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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第十部 日常編
86/102

間話 掌の上でくるくる踊る

ちょいエロ注意

 

 レジア湖への団体旅行の進捗を聞くべく、俺はステイシアを執務室に呼び出した。


「団体旅行については首尾はどんな感じかな?」


「滞りなく順調です。いささか強引すぎる感じもしますけどね」


「ま、カナリスさんならそつなくこなすか」


 問題なのは恐らく最初のツアー客になる商店街の人々だ。この人達に対してカナリスさんがどの程度気に掛けているのか。商店街の人達はあくまでお客さんなので親切に対応してほしいと伝えたが、どの程度守ってくれているのやら。

 その辺はどうなのかと俺が聞くと、彼女は若干疲れの色を滲ませながら答えてくれた。


「カナリスさんの街の人への接し方はとても丁寧で私の方がびっくりしたほどです。それに交渉力というか調整力はお聞きしていた以上ですね。大人数の予定を組む時に、譲歩しすぎると纏まらないというのを今回は学ばせて頂きました……」


 それは本当に大丈夫なのか? でもホテルのフロント係をしていたステイシアが問題ないと言っているなら彼女を信じよう。それにしてもステイシアはだいぶ苦労したように見える。


「……なかなか大変でしょう、カナリスさんの下で働くのは」


「そうですね。大変と言えば大変ですかね……」


 そもそも俺はこの件はもう少しじっくりやろうと思っていたのだ。しかし、彼女がカナリスさんに案件の事を聞かせたせいでこんな事になってしまった。だから多少の苦労はしてもらおうと思う。本人もこの計画が進められるなら文句はあまり無いだろうし。


「ですがその甲斐あってか来月中にはレジアに里帰りできそうですよ?」


 その顔は、どうですか早いでしょう、と言いたげだったが、俺にあまり驚きは無かった。まぁそんなもんだろうなという感じである。


「……あまり驚かれませんね? このスピード感なら驚かれると思ったのですが」


「生憎俺は君よりもカナリスさんと一緒に仕事した時間が長いんでね」


 俺なら半年は時間をかける所だが、カナリスさんは俺の3倍くらいの早さで進めるので2ヶ月くらいかな、と何となく思ったのだ。それでなんだかんだ上手くいくのだから本当に凄いと思う。


 だが、付き合わされる方としてはたまったもんじゃない。気持ちとしては魔界での苦労話をステイシアに全部聞かせてやりたいくらいだ。ただそれを本気でやると、本が一冊書けるくらいなのでやりはしないけど。


「まぁとにかく概ね順調なのは分かったよ。でも何かあったらすぐに教えてくれ」


「はい、分かりました。あ、そう言えばひとつだけ……」


 彼女は神妙な顔をしてこんな提案をしてきた。


「母にはまだ皆さんの正体については伝えていなかったんですが、私がレジアに戻った時に伝えても構いませんか? 私としてもそちらの方が楽なので」


「いいよ。シリウスさんなら意味もなく秘密をバラすような事は無いだろうし」


 正直なところ、シリウスさんは薄々勘づいているのではないかと思ってる。何しろバートンとかいう最も隠し事に向いていない男をレジア湖に派遣したので、あの時に気づかれていてもおかしくは無い。まぁ特に知られて困る相手では無かったからバートンを派遣したというのもあるんだけどね。


「今度その件についてシリウスさんとゆっくり話でもしようと思う。で、その為には連絡手段がいるなと思ってね」


 俺は、今朝方魔界から取り寄せたばかりの魔王シアター改を棚から取り出した。


「はいコレ。ステイシアにも渡しておこうと思って。今まで魔族にしか持たせてなかったけど、事情を知った上で協力してくれる人には渡しておいた方がいいかなと思って」


「それは……私もようやく仲間と認められたようで嬉しいですね」


「ごめんごめん。あんまり必要ないかと思って渡してなかったけど、もっと早く渡しておくべきだったわ。別に仲間と認めてなかったわけじゃないから」


 言いながら渡して使い方を説明する。誰でも簡単に使えるのでそんなに説明に時間もかからない。一通り説明を終えると、彼女は興味津々で魔王シアター改を見つめた。


「使い方は分かりました。ちょっと試してみたいので、一度離れてやってみますね?」


 ステイシアはそう言ってピューと部屋を出て行ってしまう。思っていたよりも喜んでいそうである。やがてどこかに行った彼女から電話がかかってきた。


「はい、もしもし」


『あ、グレゴリー様聞こえますか? 今社員寮の方から通信してます。コレ凄いですね? こんなに小さいのに』


 本当にね。魔王軍の開発部には頭が上がらないよ。


「まぁね。でも中身の仕組みとかは俺もよく分からないんであんまり聞かないように。後は無くさないようにだけ注意してね」


『ふふっ、分かりました』


「まぁ要件としてはもう終わりだからもうここには戻ってこなくていいよ」


『あ、ちょっと待ってください』


 その言葉に続いて、電話口の向こうでステイシアが誰かと話しているのが何となく聞こえてくる。


『──ええそうなんです、私にもようやく──』


「おーい、ステイシア。誰と喋ってんの?」


『グレゴリー様。レイラさんが代わりたいそうなのでちょっと代わりますね』


 おん? レイラがいるのか? 今日はバートンと剣の鍛錬をしに行ったはずだけどもう帰ってきたのか。もう夕暮れ一歩手前だから別におかしくないと言えばおかしくない。


「おーい、レイラ? 聞こえてる?」


『……聞こえてるわ』


「今日は随分早いんだな。まだまだもう少し掛かると思ってたよ」


『ちょうど、終わったのよ。それより……いや、何でもないわ。もう切るわね』


「えっ、ちょっと待ってよ!」


 俺の制止の声が聞こえなかったのか、はたまた聞こえていたのに無視したのか、レイラはプツリと通信を切ってしまった。

 いかん。声の感じからするとかなり怒ってるなあれは。しかし、なんで怒っているのかは見当がつく。

 理由は簡単、レイラにはまだこの魔王シアター改を渡していないからだ。それなのに日が浅いステイシアに先に渡したから、じゃあ渡されていない自分は何なんだと憤っているに違いない。


 勿論それは大きな誤解だ。今回俺はレイラやトールにも渡しておこうと思って人数分まとめて運んでもらっている。ただ、届いたのが今日の朝だったので、渡せる人から渡した結果、順番が前後しちゃっただけなのである。


 こうしちゃいられん。コレ持ってすぐに社員寮の方に行かないと。俺は急いで支度するとレイラの元に向かった。


「レイラ! いるか?」


 社員寮に入ってすぐの共有スペースを見回してもレイラはおらず、代わりに居たのはステイシアだけだった。


「グレゴリー様! その、何かレイラさんがお怒りのようで自室に戻ってしまわれました……今グレゴリー様に連絡すべきかどうか迷って……」


「ああ、そう! ありがとう!」


 やっぱりかなりお怒りのようだ。早く誤解を解かないと。俺は返事もそこそこに、廊下を抜けてレイラの自室の前まで来ると、神妙にドアを叩いた。


「もしもしレイラさん? ちょっと誤解があるので説明する為にドアを開けて頂けるとありがたいのですが」


 聞こえていないはずはないのだが返事は無い。しかし、しばらく経ってからドアが少しだけ開いて、ジト目のレイラと目があった。


「……何よ?」


「頼むからそんな目で見ないでくれよ。あっ、待って閉めないで! 中に入れてくださいっ!」


 レイラがそのままドアを閉めようとするので、無理やり体を滑り込ませる。俺がレイラの方に向き直ると、つーんとそっぽを向いて腕を組む彼女がそこには居た。


「お怒りはごもっともなんだけど話を聞いてくれよ。まずコレね。レイラの分」


 俺はポケットからレイラの分の魔王シアター改を取り出すと押し付けるようにレイラに渡した。それだけでちょっとレイラの怒気が抜かれたような気がしたが、続けて理由を説明する。


「───てな訳で! 渡す順番が前後しちゃったのよ。レイラにはもっと早くに渡しとくべきだった、ごめん」


 これで誤解が解けたかなと安心した俺だったが、返って来たレイラの言葉に凍りついた。


「ふーん、それで?」


 え? それで? そんな馬鹿な。その事で怒ってるんじゃないの? もしかして何か別に理由が? 俺はぐるぐると頭の中で原因を探しているうちに一気に動悸が早くなった。そして頭が真っ白になる。


「……ごめんなさい。あの、それだけなんですけど……」


「あっそう、じゃあ出てったら? ここ私の部屋よ」


「は、はい……」


 目の前の景色がモノクロになる。きっと俺は何かをやらかしたに違いない。でもここまでレイラが怒る理由に覚えが無かった。力無く部屋を出ていきながら考える。


 もしかすると王都から帰ってきてから忙しくて放置気味だったのがいけなかったんじゃないか。本当はレイラのために魔法に関する仕事を見つけようと思ってたのに、忙しくて取り敢えず今までと同じ仕事に戻ってもらっていた。


 せめて先延ばしになってごめんねと言うべきだった。なんて馬鹿なんだ俺は。今からでも謝りに行くか? いや本当にそれだけかな。もしそれも違ってたら──そんな風に考えを巡らせるが答えは一向に出てこない。


 その時、トボトボと廊下を歩く俺に誰かから電話が掛かってきた。それは、たった今魔王シアター改を渡したばかりのレイラからのものだった。慌てて電話に出る。


「もしもしっ!」


『ふふふっ! ごめん嘘よ! もう怒ってないわ。貴方があんまりにもおっかなびっくりしてるから可笑しくなってつい揶揄っちゃった!』


 その明るいレイラの声を聞いた俺は、壁を背にしてヘナヘナとその場にへたり込んだ。


「はぁ〜〜、良かった〜〜」


 あ〜あ、引っ掛かった。恋は盲目と言うけれどまさにそうだな。コレがレイラでない他の奴だったら多分引っ掛かってなかったんじゃないかな。くそう、俺とした事が。


『今から部屋に戻ってこられる?』


「戻るからちょっと待ってて……」


 なんとか立ち上がってレイラの部屋に向かう。なんというか怒りが沸々と湧き上がってきた。それは、一つは簡単に騙されたことに対してだろうし、もう一つは俺の純情を弄んだレイラに対してなのかもしれない。

 うん。これはちょっとやり返してやらないと気が済まないな。


 そんな事を考えているとレイラの部屋の前に戻ってくる。俺はあえて顰めっ面をしてドアを少し強めに叩いた。カチャリと控えめにドアを開けたレイラが上目遣いで恐る恐る尋ねてくる。


「あの……もしかして怒った?」


 正直に言おう。ちょっと申し訳なさそうな上目遣いのレイラを目にしたら怒りなんて吹き飛んだ。だが俺は怒ったフリを継続したまま無言で部屋に入る。

 そして俺はこちらを伺ってくるレイラを無視して、自分の魔王シアター改をレイラに見えるように机の上にポンと放り出した。魔王様には悪いがここからは二人だけの時間だ。


「ね、ねぇ。ごめんってば。ちょっとやり過ぎたわ」


 なんか言い訳をしてくるレイラが可愛いが、黙ったままレイラを抱きついて首筋に顔を埋める。そしてそのままズイズイとベッドに移動して彼女をえいやと押し倒した。


「あ、あの、怒ってる……わよね?」


 レイラの困惑が手に取るように分かる。この状態だと顔が見えないから尚のこと分からないだろう。俺は更に無言のままレイラの首筋に吸い付いて、キスマークを付けてやった。


「ね、ねえってば!」


 ポンポンと不安そうに肩を叩いてくるレイラに満足した俺は、ガバッと起き上がって笑顔を見せる。


「う〜そ! 怒ってないよ!」


 安堵した様子のレイラが愛おしくて、そのまま覆い被さるように唇を奪う。目を閉じて舌を絡ませると、そっと背中に手を回されるのが分かる。

 暫く、いや結構な時間が経ってから顔を離す。目の前には蕩けたレイラの顔があった。


 下の方に目をやると、少しだけレイラの服がはだけて綺麗なお腹が見えていた。俺は直してあげようと手を伸ばすが、レイラの手がそれを捕まえてそのまま服のボタンに誘導する。まるでそれを外してくれと言わんばかりに。

 何か脳の回路が焼き切れたような、痺れたような感じがした。


「……」


 どこかのバカが抱き合ってるだけでも充分だなんて言ったかもしれないけど、あれは嘘だ。出来るなら、したいに決まってる。

 心臓をバクバク言わせながら、俺はそれがごく自然なことであるかのように、なんでもない顔をしながらレイラの服を脱がし始めた。彼女は決して俺とは目を合わせなかったが、なすがままだ。


「……私だけじゃ恥ずかしいわ……」


 そりゃそうだ。俺は言われるがままに自分も服を脱いだ。一糸纏わぬ姿になって俺達は見つめ合う。

 正直に言おう。ここからどうすればいいか分からない。だってそうだろ? 経験無いんだから。


 でも、結論から言えばなんとかかんとか上手く行った。レイラも経験は無かったようだけど何とかなるものだ。俺達は、二人で仲良く大人の階段を登った。まぁそれだけの話だ。



 ーーー



「ところで、よくアレの使い方分かったね?」


 机の上の魔王シアター改に目をやりながら聞くと、レイラに呆れられた。


「あの……お尻触るかお話しするかどっちかにしたら?」


 ずっと撫でていたくなるようなレイラの大きいお尻が悪いね。という事で、俺はお尻を撫でる方を選択した。


「……」


「あ、お尻撫でる方を選んだのね……まぁ別に教えてあげるけど。前にサリアスさんが使ってるの見たのよ。レジア湖で」


「へー。ああ、なんかバートンとかと一緒に湖の謎を暴こうとしてた時か。よくまあそんなの覚えてたね?」


「別にそれだけじゃなくて他にも……」


 言いかけてレイラが固まった。不思議に思って先を促す。


「? それだけでなくて?」


「何でもないっ」


「えぇ! そこまで言っといて!?」


「だって言ったら笑いそうだし」


「笑ったりしないから教えてよ」


 それを聞いてようやく渋々と言った感じでレイラは答えた。


「……ずっと見てたから。貴方がそれ使ってるところ」


「ふーん……?」


 別に笑う要素無くない? と思ったけどレイラが恥ずかしがるという事は……ははぁなるほど。


「レイラは可愛いなぁ」


「うるさい……」


 要は好きだからずっと見てたって事である。なんだこの可愛い生き物は? 俺をキュン死させる気か?


「いや、そんなに恥ずかしがる事ないよ。俺もレイラの事見過ぎだって魔王様に言われた事あるし。自分の上司に言われるよりは全然大した事ないんじゃないかな?」


「それは本当に恥ずかしいやつじゃない!」


 レイラ基準ではそうかもしれないな。俺自身は見てたくらいで何だって思ってるのでそんなに気にはしてない。俺が自分でもちょっと引いたのはあの件だ。


「俺が自分でも恥ずかしいと思ったのはアレだな。レイラと結婚して子供が出来たらどんな名前がいいかな〜って考えてた時のやつ。無意識に名前を書き出してたのに気付いた時は流石に焦ったなぁ。魔王様に突っ込まれなかったから良かったけど」


「……うわぁ」


「あの、本気で引くのはやめてくれませんかね? 傷つくんで」


 レイラが一人で恥ずかしがってて可哀想だなと思って俺も暴露したのに。この様子だとレイラはそういう妄想はしないのかね? 俺はそういう事考えちゃうけどね。男はそういう生き物だからしょうがないね。


「コホン。でもそんなに悪い気はしないわね? 貴方が私の事大好きって事だし?」


「だろ? だからもっとレイラの恥ずかしい話聞かせてくれてもいいんだぞ」


「うーん……別にそういうのじゃないんだけど、そうね」


 レイラが急に俺の耳元に顔を寄せて囁いた。


「……全部うまく行ったら貴方の子供産んであげてもいいわよ?」


 当然2回戦に突入した。当たり前だ。そんなこと言われて我慢できる奴はいない。まぁ結局俺はレイラの掌の上で踊ってるというだけの話だ。


今月末までは忙しくて書く時間がない

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