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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第十部 日常編
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スナッチのスケッチ

 

 レジア湖に団体旅行のツアーガイドとしてついて行ったステイシアから連絡が来た。


「はい、グレゴリーですが」


『ステイシアです。グレゴリー様、今お時間宜しいですか?』


「いいよ、そっちは順調かな?」


『ええ、今のところ何も問題は起きていません。商店街の皆さん楽しんでいらっしゃいます』


「順調そうなら良かったよ。ならこれでタマちゃん計画は一つ前進だな」


『そうですね。ところでグレゴリー様達の正体について母に伝える件についてですが……』


「何か問題でも?」


『いえ、特には無いのですが……母には私もその事実を最近まで知らされていなかったという事にして頂けるとありがたいのですが……』


「ああ、なるほどね。分かったそれでいいよ」


 ステイシアは、元々俺の弱みを探るために母親であるシリウスさんが送りこんできた存在だ。それなのに彼女は重要情報を知りながら黙っていた訳であるから、その事について怒られたくないのだろう。

 ステイシアはステイシアでシリウスさんの言いなりになるなるつもりは無いようなのでそこは面白い。


『では5分後にもう一度こちらから掛け直しますので』


 一度電話を切って茶を飲みながら電話を待つ。キッカリ5分経ってシリウスさんから電話がかかってきたので、適当に挨拶を交わして本題に入る。


「───ところでシリウスさん。私はあなたに一つお伝えしなくてはならないことがあります」


『あら? 一体なんでしょう?』


「本当は直接会って話すべき事なのでしょうが……実は───」


 俺の話を聞いたシリウスさんは流石に驚いていたようだったが、そこは歴戦の女将だけあって直ぐに立て直した。


『なるほど。ですがむしろ納得致しました。グレゴリー様以外に他に魔族の方はいらっしゃるのですか?』


「以前そちらに泊まった時にいた従業員のほとんどが魔族です。今そちらにいるカナリスもそうですね」


『あら、そんなに沢山の方が……? グレゴリー様だけがそうであるのであれば腑に落ちたのですが』


 ん? どう言う意味だ? 俺だけが疑われていたということか? そうならば俺は非常に分かりやすい行動をとっていたという事になる。ちょっとそれはショックだなぁ。だって俺とシリウスさんは数日しか顔を合わせていないのだ。


「……ちょっとお訊ねしますが以前調査に伺ったバートンはどうでしたか? 彼もまた魔族なのですが」


 あいつがボロを出した可能性は無いかと思って聞いてみたが、そういうわけではなかったらしかった。


『あら、絵の上手なあの彼もそうなのですね? 何度もお話ししていたのに全く気づきませんでした』


 つまるところ俺だけが怪しいと思われていたという訳だ。そんな事あるの?


「えー、失礼ですが、私のどの辺りがそんなに()()()()()()()()ですかね?」


 俺がそう聞くとシリウスさんは慌てて否定しだした。


『あら私ったらごめんなさい。別にグレゴリー様が怪しかったというわけではないのです。ただ、他の方と比べて何かが違うなとお会いした時から思っていたものですから』


「何かが……? どういう所です?」


『その、具体的に何がとは言えないのですが、纏う空気感のような物が……ああ! 勿論良い意味でですよ?』


 それはなんとも曖昧な……良い意味とは言ってくれているが、目立つのはあんまりよろしくない気がする。どうにかした方が良いのか? 自分でもよく分からないものをいったいどうするんだという話ではあるが。

 俺はなんとなく釈然としないまま、シリウスさんに他言無用であることと、これからの事について伝えてから電話を切った。



 ーーー



 その日の午後、冒険者ギルドに来て欲しいとトールから連絡があったので、俺はギルドに向かった。


 ギルドに入ると、仕事を終えて帰ってきた冒険者達で、ホールはごった返していた。この時間はいつもこうなるのであんまり来ないようにしているのだが今日は仕方ない。さっさと奥の秘密の部屋に通してもらおうかと思ったが、受付の人達がもれなく全員忙しそうにしていたので、流石に悪いと思って少し待つ事にした。


 パワー系の見た目の奴らでも案外律儀に列に並ぶんだなぁとギルド内の隅に立って見ていると、ふいに誰かが話しかけてきた。


「なぁ、あんた見ない顔だな? 最近メルスクに来たのか?」


 振り向くと、冒険者と思われる威圧感たっぷりのスキンヘッドの兄ちゃんがニヤニヤしながら立っていた。あ、これ無双系小説でよく見るやつだ! この後なんやかんや難癖つけられて結果的にこの兄ちゃんと戦闘してチートパワーで主人公がぶっ飛ばして解決するやつ!

 しかし待てよ? 俺にチートパワーは無いし、護衛してくれる奴も近くにはいない。これは困ったなぁ、揉めたら土下座でもするか? そんな事を考えながら取り敢えず当たり障りのない返事をする。


「いや、住んで一年ちょっとだよ」


「そうなのか? その割には見ないがな。じゃあもしかして最近冒険者になったとか?」


 うーん。俺はあんまり人が多い時には来なかったし、来てもすぐに奥に引っ込んじゃうからあんまり知られてないのかな。しかしこの兄ちゃん、えらいしつこいな。一応難癖つけられてどうこうという感じでは無いようだから安心だけど、めんどくさいのは事実。俺は眉を顰めて聞き返した。


「それって詳しく教えなきゃならないことなのか?」


 スキンヘッドの兄ちゃんは一瞬キョトンとした顔をして、次いで笑い出した。


「いや〜、わりぃわりぃ。そりゃ最もだ! 俺はスナッチって言うんだ。中級冒険者さ。今ちょっと新人の冒険者を探しててな。普段見かけない奴に手当たり次第声かけてんのさ」


「ああ、なるほど。なら残念だったな。俺は冒険者じゃないよ。しかし、中級冒険者が何の用で新人冒険者なんて探してるんだ?」


 スナッチはチッチッチと指を振った。そいつは教えてやれねぇなぁと言いたいようだ。


「……と、思ったが俺に言い返してきたのがちょっと新鮮だったんで教えてやる。今度トールの旦那が……あぁトールってのはギルドマスターなんだけどよ」


「それは知ってる」


 今日、そのトールって奴に呼び出されたんでね。


「そのギルドマスターが新人冒険者に対する新しい何かをやろうとしてるって噂があってな」


 当然知っている。冒険者達の反応を見るために噂を流したのは他ならぬ俺達だからだ。


「俺の予想じゃあ昔あった師弟制度の復活じゃないかと思ってるわけよ」


「あー……なるほど」


 師弟制度というのは、中級冒険者が新人冒険者の面倒を見てギルドからお金をもらう制度のことだ。見る人によってバラツキがあったり、責任が大きすぎるということで今は無くなった制度である。

 因みに今度やる予定の「新しい事」にはそういう類のものは入っていなかったはず。


「もしそれが始まったらよう、他の奴より先んじておきたいなってんで声かけて回ってんのさ。あんたは冒険者じゃねえらしいから教えてやるけどよ」


「ふーん……わざわざどうもありがとう。まぁそうはならない気がするけど」


「あん? 違うって言うんなら例えば他にどんなのがあると思うんだよ」


 否定はしたものの、別に俺も詳しくは知らないのだ。基本的にこの件はサリアスさんとトールに任せっきりだったからな。しかしそうだな、今俺がパッと思いつくのを挙げるとすれば……。


「冒険者向けに売ってる回復ポーションを新人向けにだけ割引するとか?」


 それを聞いたスナッチは一瞬黙ってから口を開いた。


「……仮に俺が新人ならそれを買いまくって中級以上の冒険者に定価を上回らないくらいの価格で売りつけるね。んで差額でボロ儲けさ」


 むむむ、言われてみればたしかにその通りだな。この一瞬でそれを思いつくとはこのスナッチという男、なかなか悪知恵が働くらしい。そんな風に一歩引いた感じでふんふんと聞いていたのだが、次のスナッチの言葉には流石に身を乗り出さずにはいられなかった。


「ポーションで思い出したが、だいたいあのポーションは売り方がなっちゃいない。俺ならもっと上手く売れるね」


「へー……売り方がねぇ、そんなにおかしいか?」


 俺は動揺を隠したまま素っ気ない感じで質問するとスナッチは上機嫌に答え始めた。

 曰く、そもそも瓶で売るのがおかしい。冒険者が相手なのだから割れにくくて軽い木製の容れ物にすべきだ。容器の量産が難しいのであれば、容器は自前で持って来させて中身だけを量り売りすればいい。


「まあどうせギルド公認のポーションなんて黙ってても売れるんだからそんな努力、する必要も無いんだろうがな」


 そう最後に吐き捨てたスナッチはつまらなさそうにギルドの売店を見つめていた。俺はそんなスナッチを尻目に、今この男が言った案がどの程度コスト削減に繋がるかを考え始めていた。


「……確かにそうだな。改善出来るところをしないのは企業の怠慢だ。競争がないと停滞するってのはこういう事なんだろうな……」


「ほぉ? なんだあんた、偉く物分かりがいいじゃないか。そういや名前はなんて───」


 スナッチが何かを言いかけた時、遠くから誰かが俺を呼んだ。


「グレゴリー様! お待ちしておりましたよ。なぜこのようなところで……」


 走り寄ってくるのはサリアスさん。そしてそれを見たスナッチは固まって目を白黒させた。


「ああ、悪いねサリアスさん。みんな忙しそうだったからちょっと待ってたんだ。そしたらこの……彼と有意義な立ち話が出来たんでね」


 紹介しながら振り返るとスナッチは自分の鞄から出したポーション瓶のラベルと俺を交互に見比べているところだった。ラベルにはバッチリ俺の、というかグレゴリー商会の名前が入っている。


「まぁそういうことだスナッチ。俺はこれから用があるからまた今度話そう。じゃあな」


 スナッチは引き攣った笑いをしながら最後まで冷や汗を流していた。


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