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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第六部 見えざる敵
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侵入

 

 あの営業の自宅を特定してから3日間、俺達はあの手この手で、出入りする人物が居ないかを見張り続けた。しかし、紳士ハットの男はおろか、誰一人として姿を見せた者は居なかった。


「勘づかれましたかね? それともやはりあそこは家ではなくて倉庫か何かなんでしょうか」


 並行して、近所の人にあの家にはどんな人が住んでいるのかを聞いて回ったが、そもそも空き家だと思っていたようで、住人なんていないと言われてしまった。

 登記簿の情報を見ても、名前だけしか分からない人の所有物という事になっていて、足取りなんぞとても追えない。ますます謎が深まるばかりだ。


「他人の所有物をこっそり使ってる、とかでしょうか? にしては堂々としすぎな気がしますけど……」


 こっそり使っているなら、買った物を他人に運び込んで貰ったりしないとは思う。


「うーん、勘づかれて帰ってこないのか、必要が無くて帰ってこないのか……いずれにせよこのまま見張りを続けても埒が明かないな」


 そこで、今後どうすべきか方針を決めることになったのだが、方法は大まかに2通りあった。

 一つは、いったん撤退してもっと広範囲で情報を集めるという案。確率は低いが、もしかしたらこの街のどこかで情報を見つけることが出来るかもしれない。

 そしてもう一つは、あの家に侵入して正体を探ろうという案だ。過激だけれど、手っ取り早いしかなりの確率で正体が分かる。


 俺達の中でもかなり意見は割れていた。ちなみにすごーくモヤモヤするので、諦めるというのは最初から選択肢に無い。


「けど、そこまでする必要ありますか? 所詮はなんだか分からない男が一人居たっていう程度の話なんですよ?」


 クラウス君は慎重派らしく、侵入には反対のようだった。


「だけど現状何も無いからと言って放置はまずいと思うよ。実害が出てからじゃ遅いんだし」


「そうよクラウス。あんなセキュリティー皆無の家にちょっと入るくらい、なんてこと無いじゃない」


 マゴス君とアイリスちゃんは過激派のようで、侵入には賛成のようだ。反対派のクラウス君を何とか説得しようとしている。

 ……まぁ確かに二人とも過激だよね。何がとは言わないけど……


 それはいいとして俺自身はどうなのかというと、どちらかといえば慎重派だ。ここまでちょっと上手く行きすぎてる感じがしてるので、もう少し時間をかけてもいいかなと思っている。

 しかし、手をこまねいて見ているのはなんだか尺に触るのも確かだ。何しろ、目の前に家という情報源になり得るものがあるのに手が出せない。こんなにイライラする事は無かった。

 悩んだ末に、俺は侵入する事に決めた。


「じゃあね。ものすごく慎重に、万全を期して侵入する事にしよう。それこそクラウス君が納得するくらいに。これでどうよ?」


 要はバレなきゃ良いのだ。無人の家にこっそり侵入する方法なんていくらでもある。


「どうしても反対だって言うなら何か別の案を考えるけど?」


「いえ、グレゴリー様がそう仰るのなら我々は従うまでです」


「そう言ってくれると助かるよ」


 それから準備に3日を費やした。侵入時、魔王様の使い魔で周辺の偵察。周辺住民の動向の把握。顔が割れないように顔を隠す等、その他諸々の手段を思いつく限り用意した。

 その間、男が現れないか見張りは続けたが、結局現れないまま、時間だけが過ぎていった。


 そして今夜、ようやく実行に移すという日の昼頃に、レイラにお食事に誘われてしまった。


「ねぇ、今夜一緒に食事でもどう?」


 なんとも間の悪い話だ。よりによって初めてお食事に誘われたのが侵入する当日だと言うんだから。我ながら運が無い。


「いやごめん。今夜は予定があってさ。また今度で頼むよ」


 俺がそう断ると、レイラはため息をついて、やれやれという感じで告げてきた。


「知ってるわ。どうせまた何か悪い事を企んでるんでしょ? なんだかみんなそわそわしてるもの」


 おーっと、分かってて探りを入れるために誘ったのか。随分鋭いですね? というかみんなそわそわしてるの? それは困っちゃうな。

 今回は諜報部の奴らだけじゃなくて、こっちに来てるほとんどの魔族に役割を割り振っているので、多分慣れてない連中が挙動不審になってるんだと思う。恐らくバートン辺りだな。あいつは普段レイラと一緒に行動してるし。


「あー……そりゃ参ったな」


 俺が降参のポーズで認めると、レイラは割と真剣な表情で俺の目を見てくる。


「ねぇ、それは私には言えない事?」


 少し考えを巡らせる。きっとレイラに話したとしても秘密は守ってくれるとは思う。確かに今回の悪巧みは普通に法に反しているのですんなり理解はしてくれないと思うけど、それでも最初から丁寧に説明すれば分かってくれるはずだ。

 でも言えない。理由は前にも言った通りだ。俺はレイラに嫌われたくない。俺が法に触れる行為を行おうとしている事を知られたくない。少しでもレイラに良く見せたい。だからこれは、ただの俺のわがままだ。


「……ちょっと言えないかな。ごめん」


「どうしても……?」


「……悪い」


 俺の返答を聞いたレイラは大きくため息をついた。


「はぁ……程々にしときなさいよ?」


「あー……ほら、あれだ。チョイ悪の方が魅力があって良いとか言うだろ?」


 俺は笑いを取ろうと思って戯けた調子で軽口を叩いたけれど、レイラは少し寂しそうに笑っただけで、逆に俺の罪悪感が増しただけだった。


「その……言えないかもしれないけど、何かあったら相談してよね? 私でも力になれる事があるかもしれないから」


「いや、なんかすまん……」


 ……いや〜なんて良い子なんでしょうね? 罪悪感がパナイですよ? 他の人には嘘を言ってもなんとも思わないけど、レイラに嘘をつくのは最近精神的に辛くなってきた。


 このままズルズル引き摺ったってしょうがねえ! よし! 言おう! 今じゃないけど近いうちに必ず。そうだな、このゴタゴタが無事に終わったら伝えよう。それで受け入れてくれたなら俺はレイラに───。



 ーーー



「なんだかわくわくしますね♪」


 隣にいたサリアスさんが小さな声で語りかけてくる。もうあたりは寝静まっていて動く影は無く、月が少し出ている以外は真っ暗だ。


「いや、わくわくしちゃダメでしょ。これから窃盗に入ろうって言うんだから」


「そうは言っても私が入るわけではありませんからねえ」


 サリアスさんは、何かあった時のバックアップが主な任務で、実際に侵入してもらうのはマゴス君とクラウス君の二人だ。そういうわけでサリアスさんはのほほんとしておられるわけである。


「まぁこの感じじゃ何も起きないだろうからね……えー、グレゴリーから各員へ。周辺に異常無し。これより作戦を開始する」


 この辺りは住宅街なので夜は静かなもんだ。びびってほぼ全員動員したけど流石に大げさ過ぎたかもしれん。サリアスさんが気を抜いちゃうのも分かる気がする。


 侵入時間は10分を予定している。めぼしいものは片っ端から頂戴してきていいと伝えてある。後は待つだけだ。


 そう思っていたら、侵入役のクラウス君から通信が入ってきた。まだ作戦を開始して数分しか経っていない。


『どうした、何があった?』


『グレゴリー様。我々は嵌められたようです! 中はもぬけの殻です!』


 なんだって!? まさか侵入する事を事前に察知してたとでも言うのか!? いや、クラウス君は嵌められたと言っているけど、まだそうと決まったわけじゃない。もしかしたらただ単に使っていなくて、中身が何も無いという可能性も……そう思った俺だったが、次のクラウス君の言葉で完全に嵌められたと理解する。


『ただ一つだけテーブルの目立つ場所に手紙が置かれていました。宛先は()()()()()()()()()()()()! 我々は監視されているかもしれません! すぐに撤収します!』


 やられた! やっぱりおかしいと思ったんだ! クソッ! いつだって嫌な予感は当たりやがる!


「分かった! 各員へ、速やかにその場を撤収しろ!」


 今も誰かがどこからか俺たちを見ている。そんな妄執に駆られながら、俺たちは這々の体で家に逃げ帰った。


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