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第2話 初恋だった彼と飲み明かしている私

「そ、そう、なんや。実は、その、私も、好きやったんよ」


 時計をちらっと見ると、もう午前二時だ。

 さんざん話したからだろうか。

 あるいは、酒で理性が蕩けてしまったのだろうか。

 そんな事を言ってしまった。


「そやったんやー。俺の片想いかと思っとったで」

「それは私の台詞ー。ていうか(ゆう)ちゃんは私のどこを好きやったん?」


 温厚で博識な彼に、どこか憧れにも似た感情を持っていたように思う。

 でも、私はと言えば、当時、取り柄と言える程のものがあっただろうか。


「んー。古い建物の話するときとか。目が輝いとったよな。そーいうとこ」

「へー、そうなんや。優ちゃんに比べて、私は地味やったけど」


 確かに、私は昔から、建築物に目が無かった。

 小学校の頃は、それがプラモ趣味に。中高になってからは、寺社巡りに。

 大学に進学する時も、何か建築関係のことが出来ればと思っていた。

 でも、そういう所を見てくれていたのか、と思うと嬉しくなる。


「地味とかはおいといてや。小六の頃、妙に挙動不審なこと多かったやろ?」

「言われてみれば……」


 もう、おぼろげな記憶でしかない。

 それでも、思い起こしてみると、「一緒に帰ろー」と誘っても、

 「あ、きょ、今日は、用事があるし」

 とか、謎の言い訳で断られた事があった。


(うめ)ちゃんの事意識すると、挙動不審になってばっかりやったよ」

「そういえば、卒業遠足の時も……!」


 確か、京都の太秦映画村(うずまさえいがむら)に行ったのだったか。

 当時、仲が良かった彼と私は同じグループで映画村を周ったのだが。

 グループで彼だけが、妙に距離を取ったり、逆に二人きりになろうとしたり。

 当時は流していたけど、そんな背景があったとは。


「で、梅ちゃんは意識した感じなかったしな。俺の片想いやろーなって」

「私は、最初から片想いだと思ってたし。動揺せんかったな」


 最初から実らない初恋だと思えば、諦めもつくというものだった。


「梅ちゃんも、想ってくれたんやったら、もう少し気づいてくれても……」

「それはこっちの台詞やよー。優ちゃんも、引っ越しする時、そっけなかったし」


 中学に上がるのを機に、京都へ引っ越しが決まった時は寂しかったものだった。

 だから、優ちゃんが、寂しく想ってくれないかな、と少しは期待したものだ。

 でも、他の人と同じく、お別れ会に参加してくれただけで、後は淡白だった。


「やって、特別、気にかけてたら、気があると思われるやろ」

「優ちゃんも、意外と自意識過剰やったんやね」


 まさか、そんな妙なすれ違いがあるなんて思ってもみなかった。


「自意識過剰は余計や!」

「ええんやないかな?こうして、当時の優ちゃんの気持ちもわかったしー」


 何はともあれ、思い出が報われて清々しい気持ちだった。

 ただ、そうなると、つい、欲が出てしまう。

 素面だったら、絶対に言えないだろうな、きっと。


「それで、実は、やね。私が今日、大阪に帰ってきた理由やけど……」

「ああ、それそれ。聞きたかったんよ。光と会う約束とかでも?」


 あ、そっか。普通は、そっちを考えるよね。


「実は、優ちゃんへの初恋を今も拗らせとって。そんで、優ちゃんに会えないかなー、みたいな」


 本当に、私は何を言ってるんだろう。

 もう大学二年生にもなるというのに。


「あー、そ、そやったんやね」


 やっぱり、そうだよね。

 初恋「だった」とは言っても、今も続いてるとは限らない。


「あ、ご、ごめん。ちょっと引いとるよね」

「いや、実は、俺も、同じなんよ」


 机に突っ伏した彼の口から出てきたのは、信じられない言葉。

 ええ?それなら、なんで、なんで……。


「やったら。私の事好きでいてくれたんやったら。(ひかり)ちゃん経由でも連絡取ってくれても良かったやないの!」


 酒のせいだろうか。感情が抑えきれない。

 だいたい、京都に引っ越したと言っても、音信不通だったわけじゃないのだ。

 共通の光ちゃんという幼馴染だって居るし、折に触れて近況を聞いてもいた。

 

「言うても、どうやって連絡すれば良かったんや?三人で遊ぼうとか?」

「そうやよ。私やって、最初は色々期待しとったのに……!」


 もう、逆ギレもいいところだ。

 構ってもらえなくて拗ねた子どもか。私は。


「無理言わんといてや。光にデートの仲介してもらうとか、情けなさすぎやって!」

「情けなくてええやないの!私は、誘って欲しかったのに!」

「ちゅうか、それやったら、逆に、梅ちゃんが誘ってくれても良かったやろ」


 う。痛いところを突いて来た。


「そ、それは……。だって、こっちから誘ったら、引かれるかもやし」

「理由になっとらんやろ」


 ああ、なんてくだらない言い合いをしているんだろう。

 優ちゃんと八年ぶりにあったと思ったら、一緒の部屋でお酒を飲む羽目になって。

 挙句の果てに、こんなくだらないすれ違いを知る羽目になるなんて。


「とにかく。俺は今からでも遅くない……って思うとるけど。どうや?」


 ちゃぶ台に突っ伏したまま、顔だけ上げて、見つめてくる。

 これ以上にロマンチックさの無い告白もそうはないだろう。


「そやね。やったら、これからは恋人として、よろしく?」


 本当にグダグダだ。


「ああ。こんな風に初恋が報われるとか思わんかったよ……」


 そう言って、くたんとなったかと思えば、寝息が聞こえて来る。


「それは、こっちの台詞やよ。優ちゃん……」


 私も、眠気につられて、だんだん瞼が重くなっていく。

 時計を見ると、もう午前四時。明日から、恋人、なんだなあ。

 それとも、もう、今日?そんなどうでもいいことを考えながら。

 幸せな気持ちで、意識が遠のいていくのを感じたのだった。

すれ違いなのか何なのかわからない酒の席&初恋のお話でした。

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ではでは。

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― 新着の感想 ―
[一言] 二十歳になれば酒飲めるので、腹を割った話もできると。 その前だったら、ここまで地を出せなかったかな。 まあ、普通はそこまで拗らせないだろうし、とことん拗らせたもの同士、いい組み合わせなので…
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