第12話 パーティー登録④ メンバーが揃う
部屋に戻ると寮の警備を行う衛士の女性が、壊された鍵を取り替えてくれていた。ヘレナは目を覚ましていて、衛士さんから事情は聞いていた。
「わたしのせいじゃないのだけれど……ごめんね騒がしくて」
騒がしい主な原因であるティアマトは目を覚まさないまま、わたしのベッドを占拠していた。神経が図太いのか大物過ぎると思うわ。
わたしがこの娘に懐かれたせいで、ヘレナには迷惑をかけた。寮長達には謝りたくないけれど、ヘレナには巻き込んで申し訳ないからね。
わたしも密かに問題児扱いになっていて、ヘレナが落ち着かせる役割だったなんて事……ないよね。
ティアマトはもう一人の女の衛士さんがやって来て、自分の部屋へ運ばれて行った。
「あんなに揺れても起きないんだね」
わたしの使っていたシーツごと上手く運んだからかもしれない。かわりに、真新しい肌触りのよいシーツを渡された。
「────返さなくてもいいんだよね?」
「私に聞かれても」
「返して欲しいのなら返してくれって言うわよね。ならこれは遠慮なく使っていこう。」
もう一枚ヘレナの分も欲しいから、稼ぎの目処がついたら贈るのもいいわね。エルミィには明日の朝にでも謝る事にして、わたしもヘレナも今度こそ眠りについた。
翌朝、ビクつきながら目を開ける。またティアマトが潜りこんでないか心配したわよ、もう。
「おはよう、カルミア。昨日の残りもので朝ご飯作って来たから食べる?」
「ありがとうヘレナ。いただくわ」
本当にヘレナはいい娘だよ。昨日の事で疲弊したわたしを気遣い、早めに起きて準備してくれたらしい。それにやって来るかもしれないティアマトの分まで用意してる。
「そんで……本当に来るし」
「食事代は払う」
「そうじゃなくてさ、言う事あるでしょ。わたしとヘレナに」
まさか記憶ないとか言わないよね。寝ぼけたにしては、扉の鍵の壊し方が盗賊みたいだったし。
「なんか楽しかったから寂しくなった。ごめんなさい」
今朝、初めて同室のエルミィから昨晩の話を教えられて涙目で注意されたようだ。
「それでエルミィにもきちんと謝ったの? 心配していたわよ」
「謝った」
「そう。なら授業終わった後に、寮長と衛士さん達にも一緒に謝りに行こう」
「わかった」
感情が昂ぶると抑えられないかもしれないけれど、当人はやってしまった事を覚えていた。
騒動を引き起こすかもしれないけれど、迷惑をかけたいわけではないのはわかったわ。
「────となるとだよ、授業中にカッとなったのだって原因を作った奴がいるよね」
私はヘレナを見る。ヘレナがうなずくので多分貴族の上の方の連中だね。特別扱いされているティアマトが気にいらないのかな。
受講科目が被ってないから、わたしが会う機会はなさそうだ。でも面倒臭い事に、そういう時に限って向こうから絡んで来るのよね。
そしてあまり絡んでほしくなかったけれど、ティアマトの事で関わる事になってしまったエルミィがやって来て、ぷりぷり怒る。
「あのさ、せっかく打ち解けた所で同室の学友を置いて他所の部屋に行く?」
きっかけはともかく、仲良くなるチャンスと思って食事を作って持って来たら学友はいなかったようだ。
「うるさいわよ、エルミィ」
部屋で朝食を食べているから、わたしとヘレナがベッドを椅子がわりにして、ティアマトが一つしかない椅子を使っている。
「食べる時間なくなるから、とりあえずそれテーブルに置いて、エルミィもさっさと食べちゃいなさいよ」
わたしは自分のベッドに座る場所をつくり、エルミィが持って来た二人分の朝食をテーブルに置いて、勝手につまむ。
「ちょっ、カルミア何してんのさ」
「気さくなエルフ気取るなら、それくらいで気にしないの」
素材はお金が掛かっていて、中々上品。でも肝心の調理はギリ及第って所ね。
朝から肉を焼いて挟んだパンとか、見た目と裏腹にガッツリ系なのね、眼鏡エルフのやつ。
もう、これは没収よ。もったいないから、お昼ごはんにまわそう。わたしは採取などで使う紙に、肉の挟まれたパンを包む。
「ティアマトもわりと食べるけど、まさかエルミィも大食い?
細く華奢な眼鏡エルフなのに、食べたものどこへ消えるのか知りたい。もう面倒だから食事は食堂で四人で作って食べようという話しでまとまった。エルミィも訳ありのようだから文句を言わせないわよ。
ついでに冒険者登録して、パーティーも組むことにした。ヘレナとティアマトが前衛、わたしとエルミィが後衛になる。エルフは優秀な狩人で魔法も得意だ。変な奴でも優秀な仲間を確保出来たのは大きいわね。
それにしても、全員魔法が使えるパーティーって、なんとも贅沢だわ。
錬金魔術科の授業では、まだ基礎的な材料を使った講習が続いていた。退屈そうな生徒もいるけど、我流で覚えたわたしは自分とのやり方の違いが勉強になった。
材料の質の差や分量、投入の順番、混ぜる時間や置く時間等々、基礎とされる方法を知る事が、出来上がりに差をつけるのだと知れた。
「この快眠粉末も素材を変えればもっと性能上げて売れ筋に出来そうね。それに‥‥」
「きみ、錬金術師より商人の方が向いてるんじゃないか」
エルミィには呆れられた。でもね、これは貧乏雑貨屋である、わたしの死活問題なのよ。
商品の性能向上の鍵がまさか胡散臭い講師から得られるなんて。
「わたしはカルミアの、その奇妙な道具類の方が気になるよ」
わたしの商品はなんか珍しいらしい。王都と違って田舎町では施設が整っていないし、家も掘っ立て小屋のようなものだ。色々工夫しないと快適な生活が難しいのよね。
「持って来てる分なら見せてあげるわ。かわりに王都やエルミィの故郷とかで需要あるかどうか意見をちょうだいな」
「いいよ。授業終わったらカルミアの部屋に行くよ」
どうせティアマトも行くだろうからと、ボソっとエルミィが呟いた。それは同感だ。
わたしも友達になるならないの微妙な時期に、同室の子が自分の存在を無視する振る舞いをされたら少し病むと思う。
エルミィの場合は訳ありで、ティアマトがそれを本能的に忌諱しているんだろうけどね。