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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第九部 王都
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大切すぎるがゆえに

 

 レイラがセリア教に狙われていると聞かされて、今度こそ俺は動揺した。

 しかし単純に考えてみると意味が分からなかった。セリア教はどちらかと言うと勇者を召喚した側だ。勇者を召喚した側が勇者を狙うなんて論理からかけ離れている。


 そもそも狙うってなんだ? 命を狙ってるって事なのか、それとも利用するって事なのか。狙うという言葉の意味が広すぎてよく分からない。


「その辺のことはな、実のところ俺もよく分かってねえんだよ。命を狙ってるのか利用したいのか見当もつかねえ」


「そんな馬鹿な話信じられるか。だいたい教団がレイラを狙う理由がない」


 俺が、普通の人なら当然そう思うだろう事をぶつけると、クラウドは鼻で笑った。


「はっ! ま、そう思うわな。だから俺は反対したんだ。こんな話信用されるわけがねえ」


 おっさんも分かんねえ人だぜ、そうぼやいて悪態をつくクラウドの反応を見るに、全くの嘘ではないような気がしてくる。


「あんたはどこでその情報を知ったんだ」


「そんな機密をそうほいほい教えられるかってんだ。あのな、おっさんは……俺のご主人はどう思ってるか知らねえが、俺としてはお前らを保護するなんてまっぴらごめんなんだ。信じたくなきゃ信じなくて結構だぜ」


 これじゃ埒があかない。ひとまず今はコイツの言う事を信用した方が良さそうだ。調べるのは後でも何とでもできる。


 例え本当に教団がレイラを狙っていたとして俺はどうするべきだ? コイツに協力を仰げば良いのか? いや、こんな初対面のやつの保護下に入るなんて出来ない。

 しかし、レイラの安全を考えたら守りは多い方が良い。こんな訳のわからん奴だけど、少しは利用価値がある気がする。やっぱりここは素直に───。


「保護なんて必要無いわ」


 俺が悩んでいるのを吹き飛ばすかのように、レイラがスパッと言ってのけた。


「悪いけど、私はそんなに弱いわけでも無いし、自分の身ぐらい自分で守れる。お気遣いありがとう。話はそれだけ?」


 今まで黙っていたレイラが急に喋り出したので、クラウドが呆気に取られたように目を丸くした。


「ほーう。随分強気だねお嬢さん。だけどな、セリア教団がお嬢さんを利用して何かするって場合はこっちも無関係でいられないのさ」


「あら、それこそ私の知ったこっちゃ無いわ」


 いや、それは知ったこっちゃあるだろうと俺は思ったけどレイラは止まらない。


「それはあなたが嫌なだけでしょう? 別にセリア教団に私達が協力したっていいんだし、あなたの事情とは関係無い。もしどうしても止めたいならそれ相応の態度ってものがあると思うのだけれど」


 その言葉にクラウドが苦虫を噛み潰したような顔をして黙る。レイラはそれを見て更に畳み掛けた。


「あなたさっきから “協力してやる” って態度だけど違うわよね? 正しくは “協力させてください” でしょ?」


 その挑発的な言動を聞いたクラウドは、嫌そうな顔をして舌打ちをした。


「……おっさんはとんでもねえ女に手え出しやがったな、ああそうだよ。確かに俺達が困るから協力させて欲しいってとこだ」


「だそうよグレゴリー」


「なるほどね。よく分かった」


 正直助かった。レイラが主導権をこっちが握るような形に持ってきてくれたから、これからの交渉はこっち主導で進められる。


 それからはかなりこちら側有利に話が進んだ。俺たちの行動を制限しない事を約束させたし、セリア教会の動向に関する情報提供も受けられることになった。


「いいか。ここまでの要求を飲んだんだ。絶対に奴らに与するなよ。今のところはアンタらは敵じゃないが、その時はどうなるか分からんと思え」


 などとクラウドは言ってくるが、元よりそのつもりはない。

 レイラが有利に交渉を進めるために、セリア教に協力することを仄めかしたから釘を刺してきているのだろうけど、俺は魔族だから本当は協力することはあり得ない。


「ああ分かった。後、俺達はずっとこっちにいるわけじゃない。用事が全部済んだらメルスクに帰るから用があったらそっちに来てくれ」


 どうせメルスクにも仲間がいるんだろ? と締め括ると、クラウドは無言のまま意味深に笑った。



 ───



「ねぇグレゴリー。ちょっとそこに例の板を置いて」


 その後の諸々の処理が終わって、部屋に帰ってきたらレイラがそんな事を言い出した。何だろうと思いながら素直に従う。魔王シアターが置かれたのを確認したレイラが口を開いた。


「グレゴリー、ちょっと今日のあなたは酷かったわ」


 いきなりダメ出しである。自分でもあの交渉は酷かったなと思っていたので余計に心にぶっ刺さる。


「ごめん。俺もそれは思ってた」


 もしレイラが居なかったら終始主導権を握られていた気がする。あれは本当に酷かった。もっと上手くやれたはずだ。


「あのねグレゴリー。この際だから言うけど、あなた、私に対して過保護すぎよ」


「そんな……事は無い。普通だよ」


 別に言うほど過保護という事は無いはずだ。例え誰であったとしても同じような対応を……あれ、ちょっと自信無くなって来たぞ。

 レイラはため息をついて、俺を諭すように言った。


「もし狙われてるのが私でなくて貴方自身だったらあそこで迷った?」


 迷わない。確実に突っぱねただろう。情報提供に関しては受けたかもしれないが、よく知らん奴に保護してもらうだなんてまさか考えもしなかったと思う。

 レイラはほらね、と言わんばかりに俺を見つめてくる。


「俺、過保護なのかなぁ……」


「そうよ」


 そうなのか。自分としてはあまりそうは思わないんだけどレイラがそう感じているならそうなのかもしれない。


「あなたの枷になるなんて私はごめんよ」


「枷だなんて……」


 一応否定はするけれどその言葉が弱いのは自分でも分かる。過保護すぎて今日みたいな事が起きれば、それは確かにレイラの言うとおり足枷になっていると言えるかもしれない。


「ごめんな。もっと頼れるところは頼るようにするよ……」


 俺が項垂れるように絞り出すと、レイラがちょっと慌てたように付け加えてくる。


「いや、その怒ってる訳じゃないのよ? 私個人としてはどちらかと言うと嬉しかったし……」


「嬉しかった?」


「だって私の事が心配だからああなっちゃったんでしょう? そりゃ嬉しいわよ。あぁ私大事にされてるなぁって」


「なるほど?」


 自然とニヤけてしまう。俺がニマニマしていたらレイラがすかさずため息をついた。


「こうやって励ましたらすぐに調子に乗るんだから」


 いやいやそんな事はない。ちゃんと反省してる。嬉しいのは確かだけども。

 とにかくレイラには指一本触れさせない。その為にはどんな手段も厭わない。


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