第1話 カルミアという友人
ルエリア子爵領は王国の中でもアーストラズ山脈の魔境に近く、しょっちゅうゴブリンの群れやトロール達が出没する土地。ロブルタ王都とシンマ王国を繋ぐ街道を整備し、不毛の地を開拓する事でルエリア子爵領は交易の中継地として発展して来た。
ルエリア子爵領には私の父である騎士ヘルマンを始め、一騎当千の騎士たちが何人も揃っている。騎士たちによって、ルエリアの領主街は難攻不落の都市を築いていた。
私の身体は小さくて、騎士には向かないと言われていた。でも魔法の才能が見つかり、身体を強化する事で戦えるようになる。
そんな私の様子を見て父ヘルマンは、私のために王都の魔法学園の試験を受けられるよう考えていたようだ。領主様から紹介状と支援金を頂いて来てくれた。
「ヘレナには魔法の才能がある。王都の学園に行って精進するといい」
不器用な父らしく、言葉数は少ない。魔法学園へ入学出来れば、私も父を超える騎士になれるそうだ。でも⋯⋯魔法なしでオーガとやり合える父は、充分に強者だと思った。
お金の事もあったけれど、父と離れたくない気持ちが強かった。
「お金がかかるでしょう。もし入学出来なかった時は‥‥」
「金の心配なら気にせんでいい。それに魔法学園が駄目でも騎士学校へ行ける」
魔法学校は費用がかかり過ぎるので、騎士学校でも良かったのに。お父さんが領主様や騎士の仲間から寄付を集めて受験や入学費用を捻出してくれたにしても、受かる可能性も、返せるあてもなくて不安だった。
「心配するな。ヘレナならば受かる」
絶対に根拠はない。でも父の自信あふれた断言に、勇気をもらえたと思う。
試験日近くになると、王都の宿屋は私のように地方から来た受験生でいっぱいになる。宿代が余分にかかってもいいから、試験日は早目に出発しなさいと、領主様から助言された。
この時期の王都は受験生でいっぱいになるそうだ。宿屋の大部屋に泊まることになった受験生の懐が狙われやすい。宿の料金も割増になる意味では同じかな。盗賊よりましだけなだけ。少々割高になってもいいから、鍵付きの部屋で連泊した方が良いようだった。
「お嬢ちゃんも受験生だろ。試験日は混むから早目に出た方がいいな」
早目に来て連泊を申し込むと、宿屋の女将さんが、試験の日の様子を話して教えてくれた。試験会場は大きいけれど当日は混雑して、すぐにいっぱいになるというのだ。
親切にしてくれたのは、私が鉄級の冒険者だからかな。試験の結果如何に関わらず、今後利用する可能性あるからだと思った。
領主様や宿屋の女将さんの助言のおかげで、魔法学園の試験を受ける事が出来て、合格をもらえた。良かった。
私は宿屋へ戻ると女将さんにも合格したことを伝える。とても喜んでくれた。お祝いに焼き菓子までくれた。私はそんなにお子様に見られているのか、少し不安になる。
寮に入ると私の部屋は二階の奥の二人部屋。新入生にも階級があって、私は騎士の娘だから平民みたいなもの。気楽だけど、相部屋なので緊張する。
同室の寮生はカルミアという娘だ。その娘の名前は知ってる。試験の時に私の後から来て、さっさと試験を終えた娘だ。
カルミアという娘は、少し怖い。魔力のある人達は他にもいたけれど、錬金術師を目指す彼女には、得体の知れない面がある。
寮には私の方が先に来た。二つあるベッドは片方は窓際で景色が良い。この時期はまだ冷えるので、昼間はいいけれどきっと夜は寒い。
相部屋の相手のカルミアがやって来た。遠目で見るより迫力が凄い。戦えば、多分十中十勝てると思うのに。それに彼女は凄く綺麗な娘だと思った。いつもブツブツ言ってて物騒な発言をしていて危ない。友達が出来ないのは、きっと怖いからだと思うよ。
女将さんからもらった焼き菓子をあげたら、色々お返しをもらってしまった。私の作ったものじゃないのに凄く喜んでる。
私が焼き菓子を作った事になってしまったので、頑張って作り方覚えないと‥‥。
カルミアは怖いけれど、本音がだだ漏れなので、わかりやすい娘だと思った。
おっかなびっくりの私の魔法学園生活は、こうして始まったのだ。
このカルミアという少女との出会いが、私の人生を大きく変えていくことになるとは、この時は夢にも思っていなかった。
お読みいただきありがとうございます。第二章へ入る前に、閑話としてヘレナから見たカルミア像を挟ませていただきました。
※ 202410月23日 サブタイトルを「私から見た、カルミアという少女」→「カルミアという友人」に変更しました。




