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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第九部 王都
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先手を打つ

 

 次の日、俺はマゴス君とステイシアに頼んでクラウドについての情報を集めて貰った。すると大した苦労もなく情報はすぐに集まった。


 どうやらクラウドという男は本当にシャリーン伯爵の部下だったらしい。それに自分で言っていたように、シャリーン伯爵はセリア教団と仲がよろしくないのも本当のようであった。


「つまりそうなるとレイラが狙われてるってのも本当って事か。嫌な話だ」


「なんだか気持ち悪いわね。いったい私をどうしたいのかしら……」


 クラウドの身元がしっかりしている以上、情報も恐らく正しい。そうなると何か手を打たないといけない。せっかくの有益な情報を無駄にするべきではない。俺はみんなを集めた。


「セリア教団に対して先手を打とうと思う」


 俺は他の連中を前にしてそう静かに宣言する。


「それはいいですわね。具体的にどう仕掛けるつもりですの? 焼き討ち?」


 焼き討ちて……セリア教の話題になるとすぐに物騒な方に行こうとするなこの人は。カナリスさんの目が爛々としていて若干怖い。


「先手を打つとは言いましたが攻撃するなんて一言も言ってませんからねカナリスさん?」


「あらそうですの。残念ですわ」


 カナリスさんのセリア教嫌いは筋金入りである。


「先手を打つって言うのは教団に探りを入れてレイラをどうするつもりなのか突き止めるって事です」


 相手の出方を見てから対処するっていうのも考えたけど、どう考えたって後手に回るのでそれはやめた。レイラの安全がかかっている以上手は抜けない。


「ここからさっさと逃げてメルスクに戻るというのも考えましたが、分からないまま逃げても結局怯えることになるのでそれはしません。ですからここでしっかり突き止めたい」


 と言っても人手が全然足りない。いつもなら何人かでやって貰うところだけど、今回は諜報担当がマゴス君しかいない。他は俺含めて全員素人だからかなり厳しい。


「という事で今回はもう早めにギルス様にご助力願おうかと思います」


 早速電話をかける。ギルス様こと魔王様は若干気怠げな様子で電話に出た。


『はいはい。それで俺様はいったい何をしたらいいんだ?』


「あれを貸してください。蜘蛛型の使い魔」


 もうなりふり構ってられないので使えるものはなんでも使う。出し惜しみはしない。


『……分かった。ただ遠いから少し時間がいるぞ。3日は見といてくれ』


「充分です、ありがとうございます。あ、あと開発部に頼んでたアレってどうなりました? まだ完成はしてないと思いますが」


『それもちょうど今言おうかと思ってたところだ。ちょっと前に連絡があってな、一応試作品は出来たらしいぞ。それも届けるか?』


 試作品か。それでも頼んでいた仕様のものが出来たんであれば使ってみてもいいかもしれない。保険程度に考えといてみよう。


「じゃあそれもお願いします」


「その試作品ってのはいったい何ですか?」


 マゴス君が不思議そうに首を傾げる。


「うん? 盗聴器だよ盗聴器」


 魔王シアター改をもっと小型にして、周囲の音を送信するだけの機能を持たせた物。実は以前から開発部に掛け合って作ってもらっていたのだ。

 いつまでも魔王様の使い魔に頼るわけにもいかないし、何かしらこっちで自由に使える別の盗聴手段がいると思って頼んでいたというわけである。


「それは我々諜報部としても一層仕事がやりやすくなりそうですね。今度我々にもソレ頂けますか?」


「勿論そのつもり」


 これで一応道具の準備は何とかなった。しかし、魔界から輸送してもらっている3日の間にこっちで状況が動く可能性もある。数日の間だけレイラには別の場所で寝泊まりして貰った方がいいかもしれない。

 そんなふうに今後の事を考えていると、ステイシアが疑問を口にした。


「そもそもどうして教団の人達はレイラさんが王都に来ていると知ったんでしょう? 我々が王都に来たのはついこの間なのに。メルスクにいた時から見張られていたんでしょうか?」


「あーそれは……」


 俺とレイラが言葉に詰まる。心当たりはあった。めちゃくちゃあった。


 レイラはここ王都に来てすぐ、かつて世話になったというセリア教の神父に挨拶に行っている。恐らく、というか十中八九そこから知られたんだろうと思う。そんな事をかいつまんで説明したらカナリスさんが驚愕の声を出した。


「何ですって!? あなた、自分から会いに行ったんですの!?」


「俺が許可したんです。今となっては迂闊だったのかもしれません。申し訳ない」


 カナリスさんの矛先がレイラに向かないように庇ったが、レイラは責任を感じて謝った。


「ごめんなさい。お世話になった人がいるからその人だけにでもと思って……」


 カナリスさんはため息をつきながら諦めたように言った。


「……こんな事を貴女に言っても仕方ないですわね。我々とは違うのですもの」


 その言い方は別にキツい言い方では無かったが、カナリスさんが何か見えない線を引き直したように感じて心がざわついた。俺は少し嫌な気分になりながら話を戻す。


「過ぎたことを言ってもしょうがないですよ、やめましょう。それよりもこれからの事を考えないと」


 大事なのは教団が動く前に企みを突き止めることだ。


「今分かっているのは教団が何か企んでるってことだけですけど、これを使い魔と盗聴器を使ってなんとか暴きたい。そしてこの2つを最大限有効活用するには教団内部に設置するのが一番いい」


「それなら夜中にこっそり忍び込んで設置するのがシンプルかしら?」


 レイラの提案にマゴス君が待ったをかける。


「リスクが高すぎます。夜は警備もいるようですし、そもそも事前調査が全く足りていません」


「俺も侵入は反対だ」


 前にやった時にクレイに一杯食わされたから良いイメージがない。それに今は人手が足りてないから危険すぎる。


「俺は正面から行くのがいいかなと思ってる」


 教会を見学したい一般人を装う。仮にもし既に俺たちの顔が割れていたとしてもこれなら安全に内部に入ることができる。何しろこちらはまだ何も悪い事をしていないのだから。


「他には入信希望者としてってのもいいな。なんならセリア教に入信したって構わない」


「冗談ですわよね?」


「いいえ本気ですよ」


 形だけなんだし別にいいだろと思うんだけど、カナリスさんとしてはそんな事を言い出す事自体信じられないようだった。それどころかこういう事には長けてそうなマゴス君ですらあんまり賛成という感じではない。


「セリア教と冒険者ギルドでは訳が違いますからね……」


「どうして? 冒険者として活動するのも教徒として活動するのも結局は同じでしょ?」


「理屈としてはそうなんですが……」


 どうやら二人には理屈で割り切れない何かがあるらしい。これは言ってどうこうなるもんじゃないからしょうがない。


「じゃあマゴス君は見学希望者が内部に入れるのか。もしくは入信希望者くらいじゃないと入るのは難しいのか。その辺りを調べてくれ」


「了解しました。グレゴリー様はどうするのですか?」


「その方法で中に入れそうなら入るのは俺がやる。言い出しっぺだからな。でももう一人欲しいからステイシア、頼める?」


「はい。おまかせを」


「ねぇ、私はどうすればいい?」


「どっかに隠れてて貰う。奴らの企みが分かるまでレイラには絶対に手の届かない所にいてもらいたいんだ。場所はまだ考えてないけど明日には場所を移って貰うつもりだから」


「そうね……仕方ないわね」


 そしてきっかり3日後、魔王様から蜘蛛型の使い魔と試作型の盗聴器が届いた。こうしていつでも計画を実行に移せる状態になった。


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