第116話 ロブルタ魔法学園 魔法研究学校卒業
ロブルタ王国の復興は、わたしたちの予想していたより早く進んだ。
────復興の早まった理由? そんなの魔女さんの助けがあったからに決まってるわよね。
悪意あるものが残した爪痕はロブルタ王国だけではなく、シンマ王国やローディス帝国にも及んでいる。とくに両王国は、このままでは滅びる寸前までいったのだ。
魔女さんは悪意の残滓を取り逃がしたお詫びに、大地の恵みを高める薬のレシピを教えてくれた。
必要な素材はわたしたちが一つしか持っていない霊樹の実や、ドライアドの涙など貴重な素材ばかりだ。
あとはノヴェルやルーネやヒュエギアなどの成分や魔法。魔女さんは薬を作るのに必要な人材と素材を得られる状況にあるのを見越して助力してくれたのだ。
「それで────あなたはわたしたちのもとで、一緒に暮らすって事でいいのね?」
唯一揃えられない素材のために、ドライアドのドローラと名乗る木人族の娘が、魔女さんからの品々を送り届けてくれたのよね。彼女はそのまま一緒に行動するように、魔女さんから言い付かっていたみたいだ。
「ふつつかものですが、よろしくお願い致します」
‥‥丁寧? に挨拶もされたので、断るわけにもいかないわね。ドライアドの娘なんてたしかに助かるわよ。希少過ぎる人材だもの。
とにかく助かる……でも言わせてほしい。魔女さんたちが最初っから行けば、ここまでの被害は出なかったはずだとね。
なんかそうしなければいけない理由があったにしても‥‥被害を想定してドライアドまで呼んで準備してあったんだ、そう思うと尚更よね。
「あのバカ騎士たちは、また大切な実を適当に配って」
魔女さんのせいか、エルミィがなんかブチっと切れていた。霊樹の実を故郷の仲間がホイホイあげてるせいだわね。わたしだってもっと欲しいのに。
昔‥‥魔女さんたちにエルフの王国がお世話になったらしい。何も言わなかったけれど、この眼鏡エルフってば隠し事が多すぎじゃないかしら。黙ってほしければ、わたしにも霊樹の実をたくさん寄越してよね。
支援はありがたい。けどさ、魔女さんって何でもありなんだから、薬を作った状態でくれればいいのにと思った。
おかげで夏休みの後も、わたしは薬作りの毎日だったわ。農園の管理はヒュエギアとノエムにバステトの眷属に任せた。
バステトはというと、学生としてわたしたちの仲間に加わった。
魔女さんに何か言い含められたらしく、いきなり首を狩ったりしなくなっていたわね。順応性あるのよね、この狂人。
────ちなみに学校には、貴族や商人の子供の大半の生徒がいるのよね。大暴走に戦争と、災難続きによる経済状況の悪化で、彼らも寮に移って来た。
とくに魔物の大暴走と戦禍のダメージを受けた地方領主の大半は、危機的な財政難に陥っていた。王都に邸のある上級貴族と違って、宿屋から通わせるのも懐具合が厳しいというわけね。
「この際だから魔法学園の貴族科の跡地を潰して、寮を増設しようと思うのだよ」
わたしと先輩は、王国の今後の方針についての草案作りを行っていた。貴族学院があるので魔法学園の貴族科は簡単な作法を学べるだけで構わない。望むならば、選択科目で貴族学院で学べるようにすればいい。
他の仲間たちは、わたしにかわりエルミィと薬作りを手伝ってくれていた。
先輩とわたしたちが常に一緒にいるのは知れ渡っている。だから先輩は自分が使っていた男子寮と、女子寮の部屋を一般の特待生などの部屋として開放して、貴族科跡地を新たに貴族や豪商専用の寮にするつもりでいた。
もちろん王族用と貴賓室は、そちらにつくる。これは今後の防犯も考えたうえでのことだった。
ただし肝心の先輩は、卒業までわたしたちの部屋に居着く気でいるようだ。狭いしわたしの集める素材のせいで臭いのに変わった人よね。
「最終的には、この魔法学園を中心に貴族学院、騎士学校、一般職業校、冒険者訓練校を統合して一大学園都市にしようと思うのだよ」
ロブルタ王国の半分近くは荒れ果ててしまった分、新しいものを造りやすい土地になっている。学園もメガネ男子やヤムゥリさまのやらかしでスッキリした場所あるものね。
「いっそ地方に幼少期から誰でも入れる学校をつくって、試験の手間や負担を減らしたらどうですか」
これは貧乏人なわたしの、体験から出た意見だ。経済的な負担が大きいというのに試験に運要素が強い。
それに試験に落ちてしまうと、大金を失ったのに、何も得られないのは辛い。ある程度学びたい者を地方で学ばせる。もっと学びたいものに試験を行い、優秀なものは推薦で入校を認める。そうすれば経済的な負担が、かなり減るのではないかと思うのよね。
「学校に入れず働くしかない子供もいるだろうから、各領主が自領の子供を面倒見る形にするとしよう」
魔女さんたちの国では、すでに実際行い始めたそうだ。概ね好評らしい。
もっと早くに社会がそうなってくれていたのならば、わたしの貧乏暮らしは少しマシになっていたのかな。
あぁ‥‥でも入校はしやすくなっても、毎日お風呂に入れるような贅沢を考えると、入学費用は変わらないか。
「君が頑張って、各地にもっと大きな公衆浴場をつくりたまえ」
先輩め──各領主へ宛てる方針案に、公衆浴場をつくる土地の確保をねじ込んだよ。責任者にわたしの名前を記入して。
「どのみち薬をつくって各地に回るのだろうから、君の好きなように使いたまえよ」
領主街を基本にして、王家直営のお風呂場と宿をつくるように命じられた。わたし……ただの庶民な錬生術師と名乗る、錬金術士のはずなのに。人づかいが荒くないですかね。
各地に好きなように、お風呂場を作れるのは嬉しいし楽しそうだからいいけどね。
ノヴェルが本をいっぱい作りたがっていたので、いっそ学び舎とお風呂場と図書館を併設しようかしらね。
各領主と冒険者ギルドを巻き込んで、ロブルタ王国を癒やしの国にしてやるわ。
先輩が魔法学園を卒業すると同時に、わたしたちも学校を卒業する事が決まっている。先輩が王座につくと決めたため、わたしと仲間たちは先輩の側近になるからだ。
王族という最高の出資者を得たはずなのに、何故かわたしの懐事情は寒いままだった。土地を与えられてもお金にならないのよ。
側近になっても結局今まで通り貧乏なのが確定よ。英雄な先輩なのに、稼ぐこと考えてないからね。
この先輩のもとでは出稼ぎに行かないと、ろくにお給金が出ないのよね。
朗報があるとすれば王都のダンジョンから、フレミールが定期的に金をはじめ、希少な鉱石や素材を運び込んでくれることだ。研究資金は豊潤に使える予定なのよ。それだけが救い。たださ、フレミールはわたしの人脈だよね?
────こうしてわたしは波乱ばかり起きたロブルタ魔法学園 魔法研究学校を無事に卒業した。
田舎の領主町に住むただの庶民。しがない雑貨屋を営む錬金術士だったわたしは、名目上はロブルタ王国宮廷錬生術師として、時期国王となるアスト王子の側近入りを果たしたのだった。
その内情は‥‥ほぼ無給に近い学園の先輩後輩。いわゆる親友そのものなんだけどね。
成り上がるどころか、苦労ばかり増えた気がするわ。でもね、頼れる楽しい仲間たちがいてくれて、わたしはとても幸せよ。
◇ 第一章 完 ◇
【錬生術師、星を造る】 第一章完結となります。
ここまでお楽しみいただけたのなら幸いです。
閑話を挟んだ後に、第二章となります。




