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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第二部 果ての村消失事件
8/102

優秀な部下は優秀な上司の夢を見るか?

 

「ひい、ふう、みい……あれ? なんか11人いない? 人質って10人じゃなかったっけ?」


 洞窟から人質を連れ出して人数を数えてみたら一人多かった。ていうか普通の村人の中に一人だけ異質な奴が混じってるから増えた分はすぐに分かった。


「ねぇ貴方はどこから来たの?」


 サリアスさんが目線を合わせて優しくその少女に語りかける。さながら迷子の子供に話しかける婦警さんだ。


「私は冒険者よ! 子供扱いしないで!」


「こんなちっこいのに冒険者?」


 俺が正直な感想を口にするとその女の子はキッと俺を睨みつけた。


「ちっこいって言うな! これでも私は中級冒険者よ。冒険者証はあいつらに取られて今無いけど……」


「ああ、もしかしてこれ?」


 さっき悪党どもを運び出すときに洞窟の中で拾った銀色に輝く冒険者証。悪党のうちの誰かのものだと思っていたけどどうも彼女の物らしい。


「ええっと……レイラ? これが君の名前か?」


「そうよ。それ、私のだから返してちょうだい」


 裏を見るとレイラと名前が彫ってある。どうやら冒険者というのは本当らしい。ただ、これがなければ本当にただの女の子にしか見えない。


「ほら。で、君はなんで捕まってたんだ?」


「依頼の最中にばったり出くわしたのよ。それでびっくりしてるうちに捕まっちゃったってわけ。ま、助けが来なくてもいずれは一人で脱出できてたとは思うけどね」


 そう大口を叩いてはいるが、彼女が捕まってから既に3日ほど経っていたらしい。本当に逃げ出せたとは思えないなぁ。このちっこさだし。


 いずれにせよこのちっこいのにかかずらってる場合ではないのだ。


 ここに捕まってた人達をメルスクまで連れ帰ってその事実を喧伝する必要がある。そうすれば果ての集落壊滅が魔族によるものではないと広めることができるから。だから村人をさっさと馬車に乗せて……


「ちょっとあんた。名前は何て言うのよ」


 うるさいなぁ。今段取りを考えてんだから邪魔しないでほしい。


「グレゴリーだよ。無駄話は後にしてくれないか?」


「無駄じゃないわ! これは重要なことよ。あのね、あいつらは日に一度、正午ごろに通信機みたいなもので連絡を取っていたわ」


「え、なんだって!?」


 そんな大事な事、なんでもっと早く言わないんだよ! もう正午はとっくに過ぎちゃったぞ! いやまぁ今さっき起こしたんでどうせ間に合ってないんだけどさぁ!


「てっきり魔界と連絡をとってるのかと思ってたけど、ほんとは人間だったみたいだし、誰と連絡してるのかは分からない……けれど、とにかく今頃()()()()()()()()って相手は思ってるかもしれないわ」


 まずいぞ。定期連絡が無かったことであのクレイだか何だったか、とにかく盗賊共の雇い主がここの異変に気づいたのは間違いない。


「マゴス君、もし君が奴らの雇い主でここの存在を知られたくなかったとする。それで突然連絡が途絶えたらどうする?」


「僕なら襲撃されたと見て全力で証拠隠滅にかかりますね。まだ公になっていない現状なら尚更です」


「よろしい。つまり我々はこんなとこでくっちゃべってる場合ではないって事だな」


「ねぇ。ちょっと、どういう事?」


 今頃、そのクレイとやらが証拠隠滅のためにここに兵力を向かわせてる可能性もある。こっちには非戦闘員が10人以上いるのにかち合ったら最悪だぞ。


「……仕方ない、盗賊共は置いていこう。村人は全員馬車に詰め込んでくれ。奴らの馬も失敬すればなんとか足りるでしょ。それでサリアスさん」


「なんでしょうか?」


「もしかしたらサリアスさんにものすごーく負担を強いることになるかもしれないんだけど……」


「はい、お任せください。私は貴方の護衛ですから」


 やばい。惚れそうだわ。


 そうなると後は魔王様に電話して偵察機の要請だな。俺は魔王シアター改、もとい携帯を取り出して電話をかける。


「もしもし? ギルスおじさん?」


 一応レイラが見てるので魔王という単語は出さない。


『はいはいギルスおじさんですよ。俺が出来るのはお前たちが行く先を使い魔で偵察するくらいだぞ。もうその準備はしてる。なんか他に出来る事あるか?』


 パーフェクトだ。流石は魔王様。ちょうどそれをお願いしようと思ってた。この魔王様(ひと)、強いだけじゃなくて頭も回るからほんと好き。


「いやそれで充分です。お願いしますよ、異常があったらすぐに知らせてください」


『分かった。何かあれば連絡する』


 それから超特急で準備を終えた俺達は、速やかに盗賊団のアジトを後にした。



 ーーー



 午後になって急に雨が降ってきた。


 雨でぬかるんだ街道をメルスクに向けて猛スピードでかっ飛ばす。街に着きさえすればこっちのもんだ。


「ねえ、そろそろどういう事か教えてくれても良いでしょ?」


 ぎゅうぎゅう詰めの馬車の中で、俺の隣にいたレイラが疑問をぶつけてくる。そういえばこいつは死んだ首領とのやり取りは知らないんだった。


 俺は事の顛末を簡単に説明してやった。


「……ってなわけで、今俺達は非常にまずい状況にあるんだよ」


「何よそれ……戦争したがってる人間がいるってこと? 信じられない……」


 ウブだなぁ。地球でもそうだったけど戦争すると金が儲かる奴ってのはどこの世界にもいるもんだぜ? このお子ちゃまに言っても分かんないだろうけど。


 ちょうどその時、例の携帯が震えだす。魔王様からだ。


「はいもしもし。ギルスおじさん?」


『名前を呼ぶのはいいんだけどおじさんは辞めてくれよ……そうじゃなくてだな。そこから5キロ程行った先に30名程の武装集団を発見した。そっちに向かってるぞ』


 やっぱり来やがったか。しかも凄い人数。こりゃ堪らん。


「了解です。また何かあれば連絡ください」


 通信を切って、外のサリアスさん達に声をかける。


「5キロ先から武装集団30名ほどが接近中。道を逸れてやり過ごそう」


「そんなに来てるの……? ねぇそれってデリウスの正規軍とかじゃないの? その……捕まってる人達を助けに来たとか」


 んなわけあるか。だいたいどうやって場所を見つけ出したんだよ。どう考えてもあのクレイって奴の手の者だ。まあ信じられないのはしょうがないか。お子ちゃまだし。


「馬鹿なこと言ってないでお前も手伝え。お前も冒険者なんだろ? 市民を守るのは冒険者の義務だぞ」


「……っ! 分かったわよ!」


 土砂降りの中、みんなと協力して村人を乗せた馬車を道を逸れた森の中に隠す。


「まずいな。車輪の跡が……」


 この雨のせいと人を乗せ過ぎたせいで街道にくっきりと轍が残っている。この車輪の跡をみたらよっぽどのバカでもない限りこの近くに隠れていることに気づくだろう。


「この雨さえ無ければ……サリアスさん。もしも気づかれた時には……」


「ええ、ここにいる方達には指一本触れさせません」


 くう〜最高にかっこいいなこの人。お嫁に行きたいわ。


「頼む、今はサリアスさんしか頼れる人が居ないんだ」


 マゴス君は大人数を相手にできるほど強くはないし、ワイルズさんも直接戦闘は1体1ができる程度。俺なんか論外だしな。


 くそう。今更後悔しても遅いけど、魔界を出るときに遠慮なんかしないでもっと護衛をたくさん連れてくるんだった。


 街道を見渡せる木々の間でしばらく息を潜めて待っていると、先の方から武装集団が走ってくる。全員が革製の防具を身に纏っていて、どう見ても正規軍ではない。


「……お前はあれがデリウス軍に見えるか?」


 隣で息を潜めるレイラがブンブンと首を横に振る。正規軍なら鉄製の防具のはずなので、どうやらこのお子ちゃまにも俺の話が本当だって分かったみたいだ。


 そうこうしているうちに武装集団が目の前の道まで走ってくる。そしてちょうど俺達が残した車輪の跡が途切れたところでピタリと足を止めた。


「くっそ……やっぱりバレたか……」


 リーダー格の男が部下に向かって何かを喚いている。やがて30人程いた集団が半々に分かれた。


「グレゴリー様……」


「待て、まだだ」


 半分になった集団のうち、片方がそのまま駆け足で先へ進んで行く。よし、これで半分に減ったぞ。だがしかし、残りの半分が周辺を探し始めた。見つかるのも時間の問題だな。


「サリアスさん、全員“コレ”で構わないから」


 立ち上がろうとするサリアスさんに俺はジェスチャーで首を横に掻き斬る動作をする。サリアスさんは無言で頷くと立ち上がって男達の方へ歩いて行った。



 ーーー



「あら、こんな所でどうなさったんですか?」


 私は気配を消して無法者に近づくと声をかける。男達は突然現れた私に驚いた様子で怒鳴り声を上げた。


「なんだ貴様は! どこから現れた!」


 この雨とはいえ、気配を消した私に気付けないのならそれほど強くはないのでしょう。グレゴリー様も心配しているでしょうしさっさと終わらせましょうか。


「もしかして馬車をお探しですか?」


 その言葉で男達の雰囲気が戦闘モードに変わる。でもまああまり意味は無いのだけれど。


「知りたければ私を倒してご覧なさい」


 そう私が言い終えると一番近くにいた3人が即座に攻撃を仕掛けてくる。筋は良いけれどあまりにも馬鹿正直すぎますね。


 私は槍を横に一閃するとその3人を纏めて薙ぎ払った。これで3つ。


「くそ! この女強いぞ! 後ろにも回り込め!」


 リーダーの男が部下達に指示を飛ばす。たしかに後ろに回り込むのは良い手だと思いますが、それは並みの強さの相手に対してのみ。私クラスだと全く意味が無い。


 後ろから斬りかかって来る男に最小限の動きで槍を突き刺す。これで4つ、あと11人。


 あまり時間をかけて散られても面倒ですから固まってくれている今のうちにこちらから仕掛けてしまいましょうか。


 私は、目の前にいる3人に急接近すると姿勢を低くして槍を薙ぎ払う。反応が遅れた3人の腹の辺りを同時に斬り裂くとそのまま右奥にいる事態を飲み込めていない2人に連続で突き刺す。


 これで9(ここの)つ。残るは6人。残った者はあっという間に数を減らされて完全に腰が引けてしまっている。


「撤収だ! みんな散り散りになって逃げろ!」


 リーダーの男はそう叫ぶと脱兎の如く逃げ出す。ふむ。良い判断ですね。ただしそれは相手が魔王軍四天王サリアスでなければの話ですが。


 私は逃げ出したリーダーの男に一瞬で追い縋ると足の腱を斬り裂いた。これでもうこの男は逃げられない。


 後に残った5人はそれを見てもう逃げ出せないと本能で理解したようだった。恐怖に顔を歪ませた者達が全員襲いかかって来る。


 ……まったく、上官の命令が聞けないのは酷いですね。全員が意図を瞬時に理解して行動できなければただの烏合の衆でしかない。


 まぁグレゴリー様が来る前の魔王軍がまさにそうだったのであまり偉そうには言えないですが。


 やがて襲いかかってきた5人全員を斬り伏せた私は、先ほど足の腱を斬ったリーダーの男のところに向かう。男はその一部始終を茫然自失といった様子で見ていた。


「……なぁ、あんた名前はなんて言うんだ? 冥土の土産に教えてくれないかな?」


 潔いのも武人として好感が持てますね。


「私の名前はサリアスです。それに別に貴方は殺したりしませんよ」


 リーダーならば知っている事も多いでしょう。それに部下は酷かったですがこの男は優秀なので殺すには惜しい。


「そうかサリアスっていうのか……世の中広いな。こんな強いお嬢ちゃんがいるなんてな……悪いが俺には家族がいるんでね……話すことは何も無いぜ!」


 男はそう叫ぶとガリっと奥歯で何かを噛み砕く。しまった! 毒か何かを仕込んでいたのか! そう気づいた私が慌てて近寄ったときにはもう遅く、男は既に息をしていなかった。


 ……家族がいる。きっとこの男は家族を人質に取られて無理やり従わされていたのでしょう。雇い主に恵まれないのは武人として辛かったでしょうね。


 私は自分の上司である参謀長を思い浮かべた。


 グレゴリー様。例え貴方がどこへ行こうとも私は一生ついていきますよ。貴方ほど優秀で部下思いな方は後にも先にもいないでしょうからね。


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