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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第九部 王都
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賢者の間

 

「本日はどうぞよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくお願いします。さぁ立ち話もなんですから中へお入りください」


 俺はごくりと唾を飲み込んだ。俺の目の前にはこの国で一番大きなセリア教の中央教会がドーンと構えている。

 教会の内部を案内してくれるというトーラス助祭に促されて、中へ一歩踏み入れる。礼拝堂はシンとしており、誰も居ないようであった。


「今日は朝から礼拝がありましたけれど、午後は何もありませんから気楽にしてください」


 まぁ知っていた。だからこそこの時間帯に来たのだ。忙しくない今の時間帯の方が色々中を案内してくれると思ったから。


「ではまずはセリア教の歴史からお話ししましょう」


 トーラス助祭は移動をしながらこの教会の成り立ちについて話し始めた。


「今から1200年より前、人々は無力でした。というのもその頃の人類は魔法を全く使うことが出来なかったのです」


 一応知ってはいた。ただし全く使えないというのは誇張だろうと思っている。まだその頃は魔法学が発達しておらず、適切に魔法が使える奴がいなかったとかそんな所ではないかと俺は予想している。


「対する魔の者、今で言う魔族でございますけれど、彼らは純粋に力が強かった。人間など簡単に蹴散らしてしまえるほどには」


 たしかに単純な腕力では人間は魔族に勝てない。俺みたいな弱い部類の魔族に限ってはそんな事はないけど。


「そんな世の中であった今から1211年前、唯一神様からの神託を受けたセリア様がこの世にお生まれになりました」


 神託なんて馬鹿馬鹿しい。でっち上げに決まってる。俺は心の中で鼻で笑ったが、隣のステイシアはこの話を詳しくは知らなかったようで、トーラス助祭の話を興味深げに聞いている。


「唯一神様から力を授かったセリア様は非常に強力な“魔を退ける法理”をお使いになられた。大地を割り、大水を起こし、大火で焼き払った。魔の者に奪われていた土地をあっという間に取り戻したのです」


 それほど昔となると記録が残っていないから、実際のところそのセリアという人物がどの程度の強さだったのかはわからない。けれど実際に人間の勢力圏が拡大したのはその辺りの出来事らしいので、まるっきり嘘ということもないのかもしれない。胡散臭い事この上ないけど。


「セリア様は慈悲深いお方なので、ご自分がこの世を去られた後の事を大変心配なされた。そこでご自分が神から授かった“魔を退ける法理”すなわち魔法の力を皆に広めるべく、本をご執筆なさったのです」


 それがこちらの魔法教典になります。そう言って、トーラス助祭はケースに飾ってある紫色の辞典のような分厚い本を指し示した。流石に原典ではないようだが、それでも立派な装丁をしている。


「この教典により、人類は魔法を使うことを覚え、その力の一端を行使出来るようになったのです」


「なるほど。そう言えばセリア教は教義だけでなく、魔法を広く世に知らしめる事も注力していましたね」


「おっしゃる通りです。唯一神によりセリア様に授けられた“魔法”を広めることもまた教えとしております」


 世界全体の魔法の技術レベルを上げることも教会の目的なのかもしれない。しかし魔法使いなどこの世界では少数派であるから、そんな教えでは信徒が集まらないんじゃないか。純粋にそんな疑問が生じたのでトーラス助祭にぶつけてみる。するとマニュアルでもあるのかと言うくらいスラスラ答えてくれた。


「セリア様はこう仰いました。力の無き者や弱き者も全てを護らなければならない。それこそが魔法を使う者としての責務である。魔法を使えない方もセリア様はお受け入れになられます」


 魔法が使えなくても護ってあげますよ〜って事か。確かにそれなら信徒も増やしやすそうだ。

 いかん、感心してる場合じゃない。今日の目的は盗聴器の設置と蜘蛛型使い魔の放出だ。良い場所を見つけないと。俺は話を終えて他の場所を案内して貰う事にした。


 いくつかの場所を案内してもらっている途中、えらく立派な扉の前を通ったので何かと聞いた。


「ああ、こちらは“賢者の間”です。いわゆる会議室ですね。ここであらゆる事柄を議論して決定します」


 俺はピンと来た。ここだ、ここに仕掛けるのがベストだ。さて、問題は方法である。どうやって仕掛けようか……まずは中に入れるか聞いてみる。


「それは大変重要な場所ですね。是非中を見てみたいところです」


「申し訳ありません。ここは聖職者しか入れない事になっているので中をお見せする事はできないのです」


 残念。断られてしまった。しかしそんな事を言われては、ますますここしか無いじゃないか。

 一応こういう事態は想定していた。俺はステイシアに目配せをする。俺の合図を受け取ったステイシアは演技を始めた。


「……そのぉ、トーラス助祭。お話の途中ですみませんが御手洗いはどちらにありますでしょうか?」


「あ、これは気付かず大変失礼致しました。ご案内いたします」


 ではお二人ともついて来てください、そう言われる前に俺は、目の前に掛かっていた絵を指差した。


「では待っている間、私はこの絵画を観ていてもよろしいですか? これは大変美しいものだ」


 恐らく何かの宗教画みたいな物だろうと思う。良し悪しなんか分からないが、とにかくここにいられさえすればなんだっていい。

 トーラス助祭は少し悩んだ様子を見せて、やがて頷いた。


「ええ、構いません。ではこちらでお待ちください」


 そう言って、ステイシアとトーラス助祭が曲がり角を曲がったところを横目で確認した俺は、早速動き出す。

 賢者の間の扉に耳をつけてそばだててみるが、中からは音は聞こえてこない。この様子だと誰もいないらしい。


「鍵の類はっと……」


 外側から見る限り鍵は無いみたいである。一応マゴス君から鍵開けキットを借りてきたけれど必要なかった。


 そうと分かれば侵入するのみ。そおっと音を立てずに扉を開ける。もしかしたら誰かが中で無言で作業をしている可能性もあるから念のためだ。しかし中は真っ暗だった。窓の一つも無い。


「よし……」


 本音を言えば電気をつけたいけれど、そもそもあるのか分からないし、あったとしても点けたり消したりする方法がわからないから、扉を完全に開放して、廊下から入ってくる微かな日光を頼りに良い設置場所を探す。


 薄暗がりの中で段々と全体が浮かび上がってくる。部屋の形状は長方形というよりは、かなり正方形に近い形で、その真ん中に大きな円卓が置かれている。どこが一番偉い奴が座るかパッと見では分からなかったが、多分一番扉から離れた場所だろう。


 音を立てないように気をつけながら早足で一番奥の席に向かう。

 テーブルの裏側に盗聴器を貼り付けようかと思ったが、流石にこれは見つかりそうだった。なので、椅子の裏に変更する。椅子といってもかなり大きくて重そうな椅子だ。そう簡単にひっくり返したりは出来なさそうなので、掃除の時にあっさり見つかるということは無いと思いたい。


「よしよし……」


 蜘蛛型の使い魔はどうしようか迷ったが、同じ場所に設置するのも無駄だし、これはまだ持っておく事にした。入り口までさっと戻って音を立てないように扉を閉める。恐らく1分経ったか経ってないかくらいだろう。まだ誰も戻ってきていない。


 そうホッとしていると、すぐさま電話が掛かってきた。こんな時に掛けてくるのは間違いなく魔王様だ。うーん、出ても大丈夫か? まだトイレに行った二人は戻ってこないだろうし、仮に見られてもそこまでまずいものではない。俺は魔王シアターの凹みを押した。


「どうしました?」


『その部屋は通信が遮断されてるぞ! 冒険者ギルドのあの部屋と同じだ!』


「えっ!!」


 やっちまった! 今入ったこの部屋があのギルドの秘密の部屋と同じ機能を持っているならば、せっかく設置した盗聴器が無駄になってしまう。なんで確認してから設置しなかったんだ、馬鹿なのか俺は。


 廊下の向こうの様子をチラッと窺う。二人が行ってからもう2分くらい経ったか。今からもう一度戻って回収するべきか。サッと行って回収して戻ってくるだけなら30秒で済む。今ならまだ間に合う。


 俺は一度閉めたドアをもう一度押し開けた。走ってさっき盗聴器を設置した椅子まで向かう。ドアが全開なので見られたら色々と終わる。必死に手を伸ばして設置した盗聴器を探す。見つけて引っぺがそうとしたら手を滑らせた。


「あぁ落とした……!」


 ばかあほマヌケ。俺は何をやってんだ。手を突っ込んで手探りで探す。心臓がバクバク言いすぎて逆に止まりそうだ。こんなところを見られたら言い訳の余地もない。なんとか盗聴器を見つけて立ち上がる。焦りすぎだ。きっとステイシアだって時間を稼いでくれているはずだ。そうすぐに戻ってくることはないはずなんだ。


 部屋の外に出て廊下を確認するが気配はない。心を落ち着かせながらそっと部屋の扉を後ろ手で閉める。


 それから二人が戻ってきたのは数十秒後のことであった。危機一髪である。


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