ピッチャー振りかぶって、第一球投げました!
「こちらス○ーク、バリケード内に侵入した。これより調査を開始する」
ス○ークごっこをしながらバリケードの中に入る。耳を澄ませるまでもなく騒がしい。暴動でも起きてんのか?
周囲を警戒しながら上の階へ向かう。そこには荒れた風景が広がっていた。倒れたまま動かない男子や犯されたのか裸でぐったりしている女子。ここはスラムですか?
とりあえず気にしないようにしながら先に進んでみるとこちらに走ってくる音が聞こえた。
「待て高宮!ヤらせろ!」
「俺が先だ!前から狙ってたんだ!」
「はぁ、はぁ、誰か助けて…」
必死に逃げる高宮と血走った目で追いかける男子が二人。
「!篠崎君!お願い助けて!」
「邪魔すんな!ぶち殺すぞ!」
俺に気付いて助けを求める高宮と本気で殺しかねない形相で叫ぶ男子。倫理はどっかに行ったらしい。
(近づかれると殴りかかって来そうだな…)
溜め息を吐きながら部室棟に行ったときに拾った野球の硬式ボールを取り出す。ピッチャー振りかぶって、第一球投げました!
投げたボールはこちらに走ってくる高宮の横を通り男子の足に当たる。まさかボールを投げてくるとは思わなかったのか、当たった男子は転び、もう一人もびびって足を止める。ついでに自分のすぐ横をボールが通り過ぎた高宮もびびってる。それでもこちらに走ってきて俺の後ろに隠れた。
「怖いなー殺すなんて言われたからうっかり反撃してしまったよ」
「ひ、卑怯だぞ!硬球なんて当たりどころによっては骨にヒビが入るかもしれないんだぞ!」
当たってないほうが騒ぐ。当たったほうは痛みで呻いている。
「殺すとか言ってた奴が何言ってやがる、バカなのか?殺すのに比べたら骨にヒビが入るくらい大したことないだろ?」
そう言いつつもう一個ボールを取り出す。
「う、うるせぇ!いいから高宮を…ぐわあ!」
反省してないようなので第二球を投げる。脛に当たった男子は崩れ落ちて悶えている。
「あ、ありがとう篠崎君。でもやりすぎじゃ…?」
高宮がお礼を言ってくるが悶える男子達を見て同情心でも芽生えたのかそんなことも言う。
「犯されそうになったのに甘いなぁ高宮。俺だって殺されるかもしれなかったのに」
そう言うと自分が何をされそうだったか思い出したのか同情心が消え、怒りの表情になる。
「高宮も投げるか?こいつら生かしといてもろくなことにならんぞ。というかこの校舎内はロクデナシばっかになってるし」
何があったんだ?
「神様が好きにしろって言ったんだぞ!俺達は悪くねぇ!」
第三球を投球。神様のお墨付きをもらいタガが外れたのか。そう言えばそうなることを望んでいるような言動だったな。人間の醜さが垣間見える現状のほうが見てる分には面白いってか?邪神かな?
「あんなこと言ってるけど止めようとした奴はいないのか?ここに来るまでに似たようなことしてる連中をみたけど」
「私はその場にいなかったんだけど、止めようとした人が刺されてみんな怯んじゃったみたい…。それに私がリーダーなことに納得してない人が現状に不満がある人達を纏め上げて派閥を作ったみたいで…」
新しいリーダー(千田という女子らしい)曰く、高宮の方針ではいずれ破綻する。全員が助かることが出来ないなら優秀な自分達は優先されるべきだ。自分達は優秀なので何をしてもいい。飼われる女達は生きれるのだからむしろ感謝すべきだ。自分達に逆らう者には制裁を。自分達は正しい、何故なら神様が認めたから。
「…頭おかしいんじゃね?」
こんな考えの時点で優秀じゃねぇだろ。
「不満が溜まってたのか好きに行動したいって人が多かったみたいで…」
「………」←割と好き勝手に行動してるので何も言えない
「私なりに頑張ってたんだけどなあ…」
そう言って泣きそうな表情をする高宮。
「高宮が頑張ってたのを知ってる連中も多いだろ。上原とか」
「うん。上原君の他にも味方してくれた人達はいるけど…」
「とりあえずそいつらはお前の味方だろ。ほら、言ったそばからお迎えだ」
そう言って高宮の後ろを指差す。
「無事か高宮!」
上原を先頭に何人かやって来た。割とボロボロだけど争ってたのかねぇ。
「うん、篠崎君が助けてくれたから何ともないよ」
「そうか、俺達からも礼を言おう。ありがとう篠崎」
「気にするな」
わざわざ礼を言うとは律儀だな。だが後ろの連中の反応が気になる。なにやらコソコソ話し合っている。
「白沢君達どうしたの?」
「いや、何でもない」
「そう?」
高宮も後ろの連中を気にするが、そこまで気にしていないのかすぐに上原と話し始めた。
「なんとか合流できたがこの校舎の中は千田の影響下にいる奴が多い。ここから出た方がいいと思うがどうする高宮?」
「う〜ん、自分から進んで千田さんに従ってる人達はともかく無理矢理従わせられてる人達は解放してあげたいかな」
「千田がそれを認めるか?」
「分からないけど一度話し合ってみようよ」
合流して早々に今後の話をする高宮達。もう帰っていいかな?(興味なし)
高宮の意見にみんなは反対らしいが結局高宮に従うようだ。俺には関係ないから帰ろうかなと考えてると高宮に袖を引かれた。
「篠崎君も一緒に来てくれないかな?」
そう言って上目遣いでこちらを見る高宮。あざとい。狙ってやってるのか天然なのか分からないが、高宮にこうやってお願いされると聞いてやりたくなるな。
「悪いが断らせてもらう」
まぁ断るんですけどね。
「そっか…篠崎君が一緒に来てくれたら心強かったんだけどなぁ」
「俺がいなくても高宮には心強い味方がたくさんいるだろ?」
「もちろんそうなんだけど篠崎君にも一緒にいて欲しかったの!」
照れるぜ。そんなこと言われると一緒に行ってやりたくなるわ。
だが断る(鋼の意思)
「仲間に何も言ってないからな。そろそろ戻らないと」
見ず知らずの他人の為に抗争に首突っ込むのめんどくせぇ。(本音)
勝手にやってて下さい。
「む〜私より仲間を選ぶんだ?」
なんかめんどいこと言い出した。どうした高宮。
「なんてね!無理強いはしないよ」
なんだ冗談か。いつの間にか好感度上がったのかと思ったわ。
「そうか、んじゃ俺はそろそろ戻るわ。うまくいくといいな」
「うん、篠崎君も気をつけてね」
高宮達に背を向けて歩き出す。相変わらず高宮は善人でいい奴だな。
「うまくいくとは思えねぇけどな」
純粋な善人じゃあこの世界で生きていくのは難しいだろ




