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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第六部 見えざる敵
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上手くいきすぎると逆に不安になるもの

 

 案内役の薄汚れた少年に連れて来られたのは、このメルスクの街でもあまり活気の無い場所だった。寂れた住宅街の一角に小さな商店がポツリと一軒だけある場所。

 それを見下ろす位置にある、少し離れた坂の上にテリーは居た。


「やぁ、今日中に間に合ってよかったよ。もうすぐ店が閉まってしまうからね」


 もう時刻は夕方である。そろそろ辺りが薄暗くなってくる時間帯だ。この街の多くの商店がもう少し暗くなったら閉め始めるのでギリギリだった。


「おめでとうテリー。君は勝負に勝ったみたいだよ。ただ、これから見せてもらうのが探していた物かどうかによるけどね。早速答え合わせといこうじゃない」


「“あの瓶と同じ物を見つけろ” という依頼ならば完遂したという自信があるよ。是非見て来ておくれよ」


 テリーは家屋の壁に寄りかかりながら、坂の下の店を顎でしゃくった。


「テリーは行かないの?」


「遠慮しておくよ。僕みたいな浮浪児にウロウロされると店の人は嫌がるだろうからね」


 ふーん、そんなもんか。俺はそう思いながらステイシアと一緒にその店に向かった。

 店は骨董商のような出立(いでたち)で、古ぼけたガラス細工だとかよく分からん模様の皿なんかが所狭しと並んでいた。どれもこれも普段見ることは無いようなものばかりだ。


「おや、もう店を閉めようかと思っておったんだがね。君達はお客さんかね?」


 俺達が興味深げに品々を見ていると、恐らく店主であろう、熟練の職人のような見た目のお爺さんが少し驚いた様子で話しかけて来た。


「ああ、こんなギリギリに失礼。ちょっと探し物をしてましてね。ここにあるという情報を得たものですから」


「ほうほう、一体何をお探しかな?」


 ふむ、ガラス細工が沢山あって、店が閉まる前に探しきれるとは思えないし、このお爺さんに頼んで探してもらった方が良さそうだな。


「これなんですけどね?」


 懐から例の密閉瓶を取り出して手渡す。


「ははぁ! コイツは……確かにウチの商品だな。あんたこれをどこで?」


「とある知人から貰ったものでして。随分と素敵な入れ物だからどこで手に入れたのか探してたんですよ。じゃあこれは貴方が作ったもので間違いないですね?」


「そうじゃそうじゃ。いやはや、ワシの作ったものがそんなに喜ばれるとはなぁ。職人冥利に尽きる」


「同じものはまだ他にもありますか?」


「ああ、あるぞ。ちょっと待っとれ」


 店主のお爺さんは一度引っ込むと、店の奥から全く同じ形状の瓶を持ってきて見せてくれた。見比べてみると確かに同じ物のように見える。

 よし、出所はここで間違いなさそうだ。後は例の営業がここで買ったかどうかとそれに付随する情報集めだ。


「ということは、私の知人はやはりここで買ったということになるのでしょうか? 他の場所で売りに出していたりしますか?」


「いいや、ここだけだ。というかこれを買いに来た奴は覚えとるぞ。先々週だったかな、帽子が素敵な紳士の……」


 おっと、ビンゴか。いやいや、ちょっと出来過ぎてないか? そう少し不安になりながらも、とにかく今は情報集めに専念しなければと思い直す。


「ああ、それなら僕の知人で間違いないですね。髭がとっても素敵な人でしょう? 趣味が良いんですよ」


 より詳細な情報を得るために嘘八百を並べ立てる。知人と言った方が警戒も緩んでポロポロ話してくれるもんだ。


「おお! そうじゃそうじゃ! そうか、お前さんはあの彼の知り合いだったか」


「ええ、ええ。こんな隠れた名店の情報を独り占めしてるだなんて、彼も人が悪い」


「むふふ。そうかそうか!」


 よくまぁそんな口から出まかせがペラペラ出てくるもんだという表情でステイシアが俺を見ている。いやいや、これは円滑なコミュニケーションを図るための一種の方便だから。嘘が上手いみたいな謂れのない中傷はやめて欲しい。


「20個も買ったのには驚いたもんだが、配るのも含めてならば納得じゃ。運び込むのは大変じゃったから苦労が報われたようで良かったよ!」


 今このお爺さん、“運び込む” って言ったな? ステイシアもそれを聞いてハッとなっている。どうやらこのお爺さんはあの素敵な紳士ハットの御仁のお宅をご存じのようだ。

 俺は頭をフル回転させて、どうやったらその場所を聞き出せるかを考えた。


「“運び込んだ” という事は彼の自宅に直接持っていったんですか?」


「ああそうじゃ。重くて敵わなかったわい」


 腰がどうとか言っているので本人が直接持っていったのは間違いない。で、あるならば……


「実は───この瓶をもらったお礼に、彼にサプライズプレゼントを渡そうと思ってこの辺りに来たのですが、少し迷ってしまって……良ければ彼の家まで案内して頂けませんか? もちろんタダでとは言いませんから」


 親しい友達であるという雰囲気を出しながら、家まで会いに来た事にした。相変わらずステイシアが呆れたような顔をしているが、聞きだせりゃ何でもいいと思うのは俺だけかね?

 そんな事を頭で考えてたら、お爺さんはそれくらいでお金は取らんよ、と言って案内すると言ってくれた。快く引き受けてくれたのは、自分の作品が褒められて嬉しかったのもあるかもしれない。


 店を出たら、離れた坂の上にテリーの影がチラリと見えた。存在感を薄くしてこちらを伺っている彼に、まだかかりそうだとこっそりジェスチャーで謝ると、彼はすぐに引っ込んでいった。今日はもう引き上げるのかもしれない。悪いから今度報酬を渡す時、もう1枚くらい金貨を上乗せしてあげよう。

 それからしばらくお爺さんの後をついていくと、やがて家というよりは倉庫のような場所の前で立ち止まった。


「ここじゃよ」


「あーと……これは家ですかね?」


 俺が正直に思った事を口に出すと、お爺さんも肩を竦めて同意した。


「うーむ。家ではないのかもしれんなぁ。とにかく商品を運び込んだ場所はここで間違い無いよ」


 でーんと構える二階建ての建物の出入り口には、普通のドアは無く、代わりにでっかい両開きの扉があった。なんというか、大きなガレージと言った方が分かりやすいか。

 扉の隙間や側面にある小窓からは光は漏れておらず、中には誰もいないようだった。


「彼は今はいないようですね。また今度出直すとします」


「うむ。そうした方が良さそうじゃな」


 もう陽は落ちて、空を淡く橙色に照らすばかりである。とにかく場所は把握できたので、今日はこれで引き上げよう。



 ーーー



 夜も更けて、皆が寝静まった頃、俺はベッドに仰向けになりながら今日起こった事を考えていた。


 一日だ。何がというと、俺達が本格的にあの営業の男を探し始めてから家を特定するまでに要した時間がだ。たったの一日。本来ならば素晴らしい調査能力だと喜ぶところなんだろうけど、俺はとても手放しで喜ぶ事は出来なかった。


 あまりにも出来過ぎている。今のところの俺の感想はそんな感じだ。


 まず疑問点が二つある。一つ目は紳士服に帽子なんて目立つ格好で生活しているらしいのに、そんなに見つからないものだろうか、という点だ。

 普段からそんな姿で生活しているならば、もっと有名になっていてもおかしくない。だと言うのに、情報を集めた段階では、見たことがある、という程度の情報しか集まらなかったのだ。


 そしてもう一つは宿に関してだ。あの営業が実際に泊まっていたらしい宿。今日特定した建物が、本当に家として使われているのなら、あんな近くにある宿に泊まる意味は全く無い。そう考えると、あの家は寝泊りする場所としては使っていないのかもしれない。とはいえ、あんなところに倉庫だけがポツンとあるというのも変なので、やっぱり何かがおかしい。


 なんだか胸騒ぎがする。まるで、美味しい餌がぶら下げられているのを見ている気分だ。このまま飛びついて本当に大丈夫だろうか? 俺はうんうん悩みながら、そのまま眠れぬ夜を過ごした。


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