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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第2章 砂漠の心臓編

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8 人形兵士と死激辛玉

 食糧問題は解決した。どういう使い方で配給するかは、ヤムゥリ王女様に一任する事にした。

 暴徒化して群がられても危ないので、配給を行う兵士の荷馬車ごとに、十体の人形兵士(ゴーレムポーン)をつけた。


 今後ロムゥリにやってくる難民は増え続けるのがわかっているので、兵士を増員しないと守備も監視も追いつかなくなる。

 人形兵士(ゴーレムポーン)なら、魔晶石で補えるのがいいわよね。わたしとエルミィが手分けをすれば、数を増やし威嚇にも使える。


「配給する兵士を十人使っていたところを、人形兵士(ゴーレムポーン)を使って補えれば三人くらいで回せるからね」


 ごっつ君より戦闘能力は落ちるけれど人形兵士(ゴーレムポーン)は、元の素材が基本の土人形(ゴーレム)だ。基本素材が土なので、作成費用も安いし入手は簡単だ。指揮権は、巡回の兵隊さん達にもたせた。さらにその上位の行使権をメネス、ルーネ、シェリハ、ヤムゥリ王女様に委ねている。四人は人形を操るのが上手くなっているので、防衛人数のかさ増しに向いていた。


「フレミールの炎を理解していれば、仕掛けて来ないと思いたいけれど、人間って都合良く物事を忘れるからね」


 プロウトの街の出来事も前戦の噂を聞いて、平和に話しをしていけば起こらなかった悲劇だもの。

 ここでも起きない保証はないから、見せかけの戦力を誇示するのは必要な事なのよ。


「カルミア、農園からドローラが来たよ」


 農園から伝声が届きノヴェルが魔本を開く。収穫したシトロンの実と、こちらの気候に合わせた種を魔本の倉庫にしまって木人族(ドライアド)のドローラがやって来た。


 ヒュエギアからは、ロムゥリを流れるロベッタ川流域を一大農園にすべく指南書まで用意されていた。

 ドローラとノヴェルとルーネ、それにティアマトとフレミールがいれば、森林を作って肥料となる良い土をつくることも可能だ。


「出来れば上流域を森にして、吸魔族の生息地の夜魔の森まで繋げたいわね」


 ロブルタからシンマの領地は、先の戦い以前から荒れた土地が多い。原因は、間違いなく魔力を奪われていたせいだ。ロブルタ王国は徐々に回復してゆく目処はついたけれど、シンマ王国側は、蠍人達の親玉を排除しない限り難しいわね。


「そうそう、殺虫剤も作らないと」


 特製辛苦粉(スパイス)も効くけどカカシラの辛味成分を、虫や獣が苦手にするから嫌がるだけなのよね。

 街の周囲に近づかないようにするなら、土地にあった虫や獣の嫌がる樹木や植物を植えた方が早い。それは都市づくりの一環として、蠍人の件より前に各街に触れを出していた。


 殺虫剤がどこで効くかわからない。木人族に枯葉剤が効くように、虫人族には殺虫剤は効くと思うのよね。枯葉剤を試しに作ろうとしたら、ドローラに巻き付かれた。


「カルミアさま、なにを作るおつもりですか?」


 最近はわたしを主として敬ってくれるけど、やってる事は先輩と変わらない。ルーネも枯葉剤は嫌いだから、作ろうとするとマンドラゴラを召喚してうるさいのよね。抗議の声のレベルが酷くて作るのに苦労する。


「殺虫剤の成分に欲しいのよ。成分は変質させるから貴女達が触っても枯れないわ」


 疑わしい目で見てる。ルーネもいつの間にかふよふよして怖い目で見ていた。


「離れて、離れて。作成過程で触れたら流石に貴女達が危険よ」


 わたしの魔本の錬金術室から出てしまえば問題ないので、部屋から追い出す。ノヴェルに手伝ってもらい、大量の殺虫剤をいっぺんにつくっておく。毎回やいのやいのされるのは面倒だからね。


 出来た殺虫剤は先輩や砲門の弾丸にしたり、エルミィなど弓矢を使うものが鏃に塗布しやすいように瓶につめた。どれだけ効くかわからないけど、辛味成分はどのみち嫌がらせにはなるからね。


 人形兵士(ゴーレムポーン)には、対生物万能兵器の死激辛玉(デンジャー)君を装填した。

 いうこと聞けない難民とか、数で暴れ出した時に配給の兵士さん達を守るためだ。蠍人が生き物である以上、刺激物からは逃れられない。


 作っておいてなんだけど、辛味って対生物に効果が高すぎるよね。獣よりも意外と虫って視覚、嗅覚が強いのよ。蠍は虫なのか蟹みたいなものかよくわからない生き物だけどね。



 逃げできたシンマの民の大半が、農民や小売の露店商などだったので、ヤムゥリ王女様が農作業へ仕事を割り振っても文句は出なかったそうだ。

 いまは自分達の食い扶持を自分達で作るしかない。作業をすれば食事にありつけるとあって、難民達はこぞって働いていた。


「プロウト候爵領方面への街道の整備と、商人には商業ギルドをつくらせたまえ。事務官の一人を臨時の責任者に置いて、戦後帰郷する人々と定着する人々の割振りを任せられるように準備するのだ」


 計画を実際に立てているのは先輩だ。この人、いっつもわたしの側で暇そうにくっついているけれど、やるべき指示はしっかり出してるのよね。

 

「なにを言ってるのかね。指示の半分以上はキミかエルミィの意見じゃないか」


 わたしもエルミィも、立ち位置は参謀だから好き勝手に言っているだけよ。意見を聞いて、採用して実施するかどうかを決められるから先輩やヤムゥリ王女様は偉いのよ。


「皮肉に聞こえるのは気のせいかしら」


 ヤムゥリ王女様は伝えているだけなので、褒められても嬉しくなさそうだ。いない時の手際をみれば、有能なのは間違いない。


「そんな事はないよ。布告した事で問題があれば、真っ先に責任を取らされるのはヤムゥリだからさ」


「何よ、それ。私がただの使い捨てみたいじゃないのよ」


 眼鏡エルフが余計なことを言うから、二人が喧嘩になった。事実だから仕方ないのよね。王女様は精神力が強いので、そうなった時でも乗り越えられそうだ。



 配給で釣り、仕事を与えたのでロムゥリの街に陣取る人々の群れは消えた。おかげで原因の一端をつくった吸血鬼達の一団を、堂々と迎えることが出来たわ。


 戦力としてあてに出来るものにはロムゥリに残ってもらいたいものだけど、吸血鬼達の食事って、やっぱり血なのかしらね。聞いておかないと、あとで困るわ。ようやく街も落ち着いて来た所なので、出来れば採血は控えてもらいたいからね。

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