暇を持て余した神の遊び
「ごちゃごちゃうるさいぞクソガキども」
先程までとは違う口調でそう言い放った神様に驚いたのか今まで文句を言って者達が口を閉じた。
「黙って聞いてれば神を相手に無礼だぞ貴様ら。身の程を弁えろ」
先程までのは演技だったのか傲慢な態度を隠しもしない。
「うっ…、でもそっちが勝手に呼んだんだからチートくらい…」
みんなが口を閉じる中、神様に反論する勇者が一人。おいおい、死んだわあいつ。
「神たる我が貴様ら下等生物を転移させたくらいでなぜそのようなことをせねばならない?」
「でも…小説じゃ…」
「はっ。創作物と一緒にするな。魔王を倒すために異世界から呼び寄せて力を与える?戦いの素人を呼んでどうする?現地の最強の人間に力を与えるわ。死なせてしまったお詫び?貴様らは虫を踏み潰したらお詫びをしようと思うのか?気にもしないだろう?我も同じだ」
「…じゃあなんで俺達を転移させたんだ?」
「暇潰し。突然別の世界に転移した人間がどのような行動に出るか見たかった。なかなか面白かったぞ」
「そんな…神がそんなことを…」
「神だからこそだ。我の庭で何をしようが我の勝手だろう?貴様らの世界でも神は好き勝手にしていたであろう?」
そういや神話に出てくる神とかロクなのがいなかったな。北欧神話とか。
「くっ…神だからってそんな真似が許されるか!」
「許しなど必要なかろう?我は神なのだから」
その言葉に我慢しきれずに怒鳴り散らすバカ。他にも声には出さないが神様を睨みつけている者達もいる。それでも神様は眉一つ動かさない。
「そもそもなんで俺達なんだよ!実は俺に秘められた力があるんじゃないのか⁈」
バカはまだ諦めきれてないらしい。勇者願望ェ…。神様に喧嘩売ってるお前は既に勇者だよ。あっ、神様が溜め息吐いた。
「ある訳なかろう。貴様らを選んだのはある程度の規模の学校で現状に不満を持つ者の割合が最も高かったからだ」
その言葉に動きを止める者が多数。心当たりがあるみたいですねぇ。俺もです。
「現状に不満があるのならと我が新しい環境を用意してやれば多くの者は順応出来ず死に、生き残った者も元に戻せと言う。クククッ、失くしてからいかに自分達が恵まれてるか理解する貴様らは実に滑稽だ」
そう笑う神様。なかなか良い性格をしているようで。
「誰だっていきなり連れて来られて順応できるわけないだろ!せめてチートを寄越せ!」
「そもそも貴様は現状に不満がある癖に何もせず、他者を妬み、根拠もなく自分ならうまくやれると考える。だが実際に環境が変わっても何も出来ず、女の影に隠れ、部屋の隅で震えるばかり。これが滑稽でなければ何とする?」
「うるさいうるさいうるさい!俺だってチートがあればうまくやれるんだ!」
そう喚き散らすバカ。神様を睨んでいた者達やそうでない者達も呆れている。一部自分も心当たりがあるのか気まずそうな顔をしているが。
「それでも元々ないものを当てにしている時点で滑稽だ。そんなものなくても順応して生き残り、他者を助ける者もいると言うのに」
そう言って周囲を見回す神様。
「それでも七日経ってもこんなに生き残っているとは思わなかった。それなりに気を使ったとはいえ嬉しい誤算だ。まだまだ楽しめそうだ」
「…気を使う?」
「そうだ。電気と水道は使えるようにしておいたし、学校の周りには食べられる木の実や果物の木を植えておいた。肉が欲しければオークも食える。実際に食べたのは三人しかいないが」
俺意外にオークを食った奴が二人いるのか…(驚愕)
周りもオークを食べた人がいると聞いてざわめいている。
「あと魔物もその気になれば誰でも殺せるゴブリンと武器を持って数人で囲めば殺せるオークしかいない。それなのに殺される者の多いこと多いこと」
そう嘲るように言う神様。ようにじゃねぇな嘲ってるわ。
「殺せるって…そんなこと言われても…」
「殺されそうになっているのに躊躇う意味が分からんな。まあ貴様らの世界の人間は殺しに忌避感があるのは分かってた。だから殺せなくても殺されないようにする点からもゴブリンとオークだけにしておいた。女だけだがな。ほら実際にゴブリンやオークに襲われても生きているだろう?」
そう言って神様は高宮が介抱している女子達を指差す。虚ろな目をしていたり、借りた上着を握りしめて泣いたりしている。確かに生きてはいるけどさぁ…。
「男子はこっちを見ないで!あと体を拭けるものや上着を貸してくれる人はいませんか?」
神様が降臨してからも介抱を続けていたらしい。ほんと聖人かこいつ。そう思いつつ上着を脱いで近くにいた女子に高宮達のほうへ持って行ってもらう。魔物の○液が付くだろうからもう着れないな。まあいいけど。
「ああなりたくなければ戦うなり、戦える者の庇護下に入ればいい。実際そうやって今日まで生き延びたであろう?流石に七日も経てば戦えるようになった者も多い。転移してすぐに嬉々として魔物と戦ってた者がそれなりにいたが」
なにそれ引くわー。北條よ、そんな目で見るな。俺は嬉々としてはなかったろう?テンションは高かったが。
「戦えない者は優しさに付け込んだり、体を対価にしてたな。ひたすら隠れてたり、逃げ回ってた者もいた。いいぞ、もっとやれ。知恵を絞り、生にしがみつけ。我に貴様らがどのようにして生き残ろうとするか見せてくれ」
「俺達は見せ物か…」
散々神様に突っかかってたバカが力無く言う。結局こいつ何もされなかったな。見せしめに殺されると思ったが意外と神様優しいのか?結構気を使ってたみたいだし。
「言ったであろう暇潰しだと。その代わり我は貴様らがどのような行動に出ようと口出ししない。皆で協力して学校で生きていくも良し、現地の人間を頼って町に向かうも良し、はたまた自分の欲望を満たす為に他の人間を殺し、犯し、王として君臨するも良し、他者を見捨て大事な者とひっそりと暮らすも良し。好きにするがいい」
極限状態でこそ人間の本性がよく分かる。そう神様は締めくくった。
「ああそうだ。何の為に貴様らを集めたのか忘れていた。七日生き延びたご褒美を与えようと思っていたんだった」
「チートはくれないんじゃなかったのか?」
「そんな大層なものじゃない。あくまでご褒美だ。貴様らがこの七日生き残るのに最も役に立ったものに補正をかけてやる」
その言葉に首を傾げる者多数。んにゃぴ、よく分からないです。
「例えば戦ってばかりいた者は戦闘力が上昇、逃げ回ってたものは体力が増え、ひたすら閉じこもっていた者は空腹に耐えれるようになったりだな。嬉しかろう?今日まで生き残れた要因がさらに強化されるのだから」
確かに劇的ではないが生き残りやすくなりそうだ。自分の力で生き残った者は。
「あとは体を対価にした者は性行為が上手くなったり、魔物にひたすら犯されていたのに生きていた者は不感症になったり」
風行きが怪しくなってきましたねぇ。役に立つといえば立つけどさぁ。
「あとは人に取り入ったり、騙くらかして守ってもらってた者はさらに口が回るようになったり、演技力が向上したりだな」
はい、地雷と化しました。疑心暗鬼になりますよクォレは。他人が信用出来なくなって団結出来なくなるだろ。
人同士でも争いが起きそうだなーと考えながらなんとはなしに北條達に目を向ける。疑われてると思ったのか北條と斉藤さんが首を横にブンブン振ってる。ははは、別に疑ってないから心配するな。仮に騙されてたとしても騙されるほうが悪い。あれ?この言い方だと結局疑ってね?
ブンブンが加速した。首痛めるぞ。




