第10話 パーティー登録② ティアマトという少女
乾杯するような仲でもないので、三人共黙って一口飲む。奢りなのは嬉しいし飲むのもいいのだけれど、そろそろ自己紹介くらいしたらいいと思うのよ。
照屋さんなのかヘレナと同じ人見知りさんなのか、本題を切り出すのも苦手そうね。
「……声をかけたって事は、そっちはわたし達の事を知っているのよね」
「試験会場で見てから、この人だって思った」
意思疎通が下手過ぎるけれど、わかったのは試験の時ね。試験の時に何かしたかしら?
「誰よりも早く席を立った、それがなんか良かった」
「うん、意味わからない。いえ、貴女の中では、わたしの行動に何か惹かれるものがあったのはわかるわよ」
うなずく様子から彼女なりの理由で、わたしの事が気になってしまったと言いたいのはわかったわ。
「それじゃあまず名前から教えあおうか。わたしはカルミア。隣に座ってるのはヘレナよ。」
同じ魔法学科を受けたにしても、二人の感じから自己紹介はしていないだろうなと思った。
「ボ、いや私はティアマト」
雑で理解されないんじゃなくて、少し子供っぽく、言葉足らずなだけなんだとわかる。
「それで冒険者ギルドにまで来たって事は、わたし達とパーティーを組みたいのね」
風を斬る音が聞こえてくるのではないか、それくらい首を縦に振るティアマトさん。断られることなど微塵も考えていない、ワンコみたいな娘だ。
わたしはヘレナをチラっと見る。こういう娘なら気が合いそうね。引っ込み思案の彼女には、かえって裏表のないティアマトのような娘の方が気遣いなく接せると思うのよね
何だかわたしの周りに、変な娘ばかり集まるのは気のせいかしら。眼鏡エルフのエルミィも変な娘といえば変な娘だったし。
ティアマトは子供っぽいように見られるだけで、別に一人でいる時は普通だ。冒険者登録をしたから、すぐにダンジョンへ行こうとか言いそうなのに。
ダンジョンには、次の休みの日に行ってみようという話しになった。
「はぁ、なんか今日はもう疲れたから帰りましょう」
果汁飲料を奢ってくれたティアマトに御礼を言って解散する。ヘレナはわたしの右横にピッタリ寄り添う。また変な輩に絡まれないか、警戒してるのよね。
それと左隣には、何故かティアマトがくっついていた。そういえばこの娘も寮生だったよ。
こうなったら開き直りが肝心よね。ティアマトには冒険者として、名を上げて偉くなってもらって、わたしの研究に出資してもらいましょう。
だから妙に距離が近いのも我慢よ、我慢。研究資金を沢山得るためならば、どんな悪評にも耐えてみせるわ。
そう思っていたけれど、街中を両脇に美少女を抱えて歩き抜けるのは勇気がいる。絡まれてわかるように、ヘレナは可愛いのよね。それに変な娘でも、ティアマトも凛々しくて美形だ。
美少年にも見える中性的な凛々しい顔たちに日焼けした南国の出身らしい小麦肌が幻想的で人目を引く。
銀色の艶のある髪と紫の瞳も特徴的でこれでまだわたしと同じ十二歳とか言われても信じられないわよね。
中央の地味なわたしがかえって悪い意味で目立つから絡まれるの?
お酒も入ってないのにニヤついた輩が蝿のようにたかって来て、うっとおしい。
「一人で王都まで来て、二人とも少しも絡まれなかったの?」
受験前はヘレナもティアマトも、一人で都まで来ていたはずだ。宿屋だって個室にしても、むさい男はいただろうし。
「一人の時は私は影薄かったから」
フードつきのコートを深目に被っていれば、ヘレナは小柄なので目立たなかったようね。……というか、そういう娘に手を出す輩は容赦しちゃ駄目だわ。きっちり地獄へ送らないといけない。
「ボク····私も一人の時は問題ない」
ティアマトも同様のようだ。こちらは寒いのが主な理由だったみたいだ。
「ティアマトは無理して大人ぶらなくてもいいわよ」
男の子のように見られないように、頑張ってぶっきらぼうな女を演じていたみたいね。ぎこちなくてバレバレだったけど、彼女なりにトラブルを回避しようと努力していたのだろう。
「それだと助かる。取り繕った言い方は苦手だ」
「公の場では出来るようにしておけばいいわよ。わたしだって平民だけど、それなりの身の振る舞いは勉強してるからね」
「私も作法は学んだから、少しくらいなら教えてあげるよ」
おぉ、ヘレナが積極的に動いたよ。でもわかるよ、ヘレナ。なんか構いたくなるよね、ティアマトって。
寮に帰るまでの間、結局四組くらいから声をかけられた。そのうち二組はわたしが「助けて!!」とハッキリ叫んだので、一応衛兵が捕まえてくれた。
えっ、悪い事してないのに酷いって?
悪い事をしようとして声をかけて来たのだから酷くないわよ。何もしようとしてなければ、声なんてかけないでしょう、まったく。
何故か側の二人からは、無言で見つめられたけど、あなた達も自衛しなさいよと思った。