17 狂信者達の隠し財産
アミュラさんの様子から、冒険者達の援軍は期待出来なくなった。あてにはしていないけれど、手間を押し付けられた気分で不愉快だった。
「我々はその冒険者でもあるのだから、構わないではないか」
呑気で無邪気な先輩は、シンマ王都への道中も楽しそうだ。王族ってこれだから困る。危険を顧みず難敵に挑むのは、冒険者達のような金級以上の、英雄の域に入っているような人物たちの仕事なのよ。一介の冒険者は、なるべく危険は避けて楽して稼ぐのが仕事なのよ。
「その認識も大概だと思うけど」
眼鏡エルフがボソッと呟く。いいのよ、それくらいの認識で。生命を落とすかもしれない戦いに挑むというのに、倒したところで報酬なんてないのよ? 先輩やヤムゥリ王女樣の名声は上がるにしても、名誉なんて讃える人がいてこそ栄えるものだわ。
「極論な気がするのに、貧乏なカルミアが、言うと説得力が出るな」
ティアマトまで何やら茶化す。この娘も世間一般からみればお嬢なのを忘れそうだわ。
通り抜けたシンマ領の荒廃ぶりを見ると、ロブルタの受けた被害を思い出す。わたしの仲間たちには大地の魔法だけではなく、植物に強い人材が揃っていたので復興は早く済んだ方よね。
それでもわたしの暮らしていた田舎町など、放棄されたままの土地はまだまだあるので早く復興に力を入れたいものね。
ここまで蠍人の軍団が多いと、壊滅した街に住み着く盗賊山賊の類いも、貴族たちと一緒に逃げ出したようだった。逃げて来た難民に紛れて、賊徒の連中が少しはいたかもしれないけれど、農園でみんな大人しく働いていたから放っておいた。
「ロブルタもシンマも荒れまくっていたから、ろくでなしの商売も立ち行かなくなっていたのかもね」
それにしても、シンマの領内は荒れた地が多い。蠍人のせいで酷くなったのではなく、最初から土地が痩せて生活が成り立たなくなっていたんじゃないかと思う。
「どうしてそう思うのかね」
先輩も気になったみたいね。砂漠化しだしているのもあるけれど、
「魔力が全体的に乏しいのよ。あれだけの蠍人や魔物を生み出す力が、どこから得られたのか、その答えを見せられているみたい」
異界の強者の数も多かったし、国として随分とやりたい放題やらかして来たせいもあるわね。その積み重ねの惨状がこの景色なわけよね。
「ヤムゥリ王女樣、シンマで異界の強者達はどうやって呼び出されていたかわかるかしら」
「魔法陣よ。儀式召喚というやつ」
大地の力を吸い上げて、魔力の贄として使う。強力な魔物を呼ぶように、異界の強者を呼んだ、いえ力を与えて従わせたが正しいかな。
「何かわかったのかね」
「ええ。この壊されて焼けた建物の跡地にほら、隠し通路があるでしょう」
荒らされた大きな建物だったところの床板などを剥がすと、地下への入口が見えた。ロブルタにもあったわよね。信徒が潜んでいた地が穴だらけにされていた所が。
「ダンジョンなのかね」
「どちらとも取れるわ。魔力がさほど感じられないから、地下に造られた祭壇じゃないかしら。メネスを連れてくれば良かったわね」
こういったところの調査は、メネスやタニアさんが適任だ。魔力のないところではティアマトの鼻は効かないものね。
「むっ、そんなことはないぞ」
気合を入れたティアマトとエルミィがバルスを連れて調査に向かう間、わたし達は休息する事にした。街道から外れた街なので、侵略者の首謀者たちがまともなら、滅ぼした街へ再び軍は派遣しないはず。
「祭壇の在り処を探していた可能性はないのかね」
さすがは先輩。着眼点がいいわよね。
「可能性のありなしで言えばありよ。この建物だけ壊し方が不自然でしょう?」
たぶん、シンマの召喚士たちがあえて壊して逃げたと思う。蠍人のやり方を見る限り、先遣隊は魔物なので、残っていた人を襲うのも、建物を壊すのも全部魔物の役割だと思う。
それだと壊れた建物は荒らし直さないと思う。床板が見えていたのは蠍人が後から調べに来た証ね。
「大地の枯れようから、目星をつけていたのかもしれないわね」
巧妙に隠してあるというよりは、ずっと使われていなかったんじゃないかしら。伝承だけ伝わっていて、危機を迎えた際の処置を施して逃げた。
「大地の魔力が、枯渇してるのに蠍人たちは何が欲しかったの」
先輩の側で見張りに立つヘレナが疑問を呈した。
「ヤムゥリ王女樣の言っていた、魔法陣そのものよ。たぶん別な異界への門ね」
悪しきものたちも邪なるものたちも同じ侵略者だけど、どうも見知った仲間でもなさそうだった。わたしがあいつらなら、この世界に侵攻する上で手を結ぶとしても、味方の内に弱みは握る。優勢になった段階で、不意を付いて滅ぼすのが一番効率良いと思う。
「あんた、ほんとに庶民だったのか疑問よね」
ヤムゥリ王女樣が酷い言い草だ。また絞ってやりたいところだわ。ブルッと身震いする王女樣。
「おっと、予想した通りね」
ティアマトを焚き付けて行かせた甲斐があったわ。持ち運びきれなかった大量の異界の強者用の装備に、魔法の道具、金貨や銀貨などみつかったみたい。
「ねぇ、わざわざ街道はずれの街に寄ったのって、これの為でしょ」
ヤムゥリ王女樣が眼鏡エルフ化してる。
「キミというやつは、盗賊がどうこう言ってなかったかね」
先輩とヘレナまでが呆れてため息をついた。先の戦いと今回の分の出費分の回収よ。だいたい逃げ込む難民の食料だってただじゃないんだから、取れるところからキチンと取らないとね。
盗賊の心配も、何もしていないあいつらに、美味しい所だけ持っていかれるのが癪に触るだけだ。
先輩は英雄王の器なんだけど、お金に関して理解はあるけど実感が薄いのよね。予算が勝手に湧いて出ると思っているフシがあるのは、育ちが良いせいね。
ヘレナはわたしと同じ貧乏暮しだったから、悪いやつに迷惑をかけられた分の回収は大目に見るみたい。ヤムゥリ王女樣は自分の統治に必要なら徴収する事に異議はないという、素敵な立場と意志を崩さない。
意外と先輩とヤムゥリ王女樣って、統治するのに相性が良いのよね。まあ、二人に王道を貫かせるのなら、汚れ役が必要なわけで、それがわたしに回って来たというだけよ。
「まあ、そういうことにしておきたいのならそうしたまえ」
先輩はそういうと、わたしの首を狩る。あの、言葉と行動が合ってないんですけど。
「泥を被るなら、僕もヤムゥリも一緒だ。水臭い真似はよしたまえ」
本当に、いい王様向きな先輩よね。ヤムゥリ王女樣も先輩に首を取られアウアゥしていた。
わたしたちが雑談していると休憩していたノヴェル達や、探索に向かったティアマト達が集まって来た。地下の魔法陣や儀式の祭壇などはエルミィがしっかり配置や形式を調べて写し、ティアマトが破壊して来てくれた。
悪しきものの残した遺物なので、魔法陣は罠の可能性もある。ひとまず試す前に、時限爆発式の超特大臭い玉を転送してみようと思った。
敵の本陣に向かっているというのに、みんなでワイワイお喋りしながら食事を楽しんだ。どうせ何処かでわたし達が討伐に来ている事はバレるからね。どうせなら堂々と、派手に進行してあげるわよ。
「祭壇荒らしをしてなければ格好いいのに、残念だよカルミア」
眼鏡エルフが正論でたしなめて来た。わたしの指示とは言え、嬉々として荒らして来たのは貴女よ、まったく。
シンマの王都に攻め入るにあたり、作戦会議を行う。攻略の難が出るのは三体のデカブツに、二人の召喚士、それに邪なるものの配下ね。
「バステトは、バルスと自由に動いて蠍人の将サルガスとシャウラの首を刈るといいわ」
狂人がニィと笑った。この娘の場合は、好きにさせた方が成果を出す。それに自分の力を奪ったやつを、自分の手で始末したいだろうからね。
味方の攻撃に巻き込まれないように、美声君の声をしっかり拾うように注意しておく。
「シェリハとヤムゥリ王女樣は、この新型戦馬車の浮揚式円盤君で魔物を蹂躙してちょうだい」
バルスに引かせて来たのは魔晶石温存したいが為で、実はこの新型は自走式だ。ルーネのテラリウムのように、浮遊しながら外部に取り付けた刃を回転させての移動も可能だ。
仲間を巻き込まないよう操縦しながら、火竜の咆門の砲撃するものと、連射式風樽砲で支援するものが乗り込める。
足りない定員分は護衛を兼ねてごっつ君人形を配備する。
「戦馬車って、もう馬は関係ないじゃない」
ヤムゥリ王女樣が、そうはいいながら新型兵器で殺る気マンマンだ。この王女樣は、こういう時は本当に良い笑顔になる。シェリハは先輩のための従者なのに、病んだ王女樣と組ませてばかりなのが本当に申し訳なく思う。
「そうお思いでしたら、私の分体となる聖霊人形をお造りください」
どこまでも謙虚なのよね、シェリハは。どこぞの先輩も見習ってほしいわ。
「あとはデカブツね。最大三体が同時に出てくることを考えて、わたしと先輩とルーネが二体の足止めをする。ヘレナ、エルミィ、ティアマト、ノヴェル、フレミールが一体を集中して攻撃するのよ」
巨大牛人との戦いと違って、今回は広い野戦になる。それも大量の魔物と蠍人の戦士付き。
手数がもう少し欲しいなと考えていると、メネスからの伝声信号が光る。魔本を開くと、やつれ顔がすっかり回復したメネスと三人の見知らぬ女冒険者らしき人達がそこにいた。




