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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第2章 砂漠の心臓編

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4 砂漠の蝙蝠 ④ 魅了対策はわりと万全

「しつこく追ってくるわね」


 わたし達は偵察の蝙蝠に見つかったみたい。あっちは飛んでるから、こちらが見つかりやすいのよね。いったんロムゥリ領へ向かったのに、追ってくるのは魔力を調べていたのかも。フレミールやノヴェルは魔力を抑えているけれど、先輩や狂人はそのままだから。


「フレミール、馭者かわって」


 面倒だからと、空へ向かって魔法を放とうとしかけたフレミールと馭者を交代する。情報が得られないから却下して、わたしは馬車から蝙蝠の群れの前方を狙って特製辛苦玉(スパイス)を撃ち込み爆発させる。


 ダメージを与える目的ではないから、蝙蝠達は破片に当たらないように避ける。音波で障害を避けるっていうけれど、辛味はかわせないでしょ?

 案の定というか、これはもうわたしの必殺の特技ね。


「必殺ではないと思うが、見事に落ちたの」


 うまく避けても、空中に散った成分を勝手に吸い込んでくれる。蝙蝠達は飛行能力を失い墜落した。

 五体の内、四体は蝙蝠の魔物だったようなので先輩と狂人が仕留めた。残りの蝙蝠は人化したまま気を失っている。バステトが首を狩る前にノヴェルが拘束していた。


「こやつらは魅了の眼を持っているゾ」


 フレミールが注意してくれたので目隠しもしておいた。わたしたちは、一応催眠や魅了の耐性はルーネの魔法であげている。

 魔族は全体的に魔力が高いとはいえ、偵察していた吸血鬼程度がルーネの魔法を突破出来る魔力を持っているようなら怖いわよね。


「首狩ろうかィ?」


 情報を引き出してからって言ってるのに、バステトは鎌を吸血鬼の首にあてて、凄くご機嫌だった。楽しそうよね。


「気絶のふりか、死んだふりを止めないと、その娘は本当に首を狩るわよ」


 先輩が撃ち落とした眷属の蝙蝠の首を、バステトは嬉々として刈っていたからね。別に洗いざらい話さなくてもいいけど。


「話せば逃がしてくれるのか」


 おっと、勝手に話す気になってくれたわね。


「あなたたちは南の夜魔の国の吸魔族なのでしょう? 国境の街を越えて、砂漠地帯の多い王都まで攻めた理由は何かしら」


 バステトが首に鎌を、先輩がわたしの側で魔銃を構えている。フレミールとノヴェルは後続が隠れていないか警戒していた。


「我々の里に、シンマの奴らが魔物を放った報復だよ」


 ロブルタと同じように、吸魔族の支配地域に魔物の大暴走(スタンピード)を引き起こしたみたいだ。


「ただの魔物だけなら対処出来たのだがな、やつら化け物クラスの魔物を放ったんだ」


 不意をつかれたのと対抗手段が整わず、吸魔族の里はボロボロになったらしい。


「他吸魔族との連絡網に、化け物達が陣取るせいで孤立したようだ。吸血鬼族としてはシンマ側へ侵攻する形で進むしかなかったんだ」


 仕方ないと強調する。仕掛けたのはシンマ側なので、責めるのは違うわね。


「それで、それほどダメージを受けていながらキミ達はシンマの王都をよくおとしたものだな」


 先輩の疑問はわたしと同じね。異界の強者を擁するシンマの王都は、簡単に落ちる戦力ではなかったと思うのよ。ロブルタと帝国と戦った後だとしても。


「それは、砂漠のダンジョンから蠍人があらわれたせいだ」

 

 流れがわかって来たわね。追い詰められた吸血鬼族はなんというか踏んだり蹴ったりな感じはするわね。


 吸魔族の一族である吸血鬼族と、シンマ王国の関係や状況はよくわかったわ。吸魔族は頼る先もなく原因をつくったシンマに攻め込んだはいいけど、さらなる敵の出現でシンマ軍と一緒に慌てて逃げ出したってところかな。


「先輩、情報は得られたにしても、確認は必要になりますよ」


 この吸血鬼の言う事の真偽はともかく、あの巨大牛人(アルデバラン)のような蠍人が出現したのなら、ロムゥリの防壁も、海岸の防壁ももたない。


「シンマがどうなっても自業自得だからいいとして、吸魔族の中でも武闘派で他種族と仲の悪い吸血鬼族が、手を取り合って仲良くやれるかしら」


 最初は大人しいかもしれないけど、その本質を考えると難しいわよね。


「ふむ、戦力としては今、急場を凌ぐために必要となるわけだな。それなら吸魔族に帰れぬ者はロブルタへきたまえ」


 先輩は何か名案を思いついたようね。シンマを助ける気はなさそうだけど。


「難民というより傭兵として受け入れようと思うのだよ。ロブルタで暮らすのなら、キミの故郷を再建させれば良いと思うがどうかね」


 少なくとも不利な砂漠で蠍人と争いながら暮らすよりも、吸魔族の故郷に近い土地で帰郷の機会を待つ方が良いわね。


「その、あなた方はいったい」


 バステトに冷たい刃を首筋に当てられながら、吸血鬼はおそるおそる尋ねた。


「情報を知ったところでお互い信じていないなら意味はないわね。ただ、シンマの人間ではなく、その隣のロブルタ王国のものなのは確かよ」


 これでもわたしは宮廷錬金術師にして、先輩の参謀なのよ。ただの庶民ではないのよ。残念そうな顔のバステトに命じて吸血鬼を開放する。


 この吸血鬼の仲間達が置かれている状況はわからないけれど、ロブルタ王国で受け入れる事を伝えに行かせた。信用するかどうかの判断はあちらに任せた。


「吸血鬼族は良いとして、シンマの難民はどうします?」


 あの吸血鬼が言っていることが本当なら、蠍人達がロブルタ側へ来る可能性だってある。なにせ難民達が砂漠側へ逃げずに、ロブルタ側へ来てしまっているから追いかけて連れて来てしまうと思う。


「シンマの難民の采配は、ヤムゥリに任せるさ。どのみち彼女ほどシンマに詳しい人間はいないだろう」


 この件は、ロムゥリ領主を任せる時から決まっている。吸血鬼族に追われていようと、蠍人達に襲われていようと、シンマ王国民は自国を追放されたヤムゥリ王女様の審判を受けることになる。王女様が拒否れば、戦いになるとしてもね。


「海辺の街に急ぎましょう。ノヴェル、戦闘はフレミール達に任せて貴女は魔力を貯めておいて。外壁をさらに強化するとなると貴女でも厳しいわ」


「わかっただよ。みんな無理しないでほしいだよ」


 ノヴェルはわたしや先輩に抱きつくと、馬車へ入り魔本を広げ寝室に入った。いよいよバステトを操っていたものが動き出したのかもしれない。まだ戦禍の痛手が回復しきってなちというのに、空気を読まない敵は嫌よね。

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