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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第2章 砂漠の心臓編

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15 先輩型器械像 アストタイプ·タロス

 正面から向かってくる蠍人の軍団は、十二万まで膨れ上がって来ていた。そのうち魔物が十万、蠍人の戦士が二万いる。


 ロベッタ川の下流域には五万の魔物と五千の蠍人の軍、上流域には七万の魔物と一万の蠍人が侵攻して来ていた。魔物だけで二十二万、蠍人の戦士が三万五千の大軍団だ。


「馬鹿みたいに増やしたわね。例の召喚かしら」


 遠目に見ると蠍の魔物達が黒いアイツみたいに、うぞうぞ蠢いていて気持ち悪い。この簡易の砦も、回転式の砲座台をつけて、地上組が支援に入れるように改修した。


 蠍人達も固まって狙われないように、隊列を組んで動いている。しょせん十万の魔物だろうと虫は虫よ。煙と辛味の苦手成分に移動を阻害され、狙いやすい位置に誘導されて、火竜咆門でズドン、よ。


 もしかしてこいつらわざと? どういう仕組みなのかわからないけれど、召喚した魔物は、この世界に由来する生命扱いなのかしらね。だとすると、呼べば呼ぶほどこの世界の魔力は消費され、生命が散れば邪なるものに奪わるってことなのかな。


「確証はないが、呪いはそのためじゃないかね」


 先輩がいい所に目をつけたわ。回収した素材からわかったのは、魔物はみんな弱いながらも呪われていた。これ、相手へ呪いをかけるためもあるにしても、逆に倒されてもいいようにかけてあったってことだ。


「本当にあいつらは悪意のかたまりだわ」


 う〜、ムカつく。こう、ねっとりあの手この手で絡みつくから腹ただしい。


「それでもやるしかないだろう。さあ、援護したまえよ」


 わかっていても倒さなければ、こちらはもっと被害が出る。先輩はもう割り切っていて、眼の前に迫る敵をまず討ち滅ぼす事を優先して動いた。


「攻撃範囲を広げたいから、ルーネとうまく並んでくださいね」


 一番数の多い中央はわたし達のチームが請け負う。こうなってくるとフレミールが本調子じゃないのが痛いわね。


「誰のせいじゃ、まったく」


 まだ怯えてるけど、フレミールは魔力を使わず砲門を使って支援を手伝ってくれていた。砦を使って戦えるだけわたし達はまだマシだ。


 上流域に向かったティアマトのチームは、急造した防壁から基本的には戦馬車を使ってまずは数を減らしにかかっていた。防壁を利用しながらロムゥリ側へ誘導する。


 下流域のヘレナ達はアルヴァル達の戦馬車を使って移動し、農園からロムゥリの街へ誘導するように戦っていた。下流域は防壁がまだ弱いので、街の外壁まで敵を集めたかった。


「ガレスとガルフが来て、作戦的には助かったわね」


 追い立てる二匹の狼のおかげで、ロムゥリで待機していたシェリハが、遠目から蠍人の指揮官級の戦士を狙撃することが可能になった。


 呪いのせいか、時間が立つと再生する。ただし、その間に指揮は乱れるのは確実なので、ロムゥリの砲撃有効範囲内に魔物の群れを追い込めていた。


「両翼は問題ないみたいね。呪いの蠍人戦士の復帰より、殲滅速度は勝ってるわ」


 農園を守るために、難民の中から選出した義勇兵も参戦してくれている。防壁をよじ登ってくる魔物に殺虫剤や辛玉を落としたり、わたしの仲間かわりに砲撃をしたりと、人手が足りない所を補っていた。


 防壁の切れたあたりには吸血鬼族の戦士達が陣取って、裏から回りこませないようにしている。ロムゥリの街近くは防御も厚いので、この先端の切れ目が今や一番の激戦地になっていた。


「ミューゼ、ヴェカテ、二人ともヴァンプ隊を連れて加勢しに行ってあげて。シェリハ、貴女は上流域側をメネスは下流域側をカバーに入って」


 わたしは戦況の報告を受け取ると、指示を出して再配置を促す。

 中央は一番敵が多いのだけれど、先輩とルーネの二人だけで制圧していた。先輩型器械像(アストタイプタロス)の攻撃力がおかしなことになっていた。殲滅力で言えばフレミールに次ぐ火力を、ルーネが持った状態だ。


「僕も小人化して乗ればよかったな」


 先輩は残念そうに言うけれど、十万の魔物と二万の蠍人戦士をたった二人で相手に出来てるのがおかしいのよ。


「原因は、ルーネが発散する幻覚の霧じゃな。魔物、とくに虫はああいった搦め手を使う植物には弱いからのう」


 なんだか知ったふうに言うけど、いまこの戦場で一番役に立っていない一番がヤムゥリ王女様、二番目がフレミールだからね。


「むぅ、ワレが、魔法を放とうとするのを止めるではないか」


「あたりまえでしょ。最大火力の手の内をそう何度も晒すわけないでしょ」


 たちの悪さは悪しきもの以上かもしれない相手に、切り札を簡単に切る理由にはならないものね。


 敵の本陣に乗り込むならばルーネだけじゃなく、メネス、シェリハあたりは先輩型器械像(アストタイプタロス)の重装型に乗り込ませる手があるわね。火力も補えるし、防御も固い。

 呪いへの耐性と反撃も出来るもの。


 この戦いを切り抜いた後は、おそらく滅んだシンマの王都へ向かうことになるから、デカブツ対策として考えておきましょうか。


◆◇◆


 予想通りというか、当たり前だけどバステトの力を奪った二人の敵将達はロムゥリには来ていなかった。あのアクラブという蠍人が、妙に戦闘好きで出てきただけのようね。召喚師なら本陣に居座り、魔物を量産すれば良いものだから。


 ロムゥリの街はあちらこちらで酷く臭いが立ち込めていた。マスクのあるわたし達は問題ないけれど、ロムゥリの街や、農園は風向き的に毎日キツイ臭いが運ばれて来ることになる。


「か〜る〜み〜あ〜っ!」


 ロムゥリの街へ戻ると、なんだかげっそりした怖い女性がフラフラとやって来た。


「ころしてやる!」


 フラつきながら、やつれたヤムゥリ王女様らしき人物が、ノヴェルの鎚鉾のようなものを振り上げて、転んだ。そんな病んだ状態で、いったい何がしたいのかしらこの方。相変わらず愉快な方よね。


「ヤムゥリ王女様、貴女これからシンマの王都に向かって女王になる気あるの?」


 先輩とこの国をどうするか考えた時に、ロブルタに組み込むよりも、吸血鬼族や難民達を引き連れてヤムゥリ王女様を旗頭に国を再興させるのが一番手っ取り早いとなったのだ。


「えっ、えっ? どういうこと?」


 もうわたしへの殺意など忘れたようだ。お気楽だけど、いいわよね分かりやすくて。


「ヤムゥリ様を女王として、逃げた旧シンマの王侯貴族を排除してもらいたいのよ。受け入れたいのなら構わないけれど、貴女が放逐された時にどうなったのか覚えているのでしょう」


 ヤムゥリ王女様がニンマリした。素敵な笑顔よ。この方、元々身内にも情が薄いし、貴族達には見捨てられて恨みさえあるからね。


 なんだかんだ下々のものには優しくて、今回だって体調を崩しながらも駆けずり回っていた。幽鬼のようにげっそりした王女樣の姿に難民達も奮起したものだ。


 この戦いで勝因を上げるのなら、ルーネの先輩型器械像(アストタイプタロス)に次いで、精神的な面で活躍したんじゃないのかな。それまでの働きは最低だったけど。そうなると、やはりフレミールは最下位ね。


「思い出した。アンタが病身のわたしを無理やり駆り出させたんじゃないのよ」


 先輩と違って、やつれて力ないヤムゥリ王女に首を狩られた。さすがにわたしでも今のヤムゥリ王女樣の力には勝てる。でもなんでかしら、泣いてるのでそっとしておくわ。病身の原因もわたしなのは忘れたみたいだからね。


「民衆の心が嬉しかったみたいだな。僕にもわかるよ」


 二人とも、そういうの気にしないまま来たけれど、本来なら人々に敬われ祭り上げられておかしくない立場なのよね。


「王族をこき使うキミがそれをいうのかね」


「そうよ。だいたい、女王の座にはつくわ。でもアスト様を立てることには変わりはないからね」


 ヤムゥリ王女樣はとにかく自分を見捨てた親族に、ざまぁみろって言いたいそうだ。身内が再び国土に舞い戻らないためなら、なんでもするつもりだった。


 その意気は買うし協力するから、そろそろ腕を離して欲しい。いろいろ出し切って軽いけれど、先輩が拗ねると面倒臭いからね。

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