第11話 パーティー登録③ 侵入者?
冒険者ギルドから帰って来て、ヘレナとティアマトの三人でお風呂に入った。
「今日もいいお湯だね」
ヘレナはわたしと同様に、お風呂は毎日入ると決めたようだ。わかるよ、身体拭くだけだと得られない心地良さがあるのよね。この時期はとくに手足の先まで、ジンジンして温まる。
「そんなに凄いのか?」
このお嬢め、と思わずわたしは叫びそうになったよ。
「お風呂に毎日入れるなんて、素晴らしい事なのよ」
わたしの心の声が口に出る。お嬢様なティアマトには、お風呂が毎日ただで入れる感動が通じていない。厳密にはただじゃないけど、それは言わない約束ってね。
はじめは他国から来た富豪と思っていたけど、金級冒険者の娘だったみたいだからね。
でも下手な貴族よりも金級冒険者の方がお金持ちなのは、ヘレナを見ればわかるものね。
お風呂の後は、冒険者ギルドで奢ってもらった御礼がてら食事に誘った。先に食材を買い足しておいて良かったわ。
それにしても昨日今日会ったばかりの子達と一緒に、お風呂入って食事してるって何だか不思議だ。故郷じゃ考えられなかったもの。
別にいじめられていたわけじゃないわよ?
友達がいなかっただけ、というより嫌厭されていたのよね。何故か怖がられていたともいうわね。
冒険者に囲まれて育ったようなものだから、友達がいなくてもこの二人よりは人づきあいは上手なはずなのよね。
ヘレナもティアマトも今までどうやって暮らしてきたのか、逆に気になっちゃうわよ。
「そういえば、ティアマトは同室の娘はいるの?」
ヘレナがたずねるとティアマトは首をかしげた。興味が薄いのが丸わかりだ。
「眼鏡エルフがいた。話してないから名前は知らない」
うわぁ、なんかそういう部屋もあるんだね。でも、いきなり赤の他人が仲良く楽しくいかない事もあるわよね。てか眼鏡エルフって、あのお喋りなエルミィじゃないの?
絶対数が少ないから、そんなにエルフの新入生なんていない気がする。
あのお喋りエルフがティアマトを苦手にするのは、話しが噛み合わなそうだからだね。
ティアマトもいけ好かない上辺を取り繕うタイプは、近寄りたくないのだとわかる。
う〜ん……まずいわね。なんとなくティアマトから、トラブルの匂いがプンプンしてきた。巻き込まれるのはわたし達、主にわたしだろうから。
ご飯を食べて、歯を磨いてわたしとヘレナはティアマトと別れた。帰りたくなさそうにしていたけど、同じ寮内なんだから戻りなさいと、追い出す。
そんな甘えた瞳で見ても駄目。怒られるのは絶対わたしになるんだから。
嫌な予感は的中というか、同室の娘が戻って来ないと心配した眼鏡エルフのエルミィが寮長に報告したらしい。
見かけによらずエルミィは、わりといい娘じゃないの。そう思っていたけど、それを知るべき相手が、わたしのベッドに潜りこんでいましたとさ。
「うがぁぁぁ~、何してくれてるの」
心の叫びだから、そこまで大きな声になってないはず。鍵を壊して入ってくるとか本当に動物かい。物盗りじゃなくて、夜這いなんて考えてなかったわ。
タイミング良く、鍵の壊された扉が開く。夜中なので寮長とエルミィと、衛士の女性の三人がやって来た。
わたし達と一緒にいる所は何度も目撃されて、真っ先に訪ねて来たそうだ。
あまり物音を立てないでくれたのでヘレナは眠ってる。いや関わらないように、寝たふりね。わたしは事情を説明するために、ティアマトをそのままに寮長の部屋へ向かう。
「何か申し開きはあるのかしら」
貫禄たっぷりの寮長さんは、衛士を下がらせてそう切り出した。おかしい……何故かわたしが悪さをした形だ。
「一つ言い訳させて下さい」
わたしがそういうと、寮長が頷く。
「わたしは彼女の保護者ではありません」
監督責任もわたしにはないよね。友達になれそうだけど、無意味な責任押し付けられて退学になるわけにはいかないの。責任の所在ははっきりさせておかないとね。
だいたい鍵を壊してまで入って来てるんだもの、わたしにどうしろと。
あの鍵、どうやって壊したのかしら。まるで使い込まれた剣が綺麗に折れたみたいに割れていた。あとでティアマトに問いただそう。
「気難しいあの娘を一日二日でどうやって手懐けたのかは気になりますが、貴女に落ち度はないようですね」
それが寮長の本音っぽいよね。いや落ち度もなにも被害者よ、わたしは。
エルミィを同室にしたのはきっとエイヴァン先生の身内で、成績も優秀だから期待したのだろうね。いやわたしの予想だと逆かな?
ただエルミィは人当たりは良さそうに見えて、他者への関心はティアマトよりも薄かったようだ。
「仲良くしていたのは事実なので、わたしからも言い聞かせます。だからと言って、彼女の奇行の責任までは取れませんよ」
自分の行動の責任は自分で取ろうね、ティアマト。あと、寮長もわたしに押し付けようとしないで下さいよ。監督責任があるのは、本来なら貴女なんですから。
わたしは友達としてティアマトと行動する事になる。ただしそれとこれとは別の問題だもの。それに、そこまで手のかかる娘ではないよ。
うん、嘘ついたわ。初日にやらかしかけて今夜も騒動だもん。手がかかってるかもしれないわね。
どうしてそんな娘を魔法学園へ入れたのだろう。それもトラブルになると困る他国の娘を。
エルミィって成績優秀で期待の学生の一人だろうし、同じ他国出身でも同列に扱うべきじゃないはず。仮にエルフの姫だとして、そこを任されるティアマト……。
「えっ、あれ待って、ティアマトって意外と重要人物?」
わたしの独り言に寮長がギクッとした。そしてこの件は他言無用でお願いしますと、それ以上追及される事なく解放された。