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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第九部 王都
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イカれた司教様

 

「もう二度とああいう事はやらん。こういうのは俺には向いてないとつくづく分かった」


「ははは……今度からは僕がやりますから……」


 マゴス君は俺の言葉に苦笑いである。正直彼もこの程度のことで俺が手こずるとは思わなかっただろうと思う。

 なんだかまた俺の株が下がった気がするけど、俺も自分自身に呆れているので今回は甘んじて受け入れる。


 あの後結局どうなったかというと、盗聴器の設置は断念した。あの賢者の間以外のいい場所が見つからなかったのだ。その代わり、蜘蛛型の使い魔をトーラス助祭にこっそり付けておいた。今現在も魔王様が監視を継続している。


「しかしセリア教と魔族はやっぱり相容れないみたいだな。魔族を倒すために魔法を広めてるような連中だから」


 俺が言うとうんうんと頷くマゴス君。


「セリア教は碌でもないですからね。あんなのにすがる連中の気が知れないですよ」


 人間との共存を目指す上でセリア教は必ず障害になる。その時にどうやって排除するかはまだ考えていないが、いずれ必ず対決することになるだろう。


「まぁとりあえず彼らが救いようが無い集団だというのは置いておいて今後どうするかだ」


「ひとまず当初の目的の一つである使い魔は送り込んだわけですから後は待つしかないのではありませんか?」


「まぁそうなんだけど落ち着かなくて。盗聴器の設置も失敗しちゃったわけだし」


 目標の50%しか達成できていないのだからもう少し追加で何かやっておきたい。そんなことをマゴス君に伝えたら難しい顔をされた。


「そうですね……内部構造も分かったことですしいっそ本当に侵入でもしてみますか? 何かそれと分かる文書でもあるかも知れませんよ」


「いや、流石にそれはやめとこう」


 ここでドジを踏んだら全てがパーになる。他にもう少しいい手は無いものか。


「そういえば……」


 マゴス君がふと閃いたような顔をした。


「あれほど大きな組織なのですから内部で権力闘争などは起きていないのですかね?」


 派閥争いに利権の奪いあい。そういうのは大きい組織なら必ずある。あの一地方都市であるメルスクの冒険者ギルドでもあったんだ。セリア教程の巨大組織に無いはずがない。それをうまく利用すれば情報を引き出せるかも知れない。


「そうだな……マゴス君、悪いけどちょーっとその辺の事調べてきてくれる? 俺も手伝うからさ」


 自分ばかり命令していては悪いと思ったのでそう提案したが、マゴス君は首を横に振った。


「調査の方は任せてください。ただ……変に目立つとアレなので、グレゴリー様は何かあった時いつでも対応できるように待機しててください」


 やんわり断られた感じだが、要は仕事の邪魔になるから動くなということな気がする。まぁ俺はその道のプロではないし、専門家に任せたほうがいいか。


「ああそう。なんかその、ごめんな」


「いえ、こちらこそすみません。ただ適材適所というものがありますから。グレゴリー様は司令塔として僕らに命令してくれればいいんですよ」


 部下に気を使われている。情けなくて悲しくなってくるぜ、そんな風に心で呟いているとふと良い方法を思いついた。

 マゴス君に迷惑をかけずに情報収集する方法が他にもあった。クラウドだ。まだあまり信用は出来ないけど一応協力してるわけだしあの男にコンタクトを取ってみるか……。



 ───



「なるほど? それで情報が欲しくて俺の所へ訪ねて来たってわけだ?」


 クラウドはそう言って頬杖をついた。


「そういう事。こっちはこっちで勝手にやってるけど、どうせなら教えてもらおうかと思って」


「ああそうかい。まぁ噂話程度でいいなら教えてやれないこともないけどよ。ところで彼女はどうした?」


 彼女とはレイラの事だろうと思って答える。


「今は隠れて貰ってる。教団が動いて捕まえにでも来たら困るからな」


「ふーん? あまり一人にしないほうがいいいとは思うがな。ま、ちゃんと考えてるならそれでいい」


 勿論何かあった時に救出できるようにカナリスさんは近くにつけている。それをわざわざこの男に言う必要は無いので言わないだけだ。


「それで具体的に何が聞きたい?」


「教団内の派閥とか力関係とか。あとは誰が支援してるかなんかも知りたい」


「そうするととりあえず概要からか。お前さん方はここらの事はちっとも知らないみたいだからな」


 言い方に少し棘を感じる。俺たちが “シャリーン伯爵の懐刀クラウド” を知らなかったことをまだ根に持ってるらしい。

 知らん顔して先を促すと、少し眉を寄せてからクラウドは話しだした。


「まずラウゼス司教の事はどの程度知ってる?」


「セリア教のトップって事くらいは。他は何も」


 俺がそう答えるとクラウドに大きくため息をつかれた。しょうがないじゃないか。事前に調べて分かるのなんてそんな程度くらいしかない。


「そうだな、何から話せばいいか……興味が持てるように結論から先に言うと、彼女をどうにかしてやろうと発案したのはラウゼス司教自身のようだ」


 それは確かに俄然興味が湧いてきた。


「どういう男なんだ? そのラウゼスってのは」


「曲がったことが嫌いで本気でセリア教の教えを信じ込んでる異常者だな。真面目が服着て歩いてるような男さ」


 ごつい法衣を身に纏った神経質な丸メガネが頭に思い浮かぶ。会った事はないがきっとこんな感じだと思う。


「ラウゼスは原理主義的な男で教団内部でも評価が分かれてる。あまりにもルール通りに物事を実行しようとするから煙たく思ってる奴もちらほら居るようだな」


 この言い方、恐らく教団内部にクラウドの内通者が居るんだろう。内通者がいるなら教団がレイラをどうするつもりなのか簡単に分かりそうなもんだけどな。それとも勇者関連の事項は極秘で簡単にはいかないんだろうか。


「ただ……それだけだ。表立って司教を批判するような人物は教団内にはいない。何しろ清廉潔白で真面目なだけだからな」


「それは……色々と考え直さなきゃいけなさそうだな」


 予想外だ。あれほど大きい組織なのに争いや対立が無いなんて。これでは誰かを煽ってどうこうという方法は使えない。困ったぞ。


「それはそれとして問題はこの司教、真面目すぎるが故に教団の教えを本気で実行しようと躍起になってるところだ。つまり“魔族を滅ぼして魔界を解放する”ってなもんさ。正直イカれてるとしか思えない」


「ははは……そいつは痺れるね」


 滅ぼされちゃたまらんわ。俺が苦笑いしていたらクラウドが本当に嫌そうに吐き捨てた。


「笑い事じゃ無いんだぞ。あのバカ司教、教団の魔導師軍を立ち上げかけたんだからな。なんとか止められたから良かったものの、あのままいってたらどうなってた事か……」


「そりゃ確かにイカれてる」


 セリア教団の精鋭魔法使いで構成された魔導師軍。そんなものを魔界に差し向けられたら、勝てはするだろうけど確実に被害が出る。そしてそうなれば魔族が黙っているはずがない。必ずやり返すだろう。下手をするとそのまま戦争になっていたかもしれない。そう考えたらラウゼス司教は実はかなりやばい奴なのでは?

 俺がそんなシナリオを脳内に思い浮かべているとクラウドが尚もボヤく。


「こっちから手を出さなきゃ魔族は大人しいもんだ。信者を増やしたいなら国内でだけ不安を煽っときゃ良いのに本当に魔族に手を出す奴がどこにいるかってんだ」


 セリア教にとって魔族は都合がいい存在だ。敵として存在してくれるだけで信者が増やせるのだからこんなにボロい商売もない。


「……セリア教は魔族が居ないと成り立たないわけだしな」


「まぁそうとも言うな。魔導師向けに魔法を広める事もしてるがそれだけじゃ食ってけないからな」


 やっぱり奴らとは相容れない。いずれどうにかしてセリア教を排除しなければ。


 他には特に話す事は無いとクラウドに言われてしまったのでその日は帰った。戻ったらマゴス君と今後のことについてもう一度相談しないといけないな。


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