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青春の1ページ

「皇先輩、今日もお昼ご飯一緒に食べませんか?」


 翌日の昼休み、今日は昼休みが始まってすぐに後輩ちゃんがやってきた。

というかこの子、大人しそうなのに行動力と度胸がすごいな。上の学年の教室に来て、昼食に誘うなんてそうそうできないだろ。


「え~っと」


 晴人が困ったように俺のほうを見てくる。悩むなよ、俺に気を遣う必要はないぞ。


「うん、ありがとう悠眞」


 申し訳なさそうな顔をする後輩ちゃんと晴人に手を振りつつ、教室を出る。さあ戦争(購買のパン争奪戦)の時間だ。




 戦争を生き抜き本日も屋上へ。中庭を見ると晴人と後輩ちゃんが弁当を食べている。


「マメだな後輩ちゃん。晴人はもう戦争に参加しないでよさそうだな」


「彼女は意外と行動力あるので」


 独り言のつもりがまたしても返事があった。高宮の声ではなさそうだが…。


 疑問に思いつつ振り返ると見知らぬ女子生徒がいた。ボブカット茶髪ので陽キャっぽい。この女子生徒もタイの色からして一年らしい。


「どちらさん?」


「申し遅れました。私、薫ちゃんの友達の北條茜と申します」


「薫ちゃん?」


「あそこで皇先輩とお弁当を食べてる篠崎先輩が言うところの後輩ちゃんです。斉藤薫」


 聞き返した俺にそう言って中庭を指差す北條さん。



「ほ〜ん。で?その北條さんは俺に何の用?」


「一言お礼をと思いまして」


「お礼?」


 心当たりがなく首をひねる俺に彼女は頭を下げ


「先日は突然押しかけたにもかかわらず、薫ちゃんに気を使っていただいてありがとうございました」


 どうやら彼女もあの場面を見ていたらしい。いや、斎藤さんに聞いたのか?


「気にするな。それなりに手間をかけ、勇気を出したであろう彼女の行動が無駄になるのはどうかと思っただけだ。まぁ相手の都合を考えていなかったのはどうかと思うが」


「そうですよね…」


 彼女は俺の隣に来て手摺りにもたれながら弁当を食べている晴人達を見て笑みを浮かべた。


「驚いたんですよ〜。一昨日待ち合わせ場所に行ったら薫ちゃんの第一声が「一目惚れってあるんだね…」だったんですから。それも相手が割と有名な先輩だったんですから」


「有名なのか晴人って?」


 俺が疑問に思って聞いてみると意外な言葉が返ってきた。


「有名ですよ〜、皇先輩だけじゃなくて篠崎先輩も」


「俺も?」


 そんな自覚がなく驚いている俺に彼女は言った。


「ええ。二人とも方向性は違いますが整った顔をしていて、運動も勉強も出来るみたいじゃないですか。加えていつも二人一緒にいますし」


「あぁ、なるほど」


 自慢じゃないが俺も晴人も運動も勉強もそれなりに出来る。部活には入っていないが。




「二人はできているんじゃないかって」


「そんな事実はない」


 誰がホモか。


「安心しました。男にしか興味なかったら薫ちゃんの恋は始まる前にゲームセットですし」


「まぁ恋が成就するかは分からんがな。あいつ意外とガード固いし」


 晴人は見た目は爽やかだし、気も使えるから寄って来る女子は多いが、少なくとも高校で彼女がいたことはない。


「そうなんですか…。篠崎先輩は理由って知ってます?」


「知らん。昔、女子に言い寄られて嫌な思いでもしたんじゃねぇの?」


 本人が何も言わない以上、俺から聴く気はないし、ぶっちゃけ興味もない。


「…篠崎先輩、薫ちゃんと皇先輩が付き合えるように協力してくれませんか?」


「…今日みたいに二人きりにするくらいはしてやってもいいが、やけに気にしてるじゃないか」


 正直意外だ。見た目からすると二人が友達っていうのも意外だし、ここまで気にするようにも見えない。


 そう言うと彼女は照れくさそうに言った


「昔から仲の良い大事な幼馴染なんです。」


「…まぁ幼馴染は大事だわな。さっきも言ったが二人きりにするくらいしかしないぞ。あまりに露骨だと晴人も嫌がるだろうし」


「ええ、それで充分です。よろしくお願いします」


「あいよ。そういえば北條さんは昼飯は食ったのか?」


「いえ、まだです。それと呼び捨てでいいですよ」


「じゃあ北條、このパンやるよ」


 そう言いながら余っていたパンを渡す。


「ありがとうございます。でもなんでパンが余っているんですか?」


「今日は人気のパンを多く確保できたからな」


 購買ではいつも人気のパンを確保できる訳ではない。戦争に負けてあんぱんしか買えないこともある。だから俺と晴人は確保できそうならお互いの分も買っていたのだが、いつもの癖で晴人の分まで確保してしまった。


「そう聞くとなんか申し訳ないですね。おいくらですか?」


「いらん。お近づきの印だ」


「お近づきの印が余りものですか…」


 言うじゃないかこいつ。


「冗談です。本来なら余りものではなかったでしょうし」


 何やら申し訳なさそうにしているがいらん心配だ。


「そもそも俺が忘れていたのが悪いし、後輩が一生懸命晴人と距離を縮めようとしていることに文句を言うほど無粋じゃねえよ」


 彼女には悪いが学園ラブコメを見ている気分である。


 俺の言葉が意外だったのか北條は目をパチクリさせている。なんだその反応は、かわいいじゃないか。


「ふふっ、篠崎先輩ってぶっきらぼうなようでいて、意外と気遣いできるんですね」


「意外とは余計だ。他人に余り興味がない俺だって真剣に頑張っている奴の邪魔はしない」


「そういうとこ好感度高いですよせ~んぱい!」



 なにやら好感度が上がったのか、それとも舐めらているのか、呼び方の変わった後輩とパンを食べながら中庭で弁当を食べている二人を眺める。これもまた青春の1ページかねぇ。




 こんなありふれて退屈な青春の日々がこれからも続くとこの時はそう思っていた。


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