11 テラリウムキャノン
蠍人の兵隊が三千人と蠍の魔物が一万近くで侵攻して来た。逃げるシンマ王国の人々を、追いやる内にロムゥリを見つけやって来たようだ。
すでにシンマ王国の貴族達は逃げ出しているので、シンマの民衆は狩りの獲物のように扱われていた。
吸血鬼族を始め、最初に逃げ出したものたちは運が良かったのかもしれないわね。シンマの王都を中心に、円が広がるように蠍人の侵攻が進んでいたからだ。
吸血鬼族の偵察隊が周辺域を調べた限りでは、八方に展開した軍が先行の軍と本軍、後詰めと三部隊に分かれていたそうだ。
「八方に蠍人が一万ずつほど、魔物がおよそ三万ずつ······その他に主力がいるわけね。ロムゥリに向かって来そうなのは、最大で五部隊かしら」
防衛の最中に、続々と援軍がやって来そうね。シンマ軍の時と違って、大軍な上にこのロムゥリを破られたら、ロブルタ王国には現状余力がない。
こうも不運な状況が続くのは、この地がいまだに悪しきものの呪いから解放されていないのだろう。そろそろわたし、お休みをさせてほしいわよ。
総勢二十万もの軍が攻め寄せてくるかもしれないって、有効攻撃武器の生産がわたしと、エルミィしか出来ないって、無理よ。
「······というわけで、みんなにはわたしの作ったあなた達の専用釜で、浮揚式鉢植砲の弾丸を作ってもらいます」
「また、わけのわからないものを」
眼鏡エルフめ、貴女が泣き言ぼやくから手数増やしてるのに、文句ある?
「これはルーネの浮揚式鉢植君だね。どうするつもりなのか説明したまえ」
先輩に献上した錬金釜は、なんかロブルタの王宮に国宝扱いで飾られていてここにはない。先輩が遊びで何か使う時は、わたしが貸し出していた。
「ぬっふっふ、簡単な事ですよ。手数が足りないなら、自分で増やせ作戦です」
戦馬車では囲まれた時に動けなくなる。狂信者達の時は逃げながら戦えたし、冒険者達がいた。しかし、この戦いは退けないし、本国からの援軍は期待出来ない。
逃げればロムゥリの街では守って戦えるけれど、せっかく築いた川沿いの農園と、新たな民が襲われるから、時間稼ぎも難しいという。
「飛翔して戦うのは先輩と、ルーネが操る、飛翔型先輩聖霊人形の連隊ね。ノヴェルとバステトには吸血鬼族の戦士で人化のままでも飛べるものを率いて援護してもらうわ」
浮揚式鉢植砲は、いくつも浮揚させて相手からの攻撃を防ぐ盾にも使う。地上でまともにぶつかりあっても、数の暴力で負ける可能性は高い。
魔晶石をセットして、先輩の怪光線とフレミールのブレスを合わせた炎熱集束砲も備えつけておくのだ。とにかくこの戦いは手数だからね。
これで上空から範囲攻撃を仕掛けまくればいける。虫の習性なのか虫人系って、固まって動きがちなのよね。だから先輩達が上空から攻撃を仕掛ける時には、地上にいるわたし達の目にもなってもらうのだ。
「ヤムゥリ王女様とシェリハそれにドローラとタニアさんにモーラさんにはロムゥリの街を守ってもらうわ。でも浮揚式鉢植砲の弾丸は作製してね」
街の防衛にはアルヴァル達に戦馬車を引かせて防衛させるけれど、弾丸や砲弾のストックは必要だからね。
「フレミールは魔力釜を壊すから、わたしの補助をヘレナとティアマトとメネスは魔力を半分は残しておいて」
万一、ロムゥリに先行部隊が突出さしてやって来たときに、全員魔力切れで迎えるわけにはいかないので、交代で休憩と待機させた。
わたしは一人あたり二十個以上の浮揚式鉢植砲を用意した後、弾丸より範囲のある砲弾作りをした。
川沿いの農園には防柵程度しかないので、フレミールがノヴェルを連れて戦馬車で防壁に強化しに行った。排水路を掘り機能を高めたので、ノヴェル人形のストック全てを出して砲門と一緒に配備した。
「先輩、シンマの民衆の義勇兵の数はどれくらいになりましたか?」
「三千と少し、だな。もっと集めるのかね」
「自衛する分にはそれで充分ですよ」
吸血鬼族の戦士達には、ロムゥリの街を固めてもらい、遊軍として動いてもらうことになった。
時間をかけて帝国経由で故郷に帰ることも出来たし、わたしの故郷に逃げることも選べたのに、彼らは一緒に戦う道を進む。
なんか、変な視線が増えた気がするけれどあなた達全員の分は無理よ。ねだるなら隊長格ではなく、魔力のある王族を差し出しなさいな。
成分をたっぷり絞り取って新たな錬金釜を作れば、必死こいて魔力を練り上げて作らなくても相性の良いものが作れるからね。
まったく、魔族という人種は変なのが多いから扱いが難しいわ。協力的なのは助かるから文句は言わないけどね。
先行して空から偵察してくれた吸血魔戦隊の一つが戻る。彼らの報告で、いよいよ蠍人の軍団がロムゥリの領内へ進軍して来たとわかった。