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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第2章 砂漠の心臓編

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16 商人と不運の滴飴

 ロムゥリの街の防衛後、冒険者(チンピラ)のアミュラさんが補給物資を大量に携えてやって来た。あの女商人(リエラ)はいないようね。せっかくだから火竜の咆門(フレミール·カノン)御見舞したかったのに。


「他の方々は、ローディス帝国に行ったのかしら」


 わたしが訊ねると、表情の薄いアミュラさんの目が一瞬キラッと光った。図星だわね。


「頼もしいね。何か入り用なら、その魔晶石と取引するよ」


 前に来たときからずっと、気にしていたのはわかっていたけれど、露骨に手を差し出したわ、この人。しかも、腰のバックの結び紐を解いて、金塊をチラつかせてる。


 ぐぅッ悪魔だわ、このアミュラさんは。そのバックは明らかに魔法の収納。漂う魔力の感じからバックの十倍の大きさの金塊が入っていそうね。


 わたしは自らの魂を売りそうになった。文字通り虹色鉱石(カルミアタイト)は、わたしの生命そのもの。虹色輝星石(カルミアスター)になったいまは、魂そのものだ。


「でも、残念ね。金塊ごときで魂は売れないわ」


 少し前のわたしなら、間違いなく飛びついたわね。現に、アミュラさんが情報通りいかないことで焦っているもの。少し来るのが遅かったのよ。


 火竜絞りという新たな金の鉱脈を見出した現在のわたしには、無限の富が約束されているのだから。アミュラさんが諦めたように、ガックリと肩を落とす。なかなか素晴らしいお誘いだったと思うわよ。


「どうしたら、それをくれる」


 さすがは商人。提示額での獲得が無理と判断した瞬間に、負けを受け入れ好きな提示額を示せと開き直った。それなら話しは早いわ。


 わたしはスッと手をあげて、アミュラさん自身を指で示した。


「貴女の全てを差し出してもらいます」


 そう、魂を売り渡すのはわたしではなく貴女の方よ。完成したばかりの、火竜も泣いて逃げ出す不運の滴飴(ミセリアドロップ)を飲んで、全てをわたしにさらけ出し、捧げられるかしら。


「これを飲めばくれるの?」


 アミュラさんは、わたしが高笑いをしている手から、素早く不運の滴飴(ミセリアドロップ)を奪うと、ひょいパクした。


 えっ、待って、まだ説明何もしてないのに。フレミール、ヤムゥリ王女樣と試薬を試した結果から、人族用に濃度は薄めるために麦芽糖水飴(マルトゥースシロップ)を加えてシルダレ草の粉末を溶かして固めてある飴だ。


 アミュラさんの顔が次第に青ざめる。わたしは魔本を取り出し、フレミールの特別室へと案内した。原液を五十倍くらい薄めたものでも、充分効果があった。


 ちなみに不運の滴飴(ミセリアドロップ)の試食は、メネスだった。わたしが強要したのではないからね? あの娘が勝手にいまのアミュラさんのように、ひょいパクしたんだから。


 アミュラさんが、さっぱりとスッキリした表情で出てきた。そして無表情のまま再び手を拡げて要求した。


 この人、やはり侮れない。わたしはスマイリー君と貴婦人の嗜みを駆使してアミュラさん成分を回収する。どうせならちゃんとしたものを贈りたいので、少し待ってもらった。


「相性が良いようね」


 女商人リエラ(ヘンタイ)は御免だけど、アミュラさんの成分は貴重だ。新たな鉱石を手に入れ、わたしは虹色鉱石(カルミアタイト)をつくり出す。これにさらに成分を足すと虹色輝星石(カルミアスター)に昇華する。そしてノヴェルに来てもらい、加工しやすいように磨いてもらった。


「契約成立」


 まったく動じないアミュラさん。でも、首飾り(ネックレス)は嬉しかったみたい。商人の中には珍しい宝石を集めている人もいるようだから、アミュラさんもそうした収集家(コレクター)の人なのでしょう。


 気前良く、金塊も置いていってくれた。魔法の鞄はさすがにくれなかったけれど充分だわ。さっそくノヴェルが成形し直している。ノヴェルと同じくらいの量の金塊······?


「カルミア、この金塊は塗装だよ」


 うぐぉ、やられた。お宝の如き輝きに目が眩んで不覚を取ったわ。あの人も女商人(リエラ)と同類かぁ〜! 成分を絞り取っておいてよかったわ。金塊に騙されて取引していたら大損だったもの。


 たぶん、この贋物の金塊は、わざと置いていったわね。あの人、だからニヤついていたのだと、今わかったわよ。変態女商人(リエラ)より優しい授業料だし、おまけでもらったのでいいわ。


 塗装分の金の量はある。贋物に使われている鉱石は、このあたりでは中々手に入らないクロチタンの塊なので助かる。やっぱ冒険者(チンピラ)仲間は一癖ある人ばかりだわね。


 でも、いい成分を手に入れられた。これで聖霊人形(ニューマノイド)を新たに作製すれば、ヤムゥリ王女樣のかわりに、ここロムゥリを任せられるかも。いっそ、アミュラさん本人でも良いかもね。


 それを見越して、アミュラさんが、虹色輝星石(カルミアスター)を要求したのかどうかは不明だけど、困った時のために、繋がりが出来たのが大きいわ。


 良質の鉱石も入ったので、街の警備や農園の防備の再編を行った。蠍の魔物がまたやって来る可能性はあるから、防具や槍など、強化した量産品をまとめて配った。


 シンマの王都へ向かうメンバーが決まった。わたし、ヘレナ、エルミィ、ティアマト、ノヴェル、ルーネ、シェリハ、フレミール、ヤムゥリ王女樣、バステト、バルスだ。


「キミはわざわざ僕を外そうとするね。そんなに首を狩られたいのかね」


 言うが早いか首に巻き付く先輩。狩られたいんじゃなくて、じゃれたいんですよ。そういうわけで先輩もついて来る。


 メネスは突然の体調不良の影響でお留守番になった。タニアさん、モーラさん、ドローラがロムゥリに残る。ガレスとガルフは吸血鬼族とプロウトの港街へ、アルヴァル達はロブルタ農園に向かわせた。


 攻め込む人員は少ないのは、まだ蠍人の軍団がいくつも残っているためだ。動きを見る限り、ロムゥリにまた来る可能性は高い。偵察の吸血鬼族には装備を更新して、吸血魔戦隊(ヴァンプパーティー)の予備隊を編成し運用する。


 ロムゥリとプロウトにそれぞれ戦力を追加してからじゃないと、遠征しに行って都を失ったどこかの国みたいになりそうよね。

※ 2023年9月15日

 カルミアタイト→カルミアスターに訂正しました。プロウトの港街の名前が、何故かロプロスになっていたのも修正済です。

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