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敗者に口なし

 高宮SIDE




篠崎君と別れた後、私達は千田さん達と交渉を始めた。私達も日本の倫理観ではこの世界で生きていくのは難しいことは理解している。だから体を対価に守ってもらうこと自体は否定しない。だけど望んでそうしている人達はともかく、無理矢理犯されている人達がいることは容認できない。


「傲慢ですわね。弱肉強食、弱者が強者に搾取されるのは当たり前でしょう。日本ならともかく、この世界では特に。神様もそれを推していますし」


「だからと言って無理矢理はよくないよ。そんなことしないでみんなで協力して生きていこうよ」


「それが出来なかったからこそ今の状況があるのでしょう?対価もなしに危険を冒せる人などそうそういませんわ。それに何もしないで恩恵を得ようとする人など重荷でしかない。ギブアンドテイク、対価はいただきませんと」


「望んで庇護下に入った人はそれでもいいけど無理矢理はやっぱりダメだよ」


「敗者に口なし。生存競争に負けた者は何をされようが口を出す権利はありませんわ。それに食料は与えているので少なくとも餓死はしません。この世界に適応出来てない者にとってはむしろ行幸ではありません?」


 弱肉強食を掲げる千田さんとみんなで協力しようとする私、話し合いは平行線で進まない。


「もう話し合いはいいだろう高宮。これ以上は時間の無駄だ」


「無駄って…じゃあどうするの上原君?」


「千田の言う通りにすればいい。敗者に口なしなんだろ?俺達が勝ったら従ってもらうぞ千田」


「もちろんいいですわよ。貴方達が勝ったら私達を従えるなり犯すなり好きにすればよろしい」


「別に犯すつもりはないが…」


「しないならしないで結構。勝者の意見が全てですから」


 そう言って嘲笑う千田さん。完全にこちらを見下している。


「まあいい、勝負の方法は…」


「なんでもあり、降参するか死んだ方の負け一択ですわ」


 上原君を遮ってそう言う千田さん。流石にそれは認められない。


「待って!そんな物騒なのはダメだよ!何か別の方法に…」


「そんなものはありませんわ。そもそも力づくで相手を従えればいいだけの話でしょうに。やりなさい」


 千田さんがそう言うと背後に控えていた人達が襲い掛かってくる。


「そんな!ルールも決めてないし、開始の合図もなく!」


「殺し合いにそんなものあるわけないでしょう?相手を倒して最後に立っていればいい。ルールなんてこれだけでしょう」


「くっ、下がれ高宮!とりあえずこいつらをぶちのめす!」


 そう言って襲い掛かってきた相手を逆に殴り倒す上原君。それに続いて他の人達も攻撃するが化け物と違って人間を攻撃するのは躊躇いがあるのか思い切りが良くない。だがそれは相手も同じようでどこか遠慮したような動きに思える。でもなぜか上原君にだけは本気で殺そうとして攻撃している?。


(?上原君って何か恨まれるようなことした?)


 なぜか上原君に対する攻撃だけ激しいが元々身体能力に優れた彼は相手を倒していく。


「この程度か?鍛え方が足りないな」


「流石ですわね。高い身体能力に人を攻撃するのに躊躇いもない。私側につきませんか?こちらの方があなたに合っているでしょう」


 劣勢なのに余裕が崩れない千田さんが上原君を勧誘する。彼があちら側に付くと逆転されてしまうだろうが…


「断る。仲間を裏切るつもりはない」


「御立派ですわね。まあそう答えると思ったから勧誘しなかったんですけど」


「何を言っている?勧誘なら今した…ぐっ!」


 突然呻き声を上げた上原君。目を向けるとすぐ後ろにいた白沢君がナイフを上原君の背中に突き刺していた。


「っ!なんのつもりだ白沢ぁ!」


 白沢君の腕を振り払い睨みつける上原君。背中からナイフが外れ血が出ている。


「ハハッ、悪いな上原、俺達は千田に付くことにした」


「俺…達?」


「こう言うことだ」


 そう言って千田さんの方へ歩いて行きこちらと対峙する私と上原君を除いた…全員。


「う…そ…」


「嘘ではありません。彼らは勧誘に応じてくださいました。貴方達ではなく私の味方です」


 勝利を確信して顔でこちらを嘲笑う千田さん。


「くそがっ!卑怯だぞ!」


「殺し合いなんてどんな手を使おうが勝てばいいのです。相手に卑怯と言わせた者の勝ちですわ。それに最近はよく言うでしょう?勝った方が正義だと」


「くっ…お前らも何故裏切った⁉︎」


 鬼のような形相で白沢君や他の裏切った人達に問いかける上原君。それは私も聞きたい。


「クククッ、答えは簡単だ。千田に付けば高宮とヤらせてくれるそうだからな」


 そう言って欲望に濁った目でこちらを見てくる。思わず自分の体を抱きしめて数歩下がってしまった。


「ゲスがっ!お前らも同じか!?」


「俺達だって最初は真面目に働いてたんだぜ?」


「だけどこっちは見返りもなく助けてやってたのに文句を言う奴らが多くてなぁ。なんでこんな奴らの為に頑張ってんだろって思うわけよ」


「それなのに千田達は欲望に正直に生きてて羨ましくなってな。ぶっちゃけ高宮に気に入られようと思って従ってたが友達以上にはなれなさそうだし」


「まあそんな訳で心は諦めて体だけでも手に入れようと思って千田に付いたんだ」


 白沢君達が次々に言う言葉を理解するにつれ今までしてきたことが否定された気になる。


 確かに見返りを与えられてなかったが別に手伝いを強制した訳ではない。私にとっては誰かを助けるのは当たり前で、それを続けていくうちに手伝ってくれる人が増えたのは嬉しかった。私と同じように誰かの為に動ける人達を増やせたのは誇らしかった。


 確かに打算があった人達もいたがそう言う人達は何の見返りもないと知ると離れていった。だから見返りがないと知っていても離れていかなかっ人達は真摯に人助けをしていると思ってたのに…。


「お前達は打算で従っていたとしても高宮に共感してた奴らも多かったはずだ!そいつらはどうした!?」


 何も言えずにいる私と違って上原君がそう問いかける。そうだ、白沢君達のことは残念だが他にも私について来てくれた人達はいたはずだ。女子も大勢いたしその人達が私の体目当てで裏切るわけはない。


 そう希望を持った私に残酷な現実を突きつけられた。


「他の奴ら?大半は死んだか千田の仲間や化け物に犯されてるんじゃね?」




 私は自分の耳を疑った。



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