ダンボール
「…酷いなこれは」
女子寮の中は予想通り荒れていた。ゴブリンに犯された跡のある女子生徒の死体がいくつか転がっている。
「ウプッ」
「うえぇぇぇ…」
北條と斉藤さんは流石に堪えきれなかったのかリバースしている。
二人を宥めながら進むとピクリとも動かない女子生徒を犯しているゴブリンがいた。腰を振るのに夢中でこちらに気付いていないゴブリンに向けてスコップをフルスイングする。吹き飛んだがまだ生きているゴブリンに追撃でスコップを思い切り降り下ろす。肉を断つ嫌な感触がし、ゴブリンは動かなくなる。
犯されていた女子生徒を確認するがすでに息絶えている。さっきのゴブリンは死体をさらに恥ずかしてめていたらしい。
晴人達を振り返るとみんな青褪めた顔をしていた。そういえば3人ともまだ魔物を殺したことがなかったか。
「難しいだろうが殺すことを躊躇するなよ。そうしなければ死ぬのは自分達になるぞ。北條や斉藤さんは犯されて苗床になるだけかもしれないが」
ここに残っている死体が少ないのは捕まった女子生徒はゴブリン達に巣穴などに連れ去られたからだろう。そのためかゴブリンもほとんどいない。
顔色は悪いが覚悟を決めたのか晴人もその後に見つけたゴブリンに攻撃している。まだ躊躇いがあるのか中途半端な威力の攻撃しか出来なくて殺すのに手こずっているが。
(まあサイコパスでもない限り何の躊躇いもなく殺すことは出来ないか)
よくなろう系の主人公はサイコパス扱いされているが、狂わなければ生き残れないだろう。俺も殺さなければこちらが殺されると自分に言い聞かせている。半ば自己暗示だ。
女性陣に至っては顔面蒼白で今にも倒れそうだ。自室まで来ると俺達が見ているにも関わらず、下着ですら引っ張り出して鞄に詰め、早くここから出ようと促して来る。俺達に下着を見られるよりここに長くいたくないらしい。
確かに今は魔物も少ないが時間が経てばまた女子生徒を拐いにくるかもしれない。俺達は急いで図書館まで戻った。
司書室まで戻ってくると北條と斉藤さんは安心したのか崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
「…あまり大丈夫じゃありません。正直に言いますと着替えの為に外に出たことを心底後悔しています…。自分もああなっていたかも知れないと思うと怖くて体が震えてきます…」
北條が弱々しく答える。斉藤さんも頷いている。
「まあ無理もないか。とりあえずゆっくり休め。俺はもう一度出てくる。結局寮しか見てこれなかったからな」
「また外に出るんですか!?」
北條が驚いて声を上げる。斉藤さんも信じられないといった表情だ。だって着替え持ってきただけじゃん。
「…晴人先輩も外に出るんですか?」
斉藤さんが縋り付くような目をしながら晴人に尋ねる。晴人は困ったような表情で俺を見る。
「悠眞にだけ任せるわけにもいかないから行こうと思うんだけど…」
「そんな…」
斉藤さんが泣きそうだ。ため息一つ。
「晴人は残ってていいぞ。二人とも不安そうだし、晴人も疲れてるだろ?」
二人ほどじゃないが晴人の顔色も悪い。精神的に疲れていそうだ。
「悠眞は大丈夫なの?」
「疲れていないわけじゃないが多分大丈夫だろ」
特に根拠はないが。
「というわけでちょっくら行ってくるわ」
目指すは食堂。
到着しました、食堂です。魔物に食い荒らされたのか外に出ていた食料はほとんどなくなっているが、冷蔵庫の中までは見なかったのか結構残っている。とりあえず簡単に調理が出来そうなものから持ってきたバッグに詰め込んでいく。そうしていると食堂のドアが開けられた。咄嗟にしゃがみ込む。
(魔物か?人間か?足音的に複数いそうだがどっちだか分からん。魔物だとマズいから隠れなくては!)
辺りを見回すが隠れられそうな場所が見つからない。
(どうする?先手をとって攻撃するか?いや、複数いそうだから隠れたほうがいい。でもどこに…これだ!)
見つけた隠れ場所で息を潜める。足音が近づいて俺のすぐ側で止まる。なにやら悩んでいるような気配がする。
(まさかバレたか?いや、このカモフラージュは完璧なはずだ。くっ、外の様子が分からん)
そんなことを考えていると急に目の前が明るくなった。顔を上げてみると驚いた顔をして俺が隠れていたダンボールを持ち上げている高宮がいた。
ダンボール返してくれません?




