。
「うむ。いまは有事、敬語も敬称も不要だ。楽にしたまえ」
相手が年上の実力ある冒険者達でも、先輩は変わらない。立場は先輩の方が上でも、他国の冒険者が立場を重んじるかどうかは別だからね。
「では、殿下、楽にさせていただきます」
どうも癖の強い冒険者クランのようね。なんで三人とも剣がメイン武装なのかしら。装備を見ると弓と槍と盾を使うように見える。
「あぁ、これは私達が【不死者殺しの剣聖】アリル様に憧れ冒険者をしているからよ」
わたしの視線にいち早くガリアさんが気づく。隙がない。冒険者としての基礎能力は、冒険者達の方が上だ。でも、よく鍛錬された人の動きが洗練されていて、一対一ではヘレナやティアマトでも勝てなそうだ。
魔女さんの見立てでは、援軍なしではキツいだろうと送り出したのが彼女達なのだ。
「それならデカブツの足止めをする為に、わたし達の補佐をお願いします。メネス、貴女はヤムゥリ王女樣とシェリハさんの護衛を頼むわよ」
オルティナさんのお仲間さんに回復術師が、いたようでメネスを癒やしてくれたようだ。ロムゥリと、プロウトに人を派し、すでに港町方面では蠍人の軍団と交戦中という。
危惧していた面を魔女さんが補ってくれたみたい。魔女さんではなくて、依頼したのはクランのマスターらしいけど。
「ただじゃないですよね」
痒いところに手を出して、何もないわけがない。
「三体の巨大な蠍人の魔物のうち、一体分を我がクランに丸ごと寄越せ、だそうよ」
随分と高い報酬よね。足元を見てると思うけれど、その話しに乗った。わたしたちだけでは、ロブルタの国を守りきれないと思うから、こうして攻め手に回ったんだもの。この機会を逃すわけにはいかない。
「個人的に、私達からもカルミアさんにお願いがあるのだけど」
何かもじもじして言うけど何かしら。あと、カルミアでいいわよ。
「戦いが終わったら改めて交渉させてください」
よくわからない相談があるのかしら。まあ、いいわ。話すだけならただだからね。冒険者達は話しにならないけど、強い冒険者と知己を持つのは良い事だからね。
欲しかった援軍が来た事で、戦いの目処がついた。デカブツ二体は足止め出来ても、蠍人の強者達の相手まで出来ない状況だったのよね。単調な魔物を相手にするのとは違うのは、この前の戦いでわかっていたから。
シンマの王都に近づくに連れて、緑が少なくなってゆく。土地が段々と荒れて砂地に変わり、蜃気楼のような暗い街並みが遠目に映る頃には辺り一帯が砂漠と化していた。
「異国情緒溢れる土地ね」
そう言いたい所だけれど、この地は暑さで土地が痩せているわけではないのは明白だった。
「前はまったくの砂地じゃなかったのよ。ほんの数年でさらに酷い有り様になったわ」
ヤムゥリ王女樣がぼやくように滅びた都を見つめる。泣いてるのかしら。
「泣いてないわよ。ただ、滅ぶ時はあっけなく滅ぶものねって思うだけよ」
タフな王女樣も故郷が見る影もない姿に変わり果てた事に、感傷的になるらしい。わたしも、田舎町と腐していた故郷が滅ぼされていたから気持ちはわかるわ。
「感傷に浸るのは勝ってからにしたまえ」
先輩から警告が届く。遠目からもわかる巨大な生物の影が見えた。視認出来たその魔物はわたし達を捉えて、毒矢の霧雨の魔法を発動させて来た。
「この距離から魔法攻撃届くの?」
円盤君の外に出て索敵していたメネスが、慌てて中に引っ込む。
「全員結界内に退避。バルスは砂漠の中にも注意ね」
浮揚式円盤君の外を歩くバルスと、上に乗るバステトが円盤君の結界に戻り、砂漠に注意を向ける。
毒の魔法が合図だったのか、隠れていた魔物達が次々に現れて、襲い掛かる。
「バステト、円盤君の上に避難」
毒の雨はまだ消えていない。バルスは円盤君内に入れないので屋根に乗る。一応結界は届いているはずだ。
「王女樣、円盤君を回転させて」
群がる魔物をいちいち相手にしていてはもたない。相手が数の暴力で制圧してくるなら、こちらは殺戮兵器で封殺よ。
「ニャハハ、凄いねィ」
屋根の上から狂人のはしゃぐ声がする。窓から見えるのは、魔物が微塵切りにされる姿だ。
「ねぇ、これって外にいたらどうなるの」
メネスがわかりきったことを聞く。万一円盤君の回転中に、近くに落ちたら魔物達と一緒に物言わぬ殘骸になっているわね。
「私だけ屋根の上に出て戦うのって、魔物が飛びかかって来るよね」
「そうね。バランス悪いから気をつけてね」
「······」
わたしとメネスが無言の会話を交わす間、ヤムゥリ王女樣が半狂乱の状態で、王女樣らしからぬ言葉を発していた。屋根の上では、バルスにバランスを取るのを任せて、バステトが同じように騒いでいた。
「中で戦ってもいいけど、シェリハの指示に従うのよ」
戦う前に泣かれてまた体調崩されても困るので、判断はシェリハに任せた。
戦闘場所が砂漠なのでデカブツに踏まれても、潰れないかわりに砂の中に埋まってしまう可能性はある。円盤君の強度は巨大牛人に踏まれても壊れない乗り物を想定している。だから潰された蟹のようになる事はないはず、よ。
蠍人のやり方は相変わらず同じだった。侵入者に対しても、まずは潜伏させた大量の魔物をぶつける。想定通りなので対処は出来る。違ったのは、デカブツからの魔法くらいね。
わたし達はなるべく浮揚式円盤君で魔物の相手をして体力を温存し、デカブツ達のいる滅びしシンマの王都へ入った。




