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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第2章 砂漠の心臓編

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6 食糧問題

 わたし達は国境沿いの街を回って、各街の防衛体制を強めた。防衛体制を築くのは二度目なので慣れたわよね。でもノヴェルが強化した壁でも、巨大な魔物に対して防壁がどこまで役に立つのかわからない。


 ないよりマシというか、どちらかといえば暴徒と化したシンマ王国民への対策になる。成長しきっていない巨大牛人(アルデバラン)でも、あの強さだもの。それより大きい蠍人なんて、一般兵で止められるわけないわよね。


 ロムゥリ領へ戻ると、外壁周りはシンマの王都近郷から逃げ出して来た難民でいっぱいだった。城門前は血痕で汚れているから、小競り合いやいさかいがあったのがわかった。


「派手にやったようね」


 わたし達の馬車が入って来ても難民が押し寄せる事はなかった。道は開いていても、外壁を囲まれているので吸血鬼達がやって来ると別な争いになりそうだわ。


「おかえり、アスト先輩、カルミア。王都の様子はどうだったの」


 ヘレナが突進して来てわたしにしがみついた。学園に入ったばかりの頃は同じくらいの背丈だったけれど、ヘレナは身長が変わらず可愛らしいままだ。

 先輩の護衛騎士なのに置いていかれたので、少しむくれてる。


「先輩、謝った方がいいですよ」


 留守番にされた仇を食事で返されたらたまらないもの。先輩は逃げようとする狂人の首ねっこを捕まえて、素直に謝った。


「それで、どうやって荒れ狂う民衆を大人しくさせたのかね」


 防衛状況が違うけれど、わたし達は有無を言わせず排除したし、シンマの民にロムゥリへ行くように促したのは先輩だからね。


「ヤムゥリ王女が演説で黙らせたの」


 どうも美声君をフル活用したらしい。防衛用の人形(ゴーレム)に装着して、ルーネが拡声機能でヤムゥリ王女様の声を全体に聞こえるようにしたようだ。


「何それ、そんな機能あったかしら」


 そんな機能があったなんてわたしも驚きよ。


「作っておいて覚えてないの?」


 そういや、美声君て、伝声主体で使っていたけど、もとは先輩の声を変えるために作ったんだよね。あと、ルーネが有能過ぎるわ。二十体もの人形(ゴーレム)操るとか凄くない?


 先輩を元にしたごっつ君の人形(ゴーレム)は、身体サイズや顔を変えて招霊君に城壁上を巡回させている。

 丁寧に見張りの様子を調べられない限り、人数をかさ増し出来る。


 ヤムゥリ王女様はこのごっつ君に魔法を使ったように見せて、シンマの暴徒に吠えたらしい。


「だって、あいつらムカつくじゃない」


 ヤムゥリ王女樣の主張はこうだ。


「シンマ軍のせいでロブルタ王国の大半は、お前たちの住む地より奪われ荒らされた。門を開き中の様子を少し見せてやるわ。ただし、門の中へなだれ込むようなら殺す」


 そう言って、正門を開き中を見せたらしい。外壁は急遽作ったけれど、街の復興はまだ追いついていないのは、すぐにわかった。

 それでも入り込もうとしたものがいたため、門の付近は荒れていた。


「ロブルタへ逃げ込んでも、どうにもならないと知ってヘタリ込んでいるのが現状よ」


 どうりで生気のない民衆ばかりなわけね。ここまで来てるのは、壊滅した王都の近辺の民衆よね。その他の地域はまだ実質被害は出てなかっただろうし。


 シンマの民は王都の様子を見ているせいか、シンマそのものがもう駄目だと悟っている。だからロブルタへ来たのに、ロブルタもそのシンマ王国に目茶苦茶にされた後で復興はまだ先だ。


 他ならぬシンマの元王女様が、受け入れを拒否したので途方に暮れているわけね。


「いい仕事するわね、王女様」


 暴れたってお前たちのせいで何も残ってないと、現状を突き付けたのは良い手だと思う。


「カルミアに褒められるって事は、非道だって言いたいわけね」


 わたしの人格がおかしく聞こえる言い方ね、王女樣。


「無理やり川を渡ってロブルタへ侵入するものが増えるだろうから、タニアとモーラには各領地に知らせに行ってもらったわよ」


 王女様やるわね、と思ったけどエルミィの意見のようだ。ヤムゥリ王女様も今は立場がとても繊細な状態になっていた。

 もし王都の壊滅でシンマ王家そのものがなくなっていたとしたら、彼女こそ唯一のシンマ王家の血筋となるからだ。


「ふふ、この際みんな逝ってくれてればいいわ。あっ、私はアスト様を盟主として属国でも構わないわよ」


 本気でそう思っているから、ヤムゥリ王女様はいいわよね。欲望丸出しなんだけど、先輩と一緒で独りぼっちだったせいかわたし達といるのは好きみたい。

 本気でシンマ王国の王座に返り咲く気なら、難民達にもっと柔らかくあたって恩を売るものね。


 わたしとしてはそれでもいいと思って難民問題をヤムゥリ王女様に丸投げしたのだけど、意外と王女様は流されなかった。


「まあ、あのままだと邪魔だし川の下流域に避難所をつくりましょう。今はまだ二万人ほどだけど、今後もっと増えるわよね」


「食糧事情がどうにも追いつきそうにないな。ヒュエギアの農園は、まだロブルタの民を賄うので手一杯だ」


 帝国はもうあてに出来ない。先の戦いで被害を出してしまったので、しばらくはロブルタ王国、シンマ王国どちらにも深く関わらない構えだからだ。

 シンマと領土を接する吸魔族もあの有り様だし、隣国のドワーフの国は昔から仲があまり良くない上に、食糧事情に関しては厳しい。


「蠍人に眷属召喚させまくって、それを食糧にするしかないかしら」


 わたしは蠍について詳しくないのよね。だから、蠍って食べられるのかが疑問だわ。


「蠍は種類によるけど食べられるよ。それに、薬の素材としても優秀だよ」


 物知り眼鏡のエルミィが戻って来た。ヘレナやティアマトと交代で城壁から外の様子を見回って帰って来た所だそうだ。メネスとシェリハは王女様の護衛をしつつ、街中を見回っている。


「蠍が食べられるにしても戦いになるって事だから、あまり良い状況ではないのが辛いわね」


「食糧に関しては、降って湧いたように商人でもやって来ない限りは諦めるしかなさそうだね。王宮に使いを出して、少しでも回してもらうように頼むとしよう」


 本当に悪意あるものによって、この辺りは呪われたように災害と戦禍が続くわね。蠍人は狂人の主が仕掛けたせいだとしても、両者は連動している仲間かもしれない。

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