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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編

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第110話 錬生蘇生術

 わたしたちが畑づくりに勤しむ間、シンマ王国軍が防衛陣地に姿を見せたと報告が入った。


 海を駆けし馬(アルヴァル)の三頭に乗り、メネスとヘレナとシェリハが偵察任務に出ていた。海を駆けし馬(アルヴァル)の足は速いし体力もある。


 三人は偵察と、主戦場となるルエリア子爵領の防衛陣地に、追加の弾のセットも運んでいる。シンマ王国軍は後背を突かれないように、侵入後はゆっくり手広くロブルタ領を荒らし、占有して回っていた。


 シンマ王国軍には異界の強者も参戦していたようだ。ロブルタ王国側で異界の強者とまともに戦えているのは、ルエリア子爵にヘレナの父ヘルマンさんと数名の騎士たち、それにランクの高い冒険者達だけのようだった。


 ヘレナたち三人も、アルヴァルの速度を活かし切り込みをかけていた。そしてルエリア子爵領の立て直す時間を稼いでから戻って来た。


 ◆


 ‥‥戻って来た三人の表情が暗い。戦況が劣勢なのもそうだし、それ以外に何かあったわね。丁寧に何か運んでいたのと関係あるのね。報告は後にして、まずは三人を休ませることにする。


「エルミィ、あなたはヘレナを。先輩はシェリハに声をかけてあげてもらえますか」


 二人が頷く。三人まとめてしまうと、責任を取り合って余計に沈んでしまいそうだからね。わたしはメネスを見る事にした。この娘が一番表情が暗くなっていたからだ。


 メネスを連れ出して、馬車のものより高く作った展望台へ登る。メネスもわたしに何か言いたいのはすぐにわかった。今までで一番顔が暗いもの。


 展望台は頑丈に作ってある。見張り台は六、七人乗れるくらい広く取ってあって、王都を遠くに一望出来る。


 日が暮れて真っ暗になると、街の灯りが煌めいて幻想的に映る。密かなわたしのお気に入りの場所だ。ここならメネスも気分を落ち着けて話せると思う。


「ありがとう、カルミア。受付をしていた時はよくある事だったのに……身近な人が還らないかも、そう思うと駄目だね」


 タニアさんとモーラさんが防衛陣地の攻防に参戦して負傷したそうだ。異界の強者の数が多くて、味方の被害が多いところに、彼女たちが冒険者達を率いて割って入り助け、混戦になった時の怪我だという。


 ヘレナが偵察を止めて仕掛けに入ったのも、その異界の強者達との実力差を感じて、危険だと思ったからだろう。


「乱戦の最中に不意をついたから最初は優勢だったの。でも実力と数の差で負けてじわじわ押され出してしまって……」


 戦況が劣勢になり始めると、統率の取れてない冒険者達から、徐々に逃げ出し始めてしまったそうだ。


「それで二人は指揮を取って冒険者達の撤退と、あなたたちの逃げる時間を稼いでくれようとしたのね」


 メネスがコクリと頷く。防衛陣地に籠もればまだ戦いようがあるのもわかっての動きね。異界の強者達は攻城戦には面倒臭がり、出向きたがらないからだ。いまは兵隊も冒険者達もなるべく多く逃がすべきと、あの二人は考えたのだろう。いい判断だけど、逆に戦況の厳しさを物語っていた。


「──いったんは私達も退こうとしたの。でも二人が捕まってしまって、戦いの最中に……」


 そういうことね。美人だものね、あの二人。メネスの怒りと震えから何が起きかけたか察した。わたしはメネスを抱きしめた。


 二人だけじゃない。たぶん逃げ切れなかった領民相手に、そこかしこでそういう事が起きていたのかもしれない。そう思うとわたしまで腹が立ってしまう。


 辱めを受ける前に、メネスがキレて馬首を返し、突撃した。ヘレナとシェリハが後からついていき、速度を活かして同じく突撃する。メネスが乱戦を作り上げた時間を利用して、シェリハが二人を糸で抱えあげ、ヘレナと共に戻って来たのだ。


 メネスの傷が一番深いのは、その際に自分が最後まで殿を努めたからだろう。異界の強者達を相手に、そんな状況で生きて戻れただけでも僥倖というのだろうか。ただ……メネスたちの奮闘虚しく、三人は残酷な結果を目にした。


「急いで、特製の治療薬をかけたんだけど‥‥」


 メネスが再び目を滲ませる。タニアさんとモーラさんは、二人とも頭に傷を負い、気を失って倒れた。異界の強者による魔法の岩をまともに喰らったのだ。好色な敵兵が数人群がり、鎧を脱がされた。


 メネスが割り込み、シェリハが回収していなければ、その場で犯され惨殺されていたはずだ。逃げる間際に受けた矢傷や槍傷も深かったようだけれど、その時にはもう二人の意識はなかったと思う。


「ねぇ‥‥二人をカルミアの錬生術で生き返らせる事は出来ないの?」


 メネスが大人しい理由は、わたしの錬生術への期待ね。縋るようにわたしを見る。でも‥‥わたしは首を振った。受けた傷は癒せても、蘇生には魂が必要になる。先輩の時はわたしが魂を預かっていたから出来たこだ。タニアさんとモーラさんの二人の身体は無事に取り戻せていても、二人の魂が戻らなければ意味がない。蘇生術と死霊術とは違うの。


 メネスがわたしにしがみついたまま啜り泣く。きっと、なんとなくわかっていたのね。それでもわたしに一縷の望みをかけて、敬愛する二人の身体を守って戻って来たのに‥‥ごめんなさいね。


 おそらく仲間たちの場合は、今まで集めて来た成分がたっぷりとあるから、遠く離れた魂を呼び出す事が出来るかもしれない。招霊君の召喚みたいなもので、同じ成分で成り立っているから相性も良いのよ。


 でも‥‥それはあくまで仲間たちだけ。メネスもそうだ。日頃からあの娘たちの成分は、スマイリー君により集められている。


 最初は嫌がっていたものの、無理矢理絞られるよりマシと認識を改めてくれた。まあ先輩は率先して提出してくれたけどね。


 あれ────待って、あの二人はわたしたちのお風呂を良く使っていたわね。トイレも。······それにお風呂掃除とかでもスマイリー君を使わせていたわよね。


 あの二人の魔晶石は、今までしっかり見てなかった。調べて相性が悪かったのならそれまで‥‥でもわたしは二人には好感を持てるし、いけるかしら。


「‥‥メネス、二人の身体はどこにあるの?」


 わたしも‥‥わたし自身の積み重ねてきた錬生術に誇りがある。だからメネスの縋る一縷の望みに、わたし自身もかけてみる。


 二人が死んだと思われていたら、死霊術だと思われるのでやりづらくなる。いまは重傷を負って動けないだけ、そう思われている間が勝負だ。


「カルミアなら何とかしてくれるかもしれないから、寝台に一緒に寝かせて来た」


「それなら、いいわ。メネス、下に降りたらあなたは二人をわたしの錬金台前まで運んで。脱がされた装備品も回収してあるなら、スマイリー君に成分を抽出させておいて」


「わかった。集めておく」


 わたしの言葉に、何か希望が見えたのかメネスの死んだような表情が消えた。


 間に合ってくれるかしら。すでに意識を失った状態から半日近く過ぎている。体液が流れ出て、体内の血も固まっているかもしれない。血液の精製を先にして心臓を動かしておかないと、生き返らせても血管のあちらこちらが詰まってしまう。


 わたしが先輩を慕うようにメネスもタニアさんやモーラさんを先輩と慕っていたものね。ただ‥‥わたしに頼る以上は、二人も有無を言わさず仲間になる誓いを立てる事になるわよ。


 泣いて涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のメネスの慌てぶりに、みんな集まって来た。メネスの表情が変わったのを見て、察したみたいね。


 必死の形相のメネスの呟く独り言から、わたしの名や助かるかもと聞くと、ヘレナとシェリハも泣き崩れてしまった。


「スマイリー君が今忙しいから、みんなで泣かないの」


 ────まったく、三人共成分垂れ流しでもったいない。スマイリー君も忙しくて泣きそうよ。


「やれやれ、君は容赦ないね。ほら二人ともこれをつかいたまえ」


 こんな時にまで、懐に黒パンを入れて持ち歩く先輩には言われたくないわよ。先輩は必死のメネスに近寄り、顔を拭う。あまりに自然で手際がいいのでメネスは気にしていない様子だ。


 わたしが煩いので、先輩はヘレナとシェリハも顔を拭う。


「ボク達に何か出来る事はあるか」


「オラも手伝うだよ」


 ティアマトたちも協力的だ。助かるわ。


「二人の成分を集めて宝珠を作るから、ティアマトとノヴェルは二人の魔晶石を選別してまとめてくれる? エルミィはメネスと一緒に、二人の身体を清めて、魂が戻ってくるように祈ってあげて」


 祈りの気持ちが道しるべになって、彷徨う二人の魂に届くかは賭けだ。高位の神官とか聖女さまとか、あの魔女さまと違って、わたしには擬似蘇生術を錬生術で行うことしか出来ない。


 でもさ、もしこれがうまく行けば二人が戻ってくるのだから、やれるだけやるしかないわよね。


「ヘレナ、フレミール。あなたたちはタニアさんとモーラさんを炎の魔力で温める用意をしておいて。熱くし過ぎないように優しくね」


 うまくいったのなら、一度血を失い死んだ身体は熱が足りなくなる。炎の魔力があり体温の高い二人には、抱き枕代わりになってもらう。


 錬金台にはヒュエギアが寝台のようにしていた。ノエムが二人の身体をふかふかのベッドへ運ぶ。そのままヒュエギアはルーネと、薬用の粥を用意しに行く。


 先輩とヤムゥリ王女さまは、邪魔にならないように、メネスたちとベッドに寝かせた二人の周りで祈りを捧げていた。


 蘇生術の準備中で、祈りはまだ早いけれど気のすむようにさせる。最悪失敗しても、招霊君に二人の魂を捜してもらい、聖霊人形(ニューマノイド)として生きる手もある。


 ノヴェルのおかげで、自分自身に近しい存在を生み出す方法がわかってきたからね。


 この錬生術‥‥蘇生術は秘匿しておく。ロブルタ王国なら、先輩をはじめ国王陛下も王妃樣も黙って受け入れてくれると思う。まあ‥‥この場の仲間が話さなければ、国王陛下たちにはわからないことだからね。


 でも、どこかの教団は死霊術に限らず蘇生術全般を禁じるところもあった気がするわね。真意はわからないけれど、魂や生命を欲するいかれた宗教家は一つや二つじゃないから。


 案外そうした輩は、わたしのように魂を集めたいだけかもしれない。


 とりあえず重傷の噂がある間は、怪我からの回復で済ませられると思う。



「準備は出来たわ。手の空いた人は、二人の身体に触れて祈ってあげて」


 わたしも宝珠を作りながら、魂に呼びかける。ほら────あなたたちの可愛い後輩が繋いだ機会、しっかりと掴みなさいな。わたしはメネスが困って泣くのは好きだけど、悲しんで泣くのは嫌なのよ。


「反応があったわ。ノヴェル、よくないものまでついて来ないように、二人の顔に生気が戻った瞬間、結界を張って頂戴」


 戦場から無理やり呼びつけたようなものだからね。戦場じゃなくて、メネスの側にいたかもしれない。招霊君と違って、二人の身体は不死者の魔物に狙われやすい状態だったのは確かだ。


 わたしの言葉で、シェリハがみんなの装備を取りに行き一人一人に渡す。先輩はわたしの背中にピタリとくっつく。ルーネはその先輩の胸元に戻る。


「先輩、出来ればフレミールかティアマトの近くにいてくださいよ」


 この人の行動がたまに読めないのよね。先輩の頭がおかしいからかしら。


「君を守るものがいないのは不味いだろう。安心して術を続けたまえ」


 何が来るのかまでわかっていそうな口ぶり。そういや先輩も一度身体が死んだんだっけ。


「カルミア! 二人の身体が!」


 魂は呼び戻せたので、あとは魂の定着までに身体のダメージへの対応だ。頭の傷は治癒されている。蘇生がうまくいかない理由の一つは外傷しか見ないからなのよね。


 ヒュエギアとエルミィが血の融解薬や痛み止めの薬、滋養薬の粥を作って来てくれて助かった。脳や手足など細かな血管に血や空気が入り込んでると危険だ。


 先に調べておいて、血液を循環させたから大丈夫だとは思うけど、こればっかりはわからない。復帰しても当人たちの体力が持つかどうかもあって、懸念材料はいくらでも浮かぶ。


 タニアさんもモーラさんも意識は戻った。その瞬間、身体に甦る様々な痛みが二人を襲う。


 ヘレナとフレミールが二人を包むように抱き体温が下がらないように調整してくれた。


「いったい何事? 私らなんで裸なわけ?」


 きょとんとしながら、二人とも全身を襲う痛みでそのまま気を失ってしまった。


「ひとまずは成功ね。ノヴェル、結界は作用してるかしら」


「おら、畑まで包んだだよ」


 通用するかどうかはともかく、雑魚までいっばい相手にするのは嫌だものね。

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