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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第九部 王都
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逆転の発想

 

『グレゴリー、分かったかもしれない』


「本当ですか! 待った甲斐があった」


 数日後、教団内の監視を続けていた魔王様から連絡があった。打つ手が無くて困っていたところだったので、自然と声が弾む。


『いや、まだ本当にそうかは分からん。だがそれらしい会話は聞けたぞ』


「ラウゼス司教の口から直接ですか?」


『ああ、今はラウゼス司教に張り付いてるからな。間違いない』


 最初にトーラス助祭に張り付けた蜘蛛型使い魔を、魔王様は隙を見てどんどん偉い人に乗り移らせていったらしい。そして、わらしべ長者みたいにセリア教トップであるラウゼス司教にたどり着いた。だから現在、蜘蛛型使い魔は文字通りラウゼス司教に張り付いているのだ。


「それでなんと言ってたんです?」


『 “白の間の準備はまだなのですか? 彼女にはもう一度魔界に行ってもらわねばなりません。早く準備を進めなさい” だとさ。どう思う?』


「間違いないですね。それだけ情報があれば十分です」


 もう一度魔界に、なんてレイラ以外ありえない。とにかく教団がレイラを魔界に行かせたがっているのは分かった。どんな意図があってそんな事をしたがっているのかはまだ分からないが、どうせ魔界に少しでもダメージを与えたいとかそんなとこだろう。


『白の間とはなんだと思う?』


「話を総合すると洗脳部屋か何かですかね……」


 先程の司教のセリフから考えて、そこへ行けばまたもう一度魔界に向かうようになるらしいから、それを考えると何らかの思考誘導を行うような部屋なのだろうか。歴代の勇者もそこで洗脳されたのかもしれない。


『そんなものが本当に存在するのか? 人間どもの魔法技術はそこまで進んでいるのか』


「かもしれません。とにかく教団がレイラを白の間とやらに連れて行きたがっているのは分かりました。教団内部に動きはありそうですか?」


『かなりイラついた感じだったから準備が全然進んでないんじゃないか? 少なくともラウゼス司教に動きはない』


「分かりました。魔王様は監視を継続してください。動きがあればすぐに連絡お願いします。俺はちょっと確認してみます」


 そうお願いして電話を切ると、俺はまずカナリスさんに連絡を取った。


「カナリスさん? ちょっとレイラに代わってもらえます?」


『なんですの急に。まぁ構いませんけれど』


 数十秒後、レイラが電話口に出る。


「レイラ? ちょっと聞きたいんだけど、セリア教関連で “白の間” って言葉に聞き覚えある? 王都のどっかしらにある部屋の名前だと思うんだけど」


『相変わらずいきなりね。ええっと何? 白の間? 聞いたことないわ。いったい何の話?』


 俺は一から説明しようかと思ったが、あまりレイラを不安にさせるのも嫌だったし、急いでいたのでまた今度ゆっくり説明するからと断って電話を切った。そしてそのまま今度はメルスクにいるサリアスさんに電話をかける。


『はいサリアスです。どちら様ですか?』


「サリアスさん? グレゴリーだけど、今どこにいる?」


『えーと、今は冒険者ギルドにおりますけれど、どうされました?』


「そりゃ丁度よかった。トールに代わってもらえる? ちょっと聞きたいことがあってさ」


 やがて少し後に電話にトールが出る。


『おう。聞こえるか? お前一体いつまで王都に居るんだよ。俺が頼んでた件はどうなったんだ?』


「ああ、今問題が発生して帰るどころじゃ無くてな。今は何も聞かずに俺の質問に答えてくれないか? ケリがついたらちゃんと言われてたもの持って帰るからさ」


『お、おう? なんか知らんが大変みたいだな。分かった、何を答えりゃいいんだ?』


「トールは勇者時代に王都で “白の間” って言葉に聞き覚えあるか? セリア中央教会かどっかにある部屋の名前だと思うんだけど」


『白の間? 聞いたことねえな。セリア中央教会は行ったことがねえからあまり分からないんだよな』


 なんと。まさかのトールは行ったことが無いらしい。洗脳部屋ならトールやレイラが一度行っているはずだから、何か分かると思ったのだが。しかしそうなると白の間というのは中央教会の中にあるわけでは無いのか? もしかしたら教会内部ではなく王宮にあるのかもしれない。とにかく王都のどこかにはあるはずなんだ。


「中央教会にあるかどうかまでは分からないんだよ。王城だか王宮だかにはそういうのは無いの? 王都なのは間違いないんだけど」


『うーん……白っぽい部屋って言うなら強いて言えば俺が召喚された部屋は白っぽかったが。それとは関係ないよな?』


「どうだろう? 分からんね。まぁありがとう。もし何か気づいたらサリアスさんに伝えてくれ。全部解決したらまた連絡するよ」


 電話を切って考える。白の間というネーミングセンスからして教会内部にありそうだと思ったんだけど無いのかもしれない。いや、歴代の勇者が洗脳されたのは王宮内で、それとはまた別に教会内にもあるという可能性もある。


 だいたい、もし俺が勇者を召喚する立場なら召喚と同時に洗脳もやる。その方が手間も掛からないしリスクも減らせる。だから召喚された場所に組み込まれているのかもしれない。

 ところが今回のレイラの件はイレギュラーな2回目であるから、別に単体で用意しなければならなかったのではないか。それなら納得はいく。そうなるとやはり教会内か。


 考えれば考えるほど分からなくなってくる。しかし重要なのはまず間違いなく教会にはレイラを近づけさせない方がいいという事。それと、もう一つ。どの程度教団が“本気”なのかという事だ。


 たまたまレイラが王都に帰ってきたのが分かったから再利用しよう、そんな軽い感じであればいいが、もし地の果てまで追ってくるっていうなら話が変わってくる。


「さっさとメルスクに帰った方がいいかな……」


 少なくともレイラだけでも。そこで教団がどんな反応をするかを見る。もしすんなり諦めたら万々歳。諦めなかったら……諦めなかったらどうするかな。ああ、やっぱりどうしても後手に回るな……これは良くない手だ。


 それにただ逃げ帰るなんてあまりにも弱い一手だ。こんな方法を選んでいては魔王軍参謀の名が廃る。転んでもタダでは起きない。そんな一手が何かあるはずだ。


「発想の転換をしなきゃな……それこそ真逆のことをするくらいじゃないと……ん? 逆?」


 俺はそこで無謀にも思える、とある一手をハッと閃いた。これならばセリア教団に大ダメージを与えられるし牽制にもなる。危険な橋を渡ることになるけど見返りは大きい。これは良い案じゃないか?

 俺は早速魔王シアターを手に取って、マゴス君に連絡を入れた。


『はい、グレゴリー様?』


「ああ、マゴス君? ちょっと相談があるんだけど、この街で噂って流せると思う?」


『そうですね……そういうネットワークは必ずあるはずですから、食い込めばなんとか』


「それってどれくらいかかるかな?」


『僕一人でとなるとかなり掛かりますよ……2週間は見ておいてほしいです』


 まぁしょうがないな。こんなことならアイリスちゃんやクラウス君も連れてくるべきだった。


「それで構わないからやってくれる? マゴス君にしか頼める奴がいないんだ」


『なるほど、分かりました』


 かくして2週間後。王都の中である噂が囁かれるようになる。噂の内容は半分は嘘であったが、半分は本当であった。


 “セリア教に入信すると「白の間」という場所で洗脳されてしまうらしい”


 市民の間でまことしやかに囁かれるそれを、嘘だと否定してしまうのは簡単だ。しかし、なまじ真実の内容も入っているので教会は無視出来なかった。


 後ろ暗い事が満載な教団からすれば、どこから漏れたか、漏れたのは本当にそれだけか、それが気になって仕方ないようだった。

 教団内が浮き足立っている。そんな情報がクラウドから齎されたのはそれからすぐの事であった。

 これで前準備は整った。ようやくとどめの一手が指せる。


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