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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第十部 日常編
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タマちゃんの仮説

 

 カナリスさん率いるレジア湖ツアー組がメルスクに帰ってきた。待っている間はハラハラしたものだが、いざ終わってみればあっけないものだ。お客さんである商店街の人達の反応も良かったし、話を聞く限りでは満足して貰えたようである。タマちゃんに関してもしっかりと目に焼き付けて帰ってきたようだし、計画は順調であると言っていいだろう。


「はぁ……しかし疲れましたわ。やはり猫をかぶるのは慣れませんわね」


「ああカナリスさん、無理してたんですね」


 あのカナリスさんにしては偉く大人しいと思っていたが、やはり無理をしていたらしい。出来ればそのまま猫をかぶってて頂けると俺としては大変有り難いのだがそんな事を言えば余計当たりが強くなりそうだ。


「流石に私もお客様に素を出すほど間抜けではありませんわ。あなたと違って」


「はっはっは、一言多いですね」


 まったく。お客さんには丁寧で上司には適当で良いのかってんだ。いや、俺が上司と思われてないだけか。カナリスさん、魔王様相手の時ははちゃんとしてるしな。


「なんにせよお疲れ様です。大変だったでしょう、しばらく休んで───」


「何を良い感じで締めようとしているんですの。あなたはこの期間に何をしていたのです?」


「うぇっ?」


 急に振られて変な声が出る。何って……確かにあんまり仕事してない気がする。やったことといえば奴隷商から魔力持ちを買ってきて魔界に送り込んだくらいか。


「期間中、魔界に必要な人材を探してましてね。いや〜またこれが大変で」


「そう、なら話してみなさいな」


 カナリスさんが腕を組んで聞く体勢に入る。別にそんなに大変ではなかったけどうまい言い訳をしなくてはいけなくなった。


「研究所の要請で、魔力持ちを探す必要があったんですがそんな人はそう簡単に見つからないわけで。どうしようか各所に尋ね回った結果、奴隷商に行きつきました」


「なるほど、それで?」


「それで……ちょうど条件に当てはまる姉妹が居たもので、まとめて購入しました」


「それから?」


「……」


「まさかそれだけってことありませんわよね? 他には何をなさったの?」


 いや、それだけしかやってねえ! いったいこの期間俺は何をしていたって言うんだ。自分でも分からなくなってきた。かくなる上は────。


「あーっと! タマちゃんについてカイルに聞きたいことがあったのを思い出したので詳しい話は後にしましょう! それでは!」


「あ、ちょっと!」


 適当に理由をでっち上げてカナリスさんの元から退散する。後が怖いなと思いながら、その足で俺はカイルがいるであろう工場に向かった。


「おーい、カイル!」


「ああグレゴリー様、取り敢えず先に荷物だけ置いたら伺おうと思ってたんですよ」


「そうだろうと思ってたけど、例の結果が気になったからこっちから来ちゃったよ」


 カナリスさんから逃げてきたのが本当のところだが、カイルと話がしたかったのも本当のことだ。何しろカイルをレジア湖に送り込んだのは、タマちゃんエキスの詳細を調べてもらうためだったのだから。


「で、例のエキスついては何か分かったの?」


「ええ、まあ色々と分かりましたよ」


 そう言うとカイルは資料を引っ張り出してきた。恐らく今回の調査結果であろう。


「ええと、どこから話せばいいやら……。そうですね、まずタマちゃんの生物学的側面から話すのがいいですかね」


 そう言って、カイルは何とか類がどうのだとか何とか属がどうたらと言い出したので慌てて止める。


「ストップストップ! そういう専門的な話は全然分からないから素人でも分かるように簡潔に頼むわ」


「あーそうですよね、はい」


 悪かったなバカで。


「ええとではまずレジア湖の歴史から説明します」


 カイルは眼鏡をクイっと上げて話し始める。一体何の関係がと思ったが、簡単に説明しろと言った手前、俺は黙って聞くことにした。

 カイルが言うには、レジア湖は大昔に一度毒で汚染されたことがあるらしい。


「毒? それって何由来の?」


「鉱物由来のようですね。大昔、レジア湖に注ぐ川の上流側に鉱山が開かれていたようなんですが、その時にだいぶ汚染されたとか。今はもう閉山されてますけどね」


「ふーん、あんなところにねぇ。じゃあその時に鉱毒が流れ込んだと」


「ええ、その時にレジア湖の生物は一度死に絶えたと言われているみたいです」


「へー、というかよく調べたなそんな事」


 いったい誰に聞いたんだとカイルに言ったら、レジア湖のホテルの図書コーナーに文献がありましたけど、とあっさり返された。おかしいなぁ、俺もそこに行ったんだけどな。そんな本は目につかなかったぜ。


「途中で遮って悪かったな。それで?」


「閉山されて汚染源が無くなったわけですから、必然的にレジア湖は汚染から回復していきます。ただし普通、自然の回復っていうのは長い時間がかかるものなんです。ところがレジア湖の場合、そうではなかった」


 カイルが言うには、レジア湖のサイズで生物が死に絶えるほど汚染されたのなら、30年は回復に時間がかかるはずであるとの事。ところが記録によれば極短期間でレジア湖は復活を遂げた。


「たった3年で以前の水準に戻ったそうです。文献には神の奇跡だと書かれていました」


 30年が3年、その記述が本当ならば10分の1の時間で回復したことになる。


「なるほど、それはなんかちょっと胡散臭いわな?」


「ええ、僕は神など信じませんからね。必ず何か原因があるはずだと思ったんです。そこで例のタマちゃんが出てくるわけですよ」


 カイルは、タマちゃんを”プレルコ“という水棲生物の変異種であると考えているらしかった。


「そのプなんとかって言うのは?」


「ざっくり説明するならば、川や池の掃除屋って所です」


 地球だとあさりや牡蠣が水質浄化に役立つなんて聞いたことがある。確か魚でも掃除屋さんと言われるような種類がいたような気がするけど詳しいわけではないので知らない。

 まぁとにかく例のタマちゃんがそういう種の変異種かもしれないというのは理解した。


「鉱毒がレジア湖に大量に流れ込んだ時、タマちゃんは環境に適応した。いや、適応せざるを得なかった訳です。そうして本来の水質浄化の能力に毒を消し去る能力も追加された」


「それでタマちゃんが毒の浄化をしまくって普通より早く自然が回復したってことか。なるほどなぁ」


 そんな事あるのかねえ。まぁあるかもな。ここ地球じゃないし。


「ま、ストーリーとしては面白いな」


「でしょう? とはいえ全部仮説なのでこれから検証していく必要がありますけどね」


「分かった、先は長そうだな。取り敢えずこの件に関してはポーションの改良と並行してやってくれ。現状の工数とか予算に変更がありそうなら、また都度相談ということで。じゃあ宜しく」


「ええ、分かりました。それでお願いします」


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