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錬生術師、星を造る 【完結済】  作者: モモル24号
第1章 ロブルタ王立魔法学園編

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第1話 ロブルタ魔法学園 魔法研究学校へ


 ロブルタ王国の王都には、王国国営の魔法を学ぶ学校「ロブルタ魔法学園 魔法研究学校」がある。


 学校の設立時期は不明のようで、隣国の教導学校や訓練学校に比べると味のある古めかしい建物のため、昔からあるのがよくわかる。


 生徒は魔法使いだけではなくて魔法を学問として研究する者や、調剤科に医学科など怪我や病気に対する研究や処方を学ぶ場所にもなっていた。


 魔法学校の学生は卒業すると商売を始めたり、研究室に入ったり、王宮で薬師になったりと、将来安定した職につける。そのため多種に渡る職業に人気のある学校だった。

 

 そんな王国の誇る魔法学校にやって来た、よくいる若者の一人がわたし────カルミアだ。


 わたしは田舎の領主街で、両親が残してくれた雑貨商店を営んでいた。来客は顔見知りばかり。暇つぶしに街の住人が、からかい半分遊びに来るだけの小さなお店。


 そんなある日のある時の事、お客さんの来ない店として有名なわたしのお店に、冒険者パーティーという輩があらわれたのよ。


 本来ならばめったに掴めない他所から来た上客。来訪に感謝するところだろう。しかし、わたしは街の近くにあるダンジョンという所に拉致されたのだ。


 雑用としてこき使われる中、人並み以上に魔法の力があるんじゃないのかと知らされた。そこで紹介されたのが王立魔法学園 魔法研究学校という学校なわけ。


 わたしは魔法の技術について、研究したい事がたくさんある。だから魔法の知識を高められるのならば学びたいと思い、王都を目指してやって来たのだった。

 

 わたしに限らずこの魔法研究学校を訪れる誰もが自分だけは才能があって、伝統ある魔法研究学校に入るべきだと考えているように見える。


「何よ、嘘つき。あいつらやっぱり遊びだったわけね」


 生活費から学費を絞り出して、はるばる王都までやって来た以上、諦めたくはない。


 故郷の田舎領主の街では十年に一人の天才魔女と言われたわたしだけれども⋯⋯試験会場にはわたし程度の魔法使い見習いはゴロゴロいるのがわかってついぼやきたくなった。

 

 知識も同年代の子たちを圧倒するくらいの、かなり頭の良い集団もいた。田舎娘が自意識過剰なんだよと、今頃わたしに王都行きを推薦した冒険者達(チンピラ)笑われていそうなのがムカつくわね。



 ⋯⋯入学試験シーズンの寒空の下には、そんな夢見る入学希望者の熱気に溢れているようだった。


 魔法研究学校の試験会場は、大講堂が使われていた。千五百人以上の席がある建物で、普段は学校行事や王族の方や有名な講師が来た時に使われるだけの場所だ。


 わたしは混雑を予想して、試験会場には予定よりも、かなり早目に行くようにした。決して田舎者だから、迷子になるって理由ではないわよ?


 会場に着くと受付を済ませ、規定の試験料を支払う。噂で聞いていたのと違い、厳格な審査などなくて雑に感じたのは気の所為だろう。


 案内された部屋に着くなり試験用紙を手渡される。受付した順番に席へと座り、出来る問題から解いていく。微妙に隣の席から離れていて、覗き見すれば試験官からバレてしまう。


「問題はそれほど難度は高くないようね」


 わたしにも分かる問題が多くて助かった。解けない問題や難しい問題はチェックはするけれど、パスすることが多い。


 だって、興味がない問題なんか頑張って頭を捻らせようと答えなんて出ないものね。


 不正を防ぐためなのか、魔法と無関係な問題や決まった答えのない問題まであるみたい。


 毎年設問も変わるから試験の対策をするとしても、それが実際に可能なのは過去の問題集を読める王立図書館のみとなる。


 図書館を使うためには利用料を取られるし、入学試験期間は貸し出し禁止になっている。


「結局のところ王都住みでお金と時間に余裕がない限り、前もって勉強しておくのは難しいってことになるわけね」


 誰でも自由に試験を受けられる理由は明白だ。受験生が押し寄せる事で王都の経済が潤い、受験料も徴収出来る。


 ⋯⋯そんなわけで筆記は自分が思ったより知らない事が多いなと知らされたので、さっさと終了する事にした。


「⋯⋯もうよいのかね?」


 試験場の監督をしていた先生が驚いて尋ねてくる。わたしよりも先に十名程来ていたのに、わたしが抜いてしまったからだ。


「⋯⋯はい」


 わたしはコクリとうなずく。これ以上書きようがないものに時間を使うよりも、面接官が大勢を相手にして疲れてしまう前に、さっさと面接を済ませたかったのだ。


 筆記試験の制限時間は、まだたっぷりとある。早目に来れば当然時間をたくさん使えて、有利という事になるわね。


 自由に開かれた門戸⋯⋯裏を返せば早い者勝ちで自由ではない時間を確保する生存競争の状況。それに気づいて早く来た人達は、普段から抜け目ない人達なのだろう。


 席の確保は競合者の締め出しにもなるから、席を確保し続けてる人達も中にはいた。でも、まあ居座る人達が試験に合格出来る保証もないのよね。合格人数を考えると効果はあるのかしらね。


 雑に感じたのは、経済効果を考えたこの試験の仕組みのせいだ。規則が緩いので、筆記試験を攻略しようと思えば、いくらでも手があるからだ。


 現に試験終了時間が明記されているにも関わらず、遅めに来る強者たちもいる。千五百ある席が、全て埋まっていて、試験に挑む事すら叶わない人もいるようだ。


 面接の時間も限られているので、蹴落とすために粘り過ぎると自分も落ちる罠ね。なんか面接官の先生が、そういう裏話をぶっちゃけていた。試験の結果もまだなのに、暇だからって内情を知らせていいのかしら?


 公然の秘密なのだそうで何度も受けた事のある人や噂を聞いている人は、早目に来て、そうした妨害にかまけるんだとか。それさえ集客のための罠なのだけど⋯⋯わたしならば先に資金が尽きる自信がある。


「先に来ていた彼ら⋯⋯色々な我慢の限界そうね」


 解答用紙を受けた際に名前や時刻はチェック済なので、彼らのように本来の目的を忘れてやり過ぎる人達はお察しの結果になっていそうだ。


 面接で求められたのは、魔力量でも知識量でもなくて、学ぶ気持ちと必要性だったと終わってから感じた。そうと思わなければ、ただ田舎者が騙された⋯⋯で終わってしまう。


 ちなみに知識は完璧な集団は、筆記試験の結果は良かったのに半数以上が落とされていた。わたしより魔力のある子達も、魔法の力を誇示しようとして王国兵に捕まっていたものね。


 経済効果の理由以外にも、実際王族も通う学校でもある場所なので、理不尽に見える選定方法にも意味があるのかもしれないわね。


 それでもお金だけ取られて、会場に入る事すら出来なかった子達に比べて、わたしは受ける事が出来ただけでマシな方なのかも。


 ⋯⋯そんなこんなで、わたしは高い競争率を勝ち抜き、魔法学園へと合格した。筆記試験の結果は予想通りね──というか、まあ聞かなかった事にしてほしいわね。


 ほぼ面接官との雑談のやりとりだけで、貴重な一席獲得出来たのだというのは、わたしにだってわかっているわよ。


 それでも狩人の罠に似た仕組みや、既に入学が決まっていた才能豊かな人達や貴族の出身者が多くいる中で、合格出来たのは素直に嬉しいものなのよね。


「だいたい天才魔女とは言われても、田舎の領主街では魔法よりも力仕事や針仕事の方が重宝されていたんだからさ⋯⋯」


 魔法なんてあってもなくても生活に何の影響もない、と考える人達の多い街だったものだ。


 あの街で天才って言葉は、実際はろくに働ける力のないものという、馬鹿にされた揶揄の意味に近いのが悔しい。


 火をつけたり水を出したりする生活魔法だって、ただの便利屋扱いされるだけだったからねぇ。


 故郷の人達にはいつか見返すとして────ううん絶対に見返してやるとして、わたしは合格通知をもらって入寮のための準備を始めた。


 安い宿でも毎日の食事もあって、宿泊費用がかかる。入寮費用だって、いつ入ろうが一定の利用料が取られるわけ。だから宿から寮へと移る事が出来るのなら、早いとこ移動したかったのよね。


 準備にしても学校で必要な物は大抵は学校で用意してくれるので、貧乏なわたしにはとても助かるのだ。


 教科書類は卒業生が置いていったものを貸し出してもらえる。希望者は申し込みをして、貸し出しの手続きすればいいだけだった。


 新しい教科書かどうかで、その人の懐具合がわかっちゃうのは悲しいものね。中身が同じならば、わたしはそれでも充分だけどさ。


 他にもわたしが受けるつもりの錬金魔術科や付与魔術科の道具や材料も、授業の際には学校の備品を使える。


 魔法の道具類は新品よりも、手入れされ馴染んだ道具の方がいい場合もあるそう。確かに基礎を学ぶのに、道具に変な癖がついているせいで、本来の分量と合わない事もあるから難しいものね。


 買い揃えても薬師や錬金術士などに進まないなら、そうした道具は教科書と違って邪魔になるものだ。そのため新品を買う人は、裕福な貴族でも実は少ないそうだ。


「それって貴族らしくないのかしら?」


 庶民のわたしからすれば当たり前の話も貴族では家の格に関わりそうだ。別の世界、関係ない話だからいいか。


 自分で用意するのは主に生活に必要な物や食料品となる。ベッドやテーブルや棚などは各部屋に備えつけられている。枕やシーツは必需品で、筆記用具やランプも一応持って行く事にした。質の良い油は高くて買えないのよね。


 魔法学園の学生寮は、古めかしい歴史を感じさせる石造りの建物だ。王都が王都になる以前から存在しているらしい。一年に一度、魔法で外壁の汚れを落として職人が修繕を重ねているそうだ。見かけ以上に年季が入っている施設だった。


 魔法学園と寮には共同の食堂もあった。学校の食堂はお昼に、寮側では朝と夜に利用出来る。授業の休みの日は、寮側でもお昼に使えるみたいだ。


「街中の食事処よりも安くて美味しいらしいのよね。お金のないわたしには目の毒でしかない所だわ」


 毎日の利用だとお金も結構かかるので、自分達で調理も出来るようにと、調理室も別にあった。


 食料品は調味料などを先に買い込んでおいて、各自部屋に置いておき、授業の前や後にその都度食材を買って作って食べるのが一般的だ。


 晴れてロブルタ魔法学園魔法研究学校へ入学するわけで──これまでにも試験を受けるための旅費、試験までの滞在費用、入学試験の受験料や合格した後の授業料などと、結構お金がかかっている。


 わたしは裕福ではないから調味料一つ買うような、ちょっとした出費でもお財布にダメージが入って痛いのよ。


 街の人には馬鹿にされたものだけれど、探索に出て稼げて助かったわね。こき使わた冒険者パーティーのお手伝いのおかげで、まとまった稼ぎが出来て貴重な報酬が、いまは役に立っている。


 子供だからって舐められるし、騙されて苦労しながら頑張って貯めたお金なのよ。思い返すと腹ただしいので、あいつらに感謝なんかしないからね。


 お金は貯めるのは凄く大変だったのに、使うとなると簡単に消えてゆく。


「水の泡って、まさにこういう状態を言うのね」


 悲しい現実に打ちひしがれ⋯⋯って、遊んでいる暇はない。荷物が重くなる度に、お財布が軽くなるのは未来の自分への投資なのだからね。


 わたしは王都でなるべく安くて質の良い店で必要最低限の品を買い揃え、ヨタヨタと荷物を抱えながら学園近くにある寮へと向かった。


 魔法学園の寮は親元を離れ遠くからやって来た、わたしのような学生が圧倒的に多い。値段のわりに設備が整っているのも好評で、寮を利用する理由に上がる。


 雑談の最中、わたしの暮らしぶりを憐れんだのか、合否の確認前に試験官が入寮の手配をしてくれた。何故かは怖くて聞かなかったよ。


 裕福な貴族や商人の子供は寮に入らずに王都にある自邸から通うし、邸のない貴族や商人なら宿を借りていた。


 ────もちろんわたしのような安宿ではなくて、身分に合わせたそれなりの所にね。

 

 貴族といっても全ての貴族が裕福なわけはない。中には貧乏貴族、つまりわたしのいた田舎の領主のように、身分の低い下級貴族や領地を持たない騎士爵などは寮に入る。見栄を張る余裕がないか、貴族というより商家が成り上がると、現実的になるようだった。



 学校にはたまに威張っている子もいるけれど、魔法学園に来るような子は基本的には控え目で、大人しい子が多かった。


「⋯⋯⋯⋯」


 わたしの部屋は寮の二階の相部屋。部屋には先に来ていた少女がベッドに腰を降ろし、オドオドした小動物のように座っていた。見た目は幼く、可愛らしい娘だ。


 荷物をまだ仕舞っていない所を見ると、二つあるベッドのどちらを使うのかを決めかねているようね。同室のわたしが来るのを待っていてくれたみたい。待たせて悪いので、わたしは自分から声をかける。


「────はじめまして。わたしはカルミアといいます」


「あっ⋯⋯は、はじめましてヘレナです」


 荷物を抱えての唐突な挨拶にも即応するとか、やるわねこの娘。荷物にかけられた古びたマントの紋章から、貴族らしいことを確認する。平民のわたしは荷物を置き、改めて深々とお辞儀をし挨拶をした。

 

 寮長に先に必要な書類の提出をしに行った時に、相部屋の子は騎士の娘と聞いていて良かったわ。挨拶も出来ない平民にブチ切れる貴族はよくいるものだからね。


「そ、そんなことないです⋯⋯」


 ヘレナにわたしの心が読まれたようだった。勝手に警戒して身構えてしまって恥ずかしいわ。荷物はわたしと大して変わらない量のようだ。


「えぇと、ヘレナ様。ベッドをお先に選んで下さいませ」


 貴族の子に対してどういう接し方がいいのかわからない。わかるわけないか、冒険者たち(チンピラ)が先生みたいなものだったもの。先に来ていたのだから、早い者から選ぶのは間違いないと思うのよね。お貴族さまなら尚更よ。


「あ、あの私の事は敬称なしでいいです。騎士と言っても父が騎士爵位を得ただけですかや。あと⋯⋯ベッドは相談したくて」


 なんか凄く怯えてるように見えて、意見をはっきり言える子なんだなぁとわかる。


「それならお互い遠慮はなしでいきましょう。あと、先に来たのはヘレナよね。だからベッドは先に選んでほしいの」


 遠慮は止めようといいつつ、ヘレナという娘の人柄から、譲り合いが始まりそうだもの。正直早く荷物を片付けたい。


「そ、それなら窓際のベッドを使います」


 あれ、なんかわたしと彼女って逆じゃないかしら。平民のわたしが主導権を握ってどうするのよ。


 でも初対面なのにあんまり気遣いし過ぎても先は長いし、精神的にバテちゃうものね。


 それに同室の子には恵まれたかなと思う。乱暴だったりうるさい人だと喧嘩になってるだろうし、気難しい子や無反応な子は打ち解けるまで時間もかかるし大変だから。


 ヘレナはたぶん用心深い性格の娘だと思うのよね。わたしの勝手な推測だけどさ。


 貴族と言っても領地持ちではない騎士位の子供では、平民と大差ないとわかっている。この娘は別に臆病でも、卑屈ではないから慣れれば普通に話してくれそうね。


 どちらかと言えばわたしの方が、面倒な図々しいやつって思われてないか心配になってしまったわ。

 ご来訪ありがとうございます。二作品目の連載となります。


 更新は一日一話くらいのまったりで進める予定です。


※ 2023年7月8日 講堂の席数五百人→千五百人に変更。


※ この物語は、頭髪に関わる話し、成分と称する体液に関わる話しがあります。 


※ 2024年4月11日、久しぶりに読み返して読みやすい表現、文章に手直しを開始してます。


※ 2024年6月より別掲載していた続編部分の連載を、こちらの本編に合わせて改稿再掲載しております。


※ ブックマーク、いいね、評価応援等、よろしくお願いします。

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