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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第2章 砂漠の心臓編

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10 先輩を包もう

 蠍人との戦いで怖いのは毒だ。これに対抗するには、解毒薬が必須だろう。わたしは吸血鬼族の装備作りに忙しいので、薬をエルミィに作ってもらう。


 装備品も薬も素材が足りなくなるだろうからと、メネスとモーラさんが何人かの吸血鬼族を連れて集めに行ってくれた。


 それにロブルタ王都の農園からヒュエギアが、大量の素材を魔本の倉庫に納めてくれた。農園で育てたもの以外にも、王都の学園から管理のおじさんが運んで来てくれたらしい。

 ありがとう、おじさん。卒業しても気にかけてくれて、嬉しいわ。

 先輩の代になったら、王都の農村の管理を任せてもいいかもね。


 蠍人のデカブツ巨大蠍人(アンタレス)の毒は無視よ。そんなの毒がどうこう以前に、刺された時点で身体ごと貫かれ潰されて即死よ。


 有効なのは殺虫剤に炎かしらね。魔力の弱い個体は焼き尽くせばいいからね。それに魔力の高い個体も、硬い外殻が仇になって蒸し焼きになるらしい。

 デカブツにはフレミールとヘレナそれにティアマトに軸になって戦ってもらうとして、さらに二体もいるのよね。


「先輩は止めてもついてきますよね」


 わたしの作業中に飽きもせずにまとわりつくのは大半が先輩とノヴェルにルーネ、最近は狂人だ。ルーネは先輩にくっついて来るから仕方ない。ただノヴェルとバステトはともかく、先輩は忙しいはずなのよ。


「ロムゥリの街に関しては、全てヤムゥリに任せておけばいいのだよ。僕は対外的な面だけ請け負う」


 ヤムゥリ王女様が悲鳴を上げて、人手を求めている声が聞こえる。昔と違って吸音装置は外しているから、先輩の耳にも聞こえているはずなのに。

 わたしと同じで都合の悪い事は聞こえないのね。


「まあ、政治的な事はともかくとして、ついてくるなら先輩の武装に害虫駆除器をつけ加えますよ」


 先輩は両腰に二丁の拳銃と、足と胸の間に一丁ずつ魔銃を持つ。胸部からも怪光線が出るわけだけど、さらに両腕の手甲に炎殺虫剤と氷殺虫剤を放射出来るようにした。

 ティアマトにも同じ装備を持たせている。あの娘の場合は氷炎両方の魔法が使えるけどね。


「ほう、これはいいな。ただ、まだ弱い。もっと火力をあげたまえ」


 わたしじゃないのだから、この火力でデカブツに挑む愚はわかっているみたいね。


「腕全体を熱耐性にしているので、火力をあげるなら全身を包むことになりますよ?」


「構わぬよ。キミに任せる」


 一体型服(ボディスーツ)を使うよりも、全身タイツ(フルラップウェア)で身を護る。ただ汗を吸うから黒パンと同じ機能で、保湿というか水分を保たないと、先輩が干からびちゃうわね。


 水分をたっぷり含ませたミズネ茎とウスラバカミの皮をシルダレ草と一緒に溶かす。先輩用なので、シルクロウラ―の糸に混ぜ込み、魔晶石と一緒に錬成する。魔晶石は先輩のものと、シェリハのものだ。


 先輩はノヴェル達と一緒に大人しく待っている。なんというか殺風景な錬金術室の質素なソファで、黒パン一丁の女性がこの国のお世継ぎ様なんて誰も思わないよね。


「先輩、試着してみて下さい」


 ノヴェルとバステトと一緒に、新しい魔本の制作を手伝っていた先輩が素直に試着した。全身タイツ(フルラップウェア)の基本色は白だ。万一蠍がひっついても目立つからね。

 誰に見せるのかは置いておいて、黒パンと黒ブラが透けて、大人の魅力もアップよ。


「着心地はどうですか。品質の良い生地に仕上がったと思いますが」


「うむ。これは、夏の暑い時に気持ち良いな。予備を作っておきたまえ」


 気にいったみたいで良かったわ。ルーネに使わせる先輩人形(アストゴーレム)には、性能は同じでも安い生地にしておきましょう。


「我輩の分も作れよィ」


「おらも着るだよ」


 はい、知ってますよ。全員分を作る流れになるのよね。先輩の着替えの予備を作るとして、みんなの分は予備は無理よね。だって、シルクロウラ―の糸は高いのよ。


 王家への献上品を融通してもらってるから、わりと贅沢使い出来るだけ。宮廷錬金術師様々なんだけど、なんかちっとも裕福になってないわよね。


「問題が次から次へと起きているからだろうね。蠍人の件が片付く頃にはロブルタの収益は見違えて上がるはずだ」


 先輩の言う通り、魔物の大暴走(スタンピード)と戦禍のダメージはある。しかし、派閥がアスト王子派のみにまとまった事で、賄賂や横領などの悪事が減り収益が確かに上がっていた。


 そういうのが政治の難しいところよね。被害を大きく受けた所が、シンマ王国と繋がっていたのは皮肉というか、悪意あるもののせいだけど、バステト達を使役して、蠍人を送り込んだ邪神は何を狙っているのだろう。


「あれも異界の住人ねィ。この世界を一度逃げ出した輩の一人さァ」


 狂人、いまさらそんな重要な話しを何でするかな。やっぱ悪しきものと同類なのか。邪神というか邪なるものでいいわよね。つまり、巨大蠍人(アンタレス)は、その手先に過ぎないって事でしょ。違うのかしら。


「戦いになって、そんな存在に打ち勝てるかどうかは疑問だな。侵略が目的なら、僕らが逃げて解決するものでもなさそうだ」


 そう言いつつ先輩、冷静ね。あぁ、冒険者(チンピラ)達がまた来るのはそのためか。いろいろと納得したわ。それもこれも魔女さんの手引きなのか、別に思惑を持つものがいるかもしれないとしても、彼らにそちらは任せましょう。


「わたし達は、デカブツを含めた蠍人の侵攻を防ぐのに全力を尽くすしかないわね。先輩の装備の改修が終わったら、ヘレナ達の装備も更新するわ」


 吸血鬼族が入ったので、魔晶石はなんとかなる。昔に比べて付与なしでも魔力はかなり上がっているのに、毎日魔力が枯渇するまで錬金し続けているのは何でなのかしら。


 ええぃ、こうなったらヤケよ。先輩とルーネとフレミールだけでなく、全員空中浮揚を一瞬でも出来るように改造しちゃえ。


 先輩の全身タイツ(フルラップウェア)を一度回収して関節部分に耐衝撃素材(ショックアブソーバー)を追加でつけた。上から着る服や鎧などにも付加するけれど、強い衝撃から守れるようにしておいた。


 デカブツの一撃は絶対回避必須だけど、あいつらの攻撃で飛散る巨石からのダメージも減らしたいからね。


 帯同する吸血鬼戦士の分はエルミィに頼むことにした。エルミィからも悲鳴が上がりそうだ。わたし達より基本装備の性能は落ちるけれど、蠍人や蠍の魔物への特化させておけば手数が増えるものね。


 エルミィもこの所の錬金漬けで嫌そうだった。名目上は助手なのよ、貴女は。だから、わたし同様に、魔力がなくなるまで頑張るのよ。

 2023 8/17 ロブルタ王都の管理のおじさんの手助け小話を追加しました。

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