青春だねぇ~
まだ異世界転移はしません。
世の中は理不尽の連続だ。自分の思い通りになることなど数少なく、いつだって人は理不尽に晒される。
「たかが好きなメーカーのコーヒーが近くの自販機に売ってないだけでそんなことを言うのは悠眞くらいだよ。」
そう文句を言いつつもついて来てくれるのは友人の皇晴人。
そして俺は篠崎悠眞。ただの中二病罹患者だ。
「だが校舎の端の風通しのいい渡り廊下にあるのは悪意を感じるぞ。まだ秋だから多少はマシだが冬は寒くて敵わん。」
「なら他のにすれば良いのに…」と晴人が呟いているが、こだわりを大事にすることくらいあるじゃないか。あるよね?
「クチュンッ」
などと話しながらコーヒーを買っているとくしゃみが聞こえた。自販機の横に目を向けてみると座り込んでいる女子生徒がいる。黒髪でセミロング、見るからに大人しそうな子だ。タイの色からして一年か…。ちなみに一年が赤、二年が青、三年が白だ。
「タイが曲がっていてよ」とか実際にやる奴はいるんだろうか?などと俺が下らないことを考えているうちに
「こんなとこで何をしているの?」と晴人が尋ねると「えっと…友達を待っているんです」とその女子生徒が答えた。
「こんな辺鄙なとこでか…」
「こんな辺鄙なとこにコーヒー買いに来る人もいるけどね」
やかましい。
「多分もうここで友達を待つことはないと思います…」
女子生徒は苦笑しながら答えた。
「まぁこんなとこに来るのはマイナーなコーヒーを買いに来る物好きくらいだよ」
「マイナー言うな。希少価値と言え」
「意味違ってない?とりあえず、はいこれ。少しは温まるでしょ?」
いつものように軽口をたたいていると晴人が女子生徒にコーヒーを買って渡していた。
「えっ…あの…あ、ありがとうございます」女子生徒が申し訳なさそうに受け取る。
「そこはお前、このコーヒーを勧めるべきだろう」
俺は自分の持っていた缶を振ってみる。
「そんなコーヒーを好んで飲むのは悠眞くらいでしょ」とばっさり切られる。
「そこは布教にチャレンジしてみるべきだろう」と言っている俺の背を押しながら
「風邪ひかないようにね〜」と晴人が女子生徒に手を振っていた。
そんなことがあった次の日、晴人と共に購買での戦争から戦利品を獲得し、教室に向かっていると
「あ、あの!これ昨日のお礼です!」
晴人に手作り弁当を差し出している野生の女子生徒が現れた。コマンド?
たたかう
まほう
→ようすをみる
にげる
「もうパン買っちゃったんだけど…」
俺が脳内でコマンドを選んでいると晴人が困ったように答えた。
「そ、そうですか…」
女子生徒も困ったように呟いた。
「……」
「……」
廊下の真ん中で沈黙したままお見合いしている二人を通りかかる生徒がチラチラ見ている。こんなとこで固まってるのは邪魔になるだろう。俺は頭を掻きながら晴人の持っているパンを奪いとる。
「悪いな晴人。今日はいつもより腹が減っているからこのパンもくれ。金は後で払う」
何かを言いたそうな晴人の視線を無視して俺は歩き出す。たまには屋上にでも行ってみるか。
屋上の手摺りに寄りかかりながら晴人から強奪したパンを食べていると中庭に晴人と先程の女子生徒が出て来るのが見えた。どうやら中庭で弁当を食べるらしい。
「青春だねぇ〜」
「そうだね〜」
独り言のつもりだったがなぜか返事があった。声が聞こえた方を見てみると一人の女子生徒がいた。
「なんだ、高宮か」
「なんだとはご挨拶だね」
俺の言葉が不満なのか頬を膨らませているのはクラスメイトの高宮鳴海だ。
小柄な黒髪ロングの美少女で明るく、社交的。困っている人を見ると誰であろうと助けてくれるので、男女問わず人気が高い。あと背の割に胸がでかい。
俺や晴人のようなクラスで浮きがちな生徒にも話しかけてくる陽キャ筆頭だ。
「悪い悪い。んで結局何の用だ?」
「いやー私も廊下での一幕を見ていてね、野次馬?」
見てたのかよ。それはいいとして何で俺の方へ来たんだ?
「篠崎君っていつも皇君と一緒でしょ?一人じゃ寂しいかなって」
「余計なお世話だ」
ボッチ飯を哀れんだらしい。俺がそんなことで寂しがるとでも思ってんのか。
「怒らない怒らない。あんな風にかっこよく気を使った人が一人で二人分のパンを食べるのかと思ったら悲しくなってきただけだから」
「やっぱ哀れんでいるんじゃないか」
喧嘩売ってんのか。
「冗談だって。あっ、かっこよかったのは本当だよ」
「……」
笑顔でそういうことを言うから人気があるんだろうな。
「ありがとよ」
そう言いつつ俺が買ったほうのパンを投げ渡す。
「おっとっと、これは?」
渡したパンを受け取った高宮は首を傾げている。
「やる。まだ昼飯食ってないだろ」
「あ、ありがと。いくら?」
「いらん。どうせ二人分も食えんからな」
「いつもよりお腹空いているじゃなかったの?」
そういや話聞いていたんだったな。
「そんな気がしたんだがな。実際に食べてみるとそうでもなかった」
そういうと高宮は微笑んで
「ありがとう。パンなんだから後で食べればいいのに。そういうとこもかっこいいよ」
聞こえないふりをする俺の隣に腰を降ろしてパンを食べ始めた。