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オークって食えそうじゃね?

「こんなとこに部屋があったんだな」



 あの後俺達は斉藤さんの案内で図書館にある司書室にやってきた。図書館にはちょくちょく来ていたが、司書室なんぞ気にしたことなかったから気付かなかった。中は四人で過ごすにはせまいが、仕事部屋と生活するための部屋に分かれているので、男女のプライバシーは守れそうだ。


「さて、ここを拠点にするとして、今後のことを話し合うか」


 安全地帯に着いて一息ついていた面々を見ながら言う。


「今後のことの前にあれらの怪物は何なんですか?せんぱいは知ってるみたいですけど」


「小説やゲームによく出てくるゴブリンやオークだな」


 あまりそういったものに馴染みがないのか尋ねてくる北條に説明してやる。ちらりと見たが斉藤さんは分かっていそうな雰囲気だ。知ってるんですね。


「はぁ、そんなことあるわけないって言いたいんですけど、実際にこの目で見てしまうと信じるしかないですねぇ〜。せんぱいは手際良く倒してましたけど、倒し方なんかも出てくるんですか?」


「あれはイメトレの成果だ」


「イメトレ?」


 異世界転生物の小説は腐るほど読んできたからな。誰だって物語の登場人物に自分を反映したり、自分ならこうすると考えたりするだろう。


 厨二病経験者なら授業中にテロリストが襲ってきたら〜や、ゾンビが街にあふれたら〜、異世界転生したら〜とか妄想するものだ。


 するよね?


「えぇ…」


 北條は引いてるし、晴人は苦笑してるが、斉藤さんは頷いている。同士よ!



「一つ聞きたいんだがみんな何かの能力に目覚めたり、身体能力が上がったりしたか?」


 晴人と北條に何言ってんだこいつ?って目で見られた。凹む。


「いえ、チートもステータスもないです」


 斉藤さんはやはり分かっている。


「やっぱりないのか…」


 ハード、いやルナティック確定。これ死ぬのでは?(2回目)


「とりあえず水と食料を探そうよ」


 落ち込んでいる俺をスルーして晴人が提案する。


 四人で部屋を漁ると数は少ないが缶詰やレトルトを見つけた。泊まることを想定している部屋だからか台所や風呂もあった。試しに蛇口を捻ってみると何故か水が出た。


「どこから水が来ているんだ?」


 この学校は異世界(多分)に転移しているから上下水道はないと思うのだが。そういえば電灯も付いているし、お湯も出たということは電気とガスもあるということだ。


「水が出るならいいじゃないですか。それよりも問題は食料ですよ」


 北條の言う通り食料が問題だ。見つかった食料は四人だと一日分程度しかない。


「どこかで調達する必要があるな…」


 あるとしたら食堂や購買だろうが問題が多すぎる。




 ゴブリンなどを避けつつ食堂まで行かなくてはいけない。


 同じことを考えた人達と奪い合いになる可能性がある。


 新しく補充されることがないのでいつかなくなる。




 ざっと考えただけでもこれだけの問題がある。


「特に3つ目が致命的だよなぁ…」


 同じ学校の生徒との奪い合いも問題だが、仮に独占できたとしても一ヵ月ももたないだろう。


「今から畑を作ってもすぐに収穫できるわけではないし、山で食べれそうな物を探したり、狩りをするにしても魔物がいてリスクが高いよね」


「そもそもせんぱいの言うように異世界だとしたら、知ってる動植物があるか分かりませんし、狩りの仕方もわかりませんよ」


「狩り、狩りかぁ…」


「せんぱい?」


「……」


 狩りと聞いて閃くものがある。肉ならその辺に歩いていたなと。作品によっては食べている描写があるものもある。


「オークって食えそうじゃね?」


 そう呟くとマジかこいつって目で三人に見られた。



「流石にそれは…」


「せんぱい…、引きます」


「食べても戻してしまいそうです…」


 おっと、皆さんドン引きですね。


「いや、俺だって抵抗あるよ?でも食料が尽きたらしょうがなくない?ゴブリンは流石に食う気しないけど」


「ゴブリンを食べるという考えが浮かぶ時点で頭おかしいよ、悠眞」


「でも確かにオークを食べている作品ってあったかも…」


「薫ちゃんもそっち側ですか…」


「ち、ちがっ…」


 何やら北條に弁明している斉藤さんを尻目に思ったことを呟く。


「でも下手したらこっちが食われそうなんだよなぁ…」


「それもそうだね」


 大抵のファンタジー作品においてオークは雑魚扱いされるが、それはチートなどがあってこそだ。


 ここで見たオークは2メートルを超える身長に腕なんかは俺の倍以上の太さがあり、普通に襲い掛かっても返り討ちに合う未来が見える。


「さっき車で轢いた奴は残っているのかね?」


 どうやって倒すかを考える前に本当に食べられるか確かめなくては。幸いと言うべきかすでに倒した奴がいる。


「えぇ…、本当に食べる気ですか?」


「とりあえず試してみる。食えれば飢え死にはしなくなるだろ」


 納得していなさそうな女性陣を置いて晴人と部屋を出る。辺りを警戒しながら進み、既に死んでいるオークの下へ辿り着く。


「食べるなら腹の肉がいいのだろうか?でも解体の仕方なんか分からんしどうする?」


「お試しなんだし適当に切ればいいんじゃない?正直ためらいがあるけど」


 テンションがハイになってたからさっきまではあまり気にならなかったが、改めて生物を傷付けると言う行為に本能的な忌避感がある。まぁやるんですけどね。


 ちゃっかり轢いたオークからパクっておいた剣で肉を切る。手触りや匂いがなんというかすごい。晴人も顔を青くしている。なんとか持ち運べるくらいの肉を切り出し、急いで図書館へ戻る。


「これで北條達に締め出されたら笑うな」


「えぇ…。流石にそんなことはしないでしょ」


「分からんぞ、突然オークって食えそうじゃねとか言い出す危険人物だぞ」


「自分で言う?」


「まぁそうすれば短期的には安全かもしれないが長期的には詰むだろう」


 安全地帯から男がいなくなれば身の危険を感じることはなくなるし、食い扶持も減るが、補給する手段もなくなる。そうしたら自分達でどうにかするしかなくなる。


 だから短絡的な行動はしないだろう。多分。



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