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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第十部 日常編
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筋金入りの妹愛

 

 俺が奴隷商に行くことを懸念していた理由を後日トールに訊ねてみた。


「で? 結局何が理由でオススメしなかったんだよ? 別に普通だったけどな? 奴隷商」


「あん? まぁ……特に何も思わなかったなら良いんじゃねえか気にしなくて。もしかすると昔よりは改善されたのかもしれないし」


「昔? お前、もしかして昔奴隷だったりしたことでもあるの?」


 俺が訝しんでそう聞くと、トールはブンブンと首を横に振った。


「いいや、俺じゃねえよ。ただ又聞きでそういうふうに聞いたってだけさ……ここだけの話シナリー嬢がそうだったんだよ……」


 どういうことなのか問い詰めると、受付嬢のシナリーさんは若い頃、奴隷商にいたらしい。そこから紆余曲折を経て今のギルドの受付嬢ポジションに収まったそうである。


「へぇー……なるほどね」


 こんな偶然にそんな話が聞けるとは思ってもいなかったが、迂闊に詳しく聞かせろとは言えない。何しろトールはシナリー嬢がクレイの工作員であるとは知らないのだから。

 しかしこの件はクレイに近づく手がかりになるかもしれないな。後でサリアスさんにも話しておこう。



 ーーー



「君たちはこれから遠い場所に行ってもらう。場所はまだあえて伝えないが、こちらの指示に従っている限り生活は保証するし、ある程度の自由も認めるつもりだ」


 2日後、奴隷商から買ってきた二人を前に俺は宣言をしていた。俺は彼女達を、予定通り魔界に送り込むつもりでいた。

 必要ないとは思ったが、一応彼女達の経歴などについても調べはした。もしかしたら魔族に恨みがあって協力など絶対にごめんだと強硬な態度を取られるかもしれなかったから。しかしそれは杞憂だった。


「君達は奴隷になる前はかなり優雅な暮らしをしてきたはずだからこれからの生活には不満もあるかもしれない。けれどそういう贅沢はできない事を理解してほしい」


 彼女達は元々豪商の娘であった。父親は王都を中心に輸送などで稼いでいたようであるが、3年ほど前にある一部の貴族の反感を買ってお取りつぶしにあったようである。家族はあっという間に散り散りになり、生きていく能力の無かった二人は奴隷商に身売りするしか無かったと言う事であった。


「……優雅だったのは3年前までです。それからは酷いものでしたから。ここに来てからは人間らしい生活をさせて頂けておりますので文句などあろうはずがございません」


 妹の方のスフィアが静かに言った。案外トールの言う通り、奴隷商は表だけまともに見えて裏では結構酷い事をしてるのかもしれないな。俺はそう思いつつもその事は口には出さずに姉のラフィアを見遣る。


「そっちはどうなの?」


「はい、私も現状には満足しております。私達をあの地獄から救っていただいて感謝しております。この御恩には必ず報います」


 俺はギョッとした。姉の方は奴隷商で話した時にはバリバリの姉御肌だったのに、今はまるで礼儀正しい御令嬢そのものだったからである。俺が驚きで固まっていると、ラフィアは困ったように言い訳した。


「……えーと、奴隷商での口調は演技です。こうでもしないと妹の方に色々な()()が向いてしまうので……あえてあのように振る舞っておりました。あの時の無礼はご容赦ください」


 なるほど筋金入りの妹愛というわけか。


「ああ、気にしてないから心配しなくていい……それにしても凄い役者だな」


 しかしいざこうして見るとこの口調の方がしっくりくる見た目をしている。ああいうツンツンキャラは俺の彼女が世界で1番似合うからな。


「まあとにかく文句が無さそうなのは分かった。後は最終確認だな。ところで君達は魔族についてどう思う?」


 二人はしばしキョトンとしてから聞き返してきた。


「どう……とはどういう事でしょうか?」


「いや、簡単な話。魔族を殺してやりたいとか思った事はない?」


 俺がにっこり笑ってそう言うと、二人はどう答えるのが正しいのかを思案し出した。気持ちはわかる。最終面接で突拍子もない事を言われたようなものだから。やがて妹のスフィアが答え始める。


「人魔大戦が起きたのは大昔の話です。今を生きる人達は当然経験していませんし、嫌っている方はいらっしゃっても殺してやるというほどの方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか?」


 模範解答みたいな答えが返ってくる。だが俺が聞きたいのはそういう事じゃない。


「まぁ一般的にはそうだろうね。でもスフィア自身はどうなの? その辺をしっかり教えてほしいな」


 俺がそう言うと今度は姉のラフィアが答えた。


「私達は特に魔族に対して思うところはありません。どちらかと言うと殺してやりたいのは一家をこんな目に合わせたザイカード公爵ですかね」


「そりゃそうだ。スフィアもそんな感じなのかな?」


 はい、とスフィアが答えたのを見て大丈夫だと確信した。ちょっと話した感じ頭もいいみたいだし、人間らしい生活をちゃんと送れていれば、裏切るようなことも無さそうだ。俺は彼女達にこれから向かう場所について説明する事にした。



 ーーー



「もしもしフィリスさん? グレゴリーですけどちょっと今いいですか?」


『ちょうど休憩中じゃ、構わんよ』


「こないだ言ってた魔力充填係についてなんですけどね───」


 俺は候補が見つかった事と一人ではなく二人になった事、それとどんな人物かをざっくりと説明した。


『はぁなるほど没落した商家の娘姉妹か。まぁ別にワシとしては何も問題ない。心配があるとすれば男ばかりのこの場所で馴染めるかどうかじゃな。後はお前さんの負担が増えるくらいじゃないのか? 金銭面で』


「いや、そんなのはたかが知れてるからいいんですよ。それよりも可愛いからってあんまり変な目で見ちゃダメですよ?」


『こんなオッサンに何を馬鹿な事を。話はそれだけか?』


「はい、そうです。では研究頑張ってください」


 電話を切ってから考える。職場に関してはこれである程度は大丈夫だとして、彼女達の向こうでの生活に関しては誰に任せるのがいいか。男ではないからカーター所長に預けるわけにもいかないし。とすると女性が良いが、生憎そういう事を頼めそうな女性をあまり知らない。サリアスさんあたりなら知っていたりしないだろうか? ちょっと聞いてみるか。俺はサリアスさんに電話をかけて事情を説明した。


「───という訳なんだけどね? どうかな?」


『うーんとそうですねぇ……もし宜しければ我が家でお預かりいたしましょうか?』


「え! カステリア家でって事? それはちょっと厳しいんじゃないかな?」


 彼女の家族は大の人間嫌い。そんな所に人間である彼女達を預けるなんてどうなるか分かったものではない。第一、当主のグラスさんが断るのではないか。そうサリアスさんに伝えると、彼女はキッパリ言い切った。


『いえ、父なら魔王軍の参謀であるグレゴリー様からのお願いであれば絶対に無碍にはしません。例えどんなに嫌でもおくびにも出さないでしょう』


「いやしかしね。そんなに無理してまで預かってほしい訳じゃ───」


『───いいえ逆なんです。私は父の考えを変えたい』


 つまりはこういう事だった。俺からのお願いで無理やり人間である二人をサリアスさんの実家に預ける事で、サリアスさん一家には否応なしに人間と生活してもらう。そうする事で“人間は悪である”という固定観念が破壊出来るのではないかという事だった。


『戦争経験者の祖父はもう他界しましたし、父は直接の経験世代ではありません。彼女達は滅多な事はしないでしょうから一緒に暮らす事で少しでも古い考えを変えるきっかけになればと思ったんです』


「……サリアスさんもだいぶ変わったね」


『……誰だって変わりますよ。グレゴリー様がそうさせたんです』


「オーケー、分かったよ。それでやってみよう。ただし彼女達にも魔王シアターを渡すことにするし、定期的に確認はさせてもらう。彼女達の扱いが酷かったら別の場所に移ってもらう事にするから」


『構いません。そういったことが起きないようにメイド長によく言い含めておきます。私の我儘に付き合って頂いてありがとうございますね』


「いやいや、お互い様だよ」


 そう静かに伝えて俺は電話を切った。


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