オークに素手で殴りかかるのは無謀
そのゴブリンは上機嫌だった。突如現れた建物を仲間とともに見にくればそこには大量のエサがいた。そのエサ達はこちらが襲い掛かっても戸惑うばかりでろくに反撃してこない。中には反撃してくる者もいて殺される仲間もいたが、元より仲間意識などないに等しい。反撃してくる者を避け、他のエサに襲い掛かり、オスは殺して食べ、メスは犯す。
上機嫌に腰を振っていたゴブリンは後ろから近づいてくる者に気付かず、頭に振り下ろされる物にも気付かなかった。
人が最も無防備になるのは排泄時とヤッている時だと言うが、ゴブリンも同じようだ。見知らぬ女子生徒を犯していたゴブリンの後ろから近づき、工具箱から拝借したバールを振り下ろす。肉を打つ感触にも多少は慣れてきた。最初のうちは躊躇いがあり、即死させることが出来なかったが、ようやく一撃で仕留めることができるようになった。
犯されていた女子生徒は何が起こったのか分かっていないのか、目を白黒させていたがそれには構わず
「ステータス!」
……叫んでみるが何も起こらない。
「くそがあぁぁぁ!まだ経験値が足りないのか!」
既に十体以上仕留めているが何も起こらない現実につい叫んでしまう。
「せ、せんぱい!落ち着いてください!」
隠れていた北條に声をかけられて冷静になる。あとどのくらい経験値がいるのだろうか。まさか本当にステータスなどないのだろうか。
俺が悩んでいる間に北條は犯されていた女子生徒に声をかけて逃げるように促している。立ち上がるのにも苦労していた女子生徒は俺達に着いてきて欲しそうだったが、北條が他の人達も助けなくてはならないので、などと適当なことを言って追い払っていた。
「…容赦ないな」
思わず溢した俺に北條はジト目を向ける。
「なんですか、同情でもしたんですか?それとも俺が忘れさせてやるとか言ってヤリたいんですか?」
割と不謹慎なことを言ってくるが俺にそんなつもりはない。
「そんなことしねぇよ。そもそも俺は処女厨だからあの子は無理だ」
「サイテーですね」
俺を見る視線の温度が低下する。冗談だからその目はやめろ。
「んんっ。とりあえず十体以上仕留めたが体に変化はない。ゴブリンを狩っているだけじゃダメかもな」
咳払いで誤魔化して考えてたことを北條に伝える。
「じゃあどうするんですか?ゴブリンは無視して薫ちゃん達を探します?」
「そうするかなぁ。ゴブリンを狩っても無駄みたいだし」
そう言いながら何気なく窓の外を見る。外に逃げた生徒達と彼らを追いかける魔物が見える。それはゴブリンではなく、二足歩行の豚だった。
オークもいるのかよ…
【晴人SIDE】
「斉藤さん、急いで」
晴人は斎藤の手を引きながら走っていた。中庭で斎藤と弁当を食べていたら突如地震が起き、得体の知れない怪物達が徘徊するようになった。
怪物達は校舎の中にも出現しており、避けて移動していたら校庭に出てしまった。ここでは見通しが良くて隠れる場所がなく、怪物に見つかってしまった。
「はっ、はっ、げほっ」
大人しそうな見た目の斎藤は外見通り運動が苦手なのかかなり息を乱している。このままでは追いつかれるのも時間の問題だろう。
「二足歩行の豚…。漫画で見たことあるけどオークだっけ?信じられないけど…」
斎藤に合わせて走っているので、まだ体力に余裕のある晴人は追いかけてくる怪物を見てそう溢す。
オークは晴人には目を向けず、斎藤を凝視している。やはり男より女に執着しているようだ。
(斉藤さんを見捨てれば生き残れるんだろうけど…)
そう思いながらちらりと斎藤を見る。斎藤は必死に走りながら、縋り付くような視線で晴人を見た。
(流石に見捨てるのは後味が悪過ぎる。嫌いな相手というわけでもないしなぁ)
そんなことを考えていたら、ついに限界が来たのか斎藤が足をもつれさせて転倒する。オークがニヤけながら近づいてくる。
(まずい!彼女が逃げる時間をかせがないと!)
晴人はオークの気を引くためにオークに殴りかかる。だが殴りかかった拳は厚い脂肪に弾かれまったく効いていない。さらにオークが鬱陶しそうに振った腕に当たっただけで薙ぎ倒される。
(ぐっ…。体格差がありすぎる。素手じゃろくに時間稼ぎも出来ないぞ)
起きあがろうとしながら現状を打破しようと考えを巡らすが何も思いつかない。
(せめて斉藤さんだけでも逃がさなければ…)
なんとか起き上がり、斎藤に近づこうとするオークを睨み付ける。再度オークに殴りかかろうと一歩踏み出す。しかし
こちらに目を向けたオークは横から突如やってきた車によって吹き飛ばされた。
「ええぇ…」