温度差
翌朝、目を覚ますと目の前に北條の寝顔があった。
な…何を言っているかわからねーと思うが(略
思わずネタに走ってしまったがなんで目の前に北條がいるんだ?布団は離して寝たはずだが。そう思い反対側で寝ている晴人を見ると、その奥に斉藤さんが寝ている。布団を離した意味がないな…。
俺の服を掴んでいた北條の手を外し、顔を洗いに行く。水の音で目を覚ましたのか戻ってくると北條が起き上がろとしていた。
「悪いな、起こしちまったか」
「いえ、もう朝ですし。おはようございますせんぱい」
「ああ、おはよう」
挨拶をし、朝食の準備をしようとすると北條が不満そうに声をかけてきた。
「随分あっさりしてますね、せんぱい」
「アピールなんだか本気で怖がってたのかどっちか分からんからな」
「どちらにしても少しは意識してくれないと自信無くしますよ」
そう口を尖らせる北條だが、反応に困る。
特に反応することなく朝食の準備をしていると晴人と斉藤さんも起きたので朝食にする。
「今日はどうするの?」
朝食を終えると晴人が聞いてくる。
「昨日に引き続き食料調達と他の生き残りグループの調査かな」
そう言いつつ北條と斉藤をほうを見ると不安そうな顔が並んでいた。
「…俺が一人で行くから三人はここに居てくれ」
「僕も行くよ。悠眞一人じゃ危ないよ?」
「そうすると北條と斉藤さんが不安がるだろうが」
「せんぱいもここに居ましょう!外は危険ですよ!」
北條が引き留めてくるがそうするとジリ貧じゃん?
「今ある食料だと一週間も保たないだろ。それに他の生き残りもいるんだから、先に確保しとかないとオークしか食うもんがなくなっちまうぞ」
そう言うと三人の顔色が悪くなった。意外と美味かったんだけどな。もちろん日本で食ってた肉には劣るが。
「そういうわけでちょっくら行ってくるわ」
三人は不安そうな顔をしているが、オークを食いたくはないのか引き留めるのを迷っているようだった。その隙に部屋の外に出る。
「あっ…」
背後から声が聞こえたが気にすることなく進む。ゴブリンは躊躇わなければ倒せる、オークは倒すのが難しくても動きが遅いから逃げようと思えば逃げ切れる。もちろん死ぬ可能性はあるが不安になり過ぎじゃありませんかねぇ?
温度差というか認識の違いに苦笑する。
外に出た俺は周囲を警戒しながら部室棟を向かう。部室棟に近づくにつれて異臭がしてくる。部室棟が見えるとこまで来ると理由がよく分かる。部室棟の周りには多くのゴブリンと人、少数だがオークの死体があった。
(運動の連中が多いからかまともに戦える奴が結構いそうだな。オークも倒してるし)
そんなことを思っていると声が聞こえてきた。念の為体を低くして部室の中から見えないように近づく。
「もうやめて…」
「俺達は身体張って化け物どもと戦ってんだぞ!守ってやる対価にヤらせてくれるって言ったのはお前らだろうが!」
「だからってヤりすぎなのよ…」
ある部室の中では男女数人がヤっていた。どうやら体を対価に守ってもらう約束らしい。そりゃあ男どもは張り切って戦っただろう。
(女ってのは強かだな)
全員がそうというわけではないだろうが。
しばらく観察したり、聞き耳を立てたりして情報を集めたりしたら運動部の男子と体を差し出した女子は運動部の部室棟、そういうが嫌な女子と一部男子は文化部の部室棟にいるっぽい。
どう考えてもいずれ男子達が暴走して文化部の部室棟に襲いかかりそうだ。今そうなってないのは女子剣道部の部長を筆頭に女子運動部が無理に迫ってきた男子をボコボコにしたからだそうだが。確か女子剣道部の部長は全国大会に出場していた気がする。
(とりあえず部室棟近辺には近づかないほうが良さそうだ)
サバイバルものでは人間同士で争うのはよくあることだが巻き込まれたくはない。
俺はそそくさと部室棟を後にして、食料を求めて食堂へ向かった。
食堂内は昨日来た時よりも荒らされていた。高宮達だけでなく他にも食料を探しにきた人達がいそうだ。残ってたものをかき集めたが司書室にあるものと合わせても十日分くらいしかない。
(まあ最悪オークを狩ればいいか)
どの集団(もしくは個人)がどのくらい食料を確保できてるか分からないが、確保した分がなくなったらどうするんだろな?
俺は他人事のようにそう思った。
「戻ったぞ皆の衆〜。これは土産だ」
そう言いつつ俺はUNOを取り出す。部室棟をウロウロしている時にどこかの部室から拝借したものだ。
「おかえりなさい…ってせんぱいは何しに行ったんですか!」
「トランプだけだと飽きるだろ?」
ちゃんと食料も持ってきたが。
「だからって!遊び道具を探すくらいならさっさと戻ってきて下さい!」
北條が荒ぶっている。おい、待て揺さぶるな。おこなの?
「怒ってますよ!せんぱいに頼り切りですけど言わせてもらいます!食料を探しに行くならまだしも遊び道具を探してくるなんて何を考えているんですか!」
北條は揺さぶるのをやめて俺の胸に顔を押し付けてくる。
「そんなもの探している間に襲われたらどうするんですか…。死んじゃうかもしれないんですよ…」
北條はもはや涙声だ。正直そんなに心配されるとは思わなかった。
「まあまあ、悠眞も無事に帰ってきたんだし」
「そうだよ茜ちゃん、落ち着いて?」
事の成り行きを見守っていた晴人と斉藤さんが北條を宥める。もっと早く止めて欲しかった。
少しして落ち着いたのか北條が俺から離れる。
「…すいませんでしたせんぱい。でも心配させないで下さい」
「ああ、俺も悪かった」
その日はそのままメシ食ってUNOして寝た。結局UNOするのかよ。そう北條に言ったら
「だってせんぱいがせっかく持ってきてくれたんですし…」
北條は顔を赤くしながら恥ずかしそうに言った。
可愛かった(小並)




