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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第二部 果ての村消失事件
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魔族が犯人なはずがない

 

 紹介された築30年のボロ家は値段の割にはそこそこ広かった。隙間風が吹いたり、歩くたびにギシギシ鳴ったり、まぁいろいろと酷かったけど直せば使えなくはない。寧ろ水がちゃんと出るだけ感動もんだ。


「俺はここでも大丈夫だけど二人は我慢できる?」


 我慢できないとか言われてもここ以外無いんだけどさ。


「私は家の方針で如何なる状況、如何なる状態でも寝泊まり出来るよう躾けられましたので全く問題ないです」


 サリアスさんはお嬢様だけど武家の出身であるからそこら辺は逆に大丈夫なようだ。マゴス君の方はというと、上司二人が平気だと言っているのに嫌だとは言えず、コクコクと頷いている。


 うーん、こういうのってパワハラになるんだろうか? お金稼いだらちゃんとしたとこに移るので今は許してほしい。


 いずれにせよ金だ。金をなんとかする方法を考えなきゃにっちもさっちもいかない。俺は今後の事を思って憂鬱になりながらマゴス君に指示を出した。


「マゴス君はテーブルと椅子だけでいいから適当に安いのを揃えといてくれる? その間、俺とサリアスさんは街を調査してくるから」


 面倒事をマゴス君に押し付けた俺は調査ついでにサリアスさんと街を見て回ることにした。



 ーーー



「特徴無いなー。この街」


 この冒険者の為の街は、ざっと見ただけでも住宅街や教会、いくつかの商店などが立ち並んでいるだけで特別変わったものは無かった。強いて言うならば冒険者向けの宿屋と飯屋、あと武器防具屋が多いくらいか。


「なーんか上手い儲け話はないかねー」


「ふふふ、グレゴリー様ならもう何か思いついているのではないですか?」


 いやいや、いくら何でも買いかぶりすぎだ。というか外出してるのはそういうネタを見つけるためでもあるんだからサリアスさんも頑張って考えて欲しいんだけど。


「うーん、今のところサリアスさんに依頼を受けてもらって小銭稼ぎしてもらうくらいしか思いついてないかな?」


「ああ! それはいいですね! 魔物相手なら私も遠慮無く力を発揮出来ますから」


 魔族と魔物は名前は似ているが全然別物だ。魔界に住む知能のある生き物が魔族。無いのが魔物。だから魔族でも普通に魔物に襲われるのだ。魔物は魔族にとっても厄介者だった。


「ちょっとどんな依頼ががあるか見に行っても?」


「ああ良いよ。行こうか」


 特に明確な目的地もなかった俺達は冒険者ギルドへと向かった。



 ーーー



「どのような依頼があるか見せて頂けますか?」


 サリアスさんが受付で訊ねると、その男性職員は訝しげな表情をして俺達を見てくる。


「ふーん。お前さん達、依頼を受けたいのか?」


「いえ、参考までにどんな依頼があるか見に来ただけです。だめでしょうか?」


「いや……まあ別に構わないが」


 その男性職員は目を逸らさずに依頼の書かれた紙束をよこしてきた。そのけったいな物でも見るような微妙な反応に俺はつい聞いてしまう。


「何か問題がある?」


「いんや。ただ見ない顔だなと思っただけだ。お前さん達、ここには最近来たのか」


 ああそういうこと。何か不審なとこでもあったかと思ってちょっとビビってたわ。いかんいかんまた魔王様に笑われる。


「ええ、つい昨日ここに来たばかりなんです。冒険者登録もその時に」


「ほーん。なるほどそりゃ見たことないわけだ。俺はトールって者だ。この冒険者ギルドのサブマスターを務めてる。よろしくな」


 トールと名乗った男は流石はサブマスターというだけあって、まだまだ現役で戦えそうなほど筋骨隆々だった。というかこんな脳筋みたいな見た目してても職員になれるんだな。


「どうもご丁寧に。俺はグレゴリーだ。こっちのサリアスさんと一緒に、遠くの国からやって来たんだ」


「サリアスです。よろしくお願いしますね」


 出自を聞かれた時に困らないようにあらかじめ考えておいた設定を伝える。遠くの国というのが魔界である事を除けば大体合っているのでそんなに演技をする必要が無いのも良いところだ。


 そんなこんなで俺とトールが他愛もない会話をしていると、ペラペラと紙をめくっていたサリアスさんの手がふと止まった。


「石羽鳥が出ているのですか。大変ですね」


「ああそれな。割とここから近くなんで結構急ぎなんだよ。だが自信を持って安全に倒せるって奴が別件で出払っててな。そいつが帰ってくるの待ちなんだ」


「そうなのですか」


 そう言いながらサリアスさんはチラチラと俺を見てくる。それは、まるで買って欲しい玩具があるのに、素直に買ってとは言い出せずに我慢して見つめる子供みたいだった。


「その依頼、受けたいの?」


「最近あまり実戦が無くてもやもやしていたのでやらせて頂けるなら直ぐにでも……」


 可哀想に。いや何がって勿論、ストレス発散のはけ口にされる石羽鳥がだ。サリアスさんが石羽鳥如きに負ける事は万が一にもあり得ない。


「ならお願いしようかな。報酬も良いみたいだし」


 今日の夕飯の献立を決めるみたいな軽いノリで承諾した俺に、トールから待ったがかかる。


「おいおい待て待て。それは上級冒険者用の依頼だぞ。嬢ちゃん達は昨日登録したばかりだろう?」


 トールに制されたサリアスさんは、昨日貰った金色に輝く冒険者証をスッとドヤ顔で提示する。それを見たトールはハッと息を飲んだ。


「……そういや昨日とんでもねえ新人が入ってきたって噂になってたな。まさか嬢ちゃんがその新人だったとは……」


「私が受けても大丈夫ですか?」


「勿論だ。だが怪我とかしても一切こっちは責任は負わないからな。それはよく理解しといてくれ」


「それは大丈夫です」


 そう澄まして答えるサリアスさん。あの顔。多分もうサリアスさんの頭の中は、石羽鳥を何分で倒せるかって事でいっぱいだ。


 その後、トールから概要を説明されたサリアスさんは場所がすぐ近くだという事が分かると、まるで散歩にでも行くかのような気軽さでこう(のたま)った。


「じゃあ私ちょっと今から行ってきますね。晩ご飯には間に合うと思います」


 はい!? 今から!? 流石にこれにはトールだけでなく、俺もぶったまげた。


「おいおいおい。いくらお嬢ちゃんが強いからってそんな思いつきで倒しに行くような相手じゃ……」


「そうだよ。せめて明日とかにしたら……いや、やっぱり行ってきてください」


 俺はトールと一緒になって止めようとしたが、その瞬間、サリアスさんがしょぼくれた犬みたいな顔をしたので考えを改める。今行かせてあげないと明日まで機嫌が悪くなりそうだ。


「分かりました! じゃあ行ってきます!」


 サリアスさんは花のような笑顔を咲かせると、さっさと出かけていってしまった。危険が無いからいいけどあなた、一応俺の護衛なのよ……?


「随分パワフルなお嬢ちゃんだな……ところでお前さんは行かないのか?」


「俺なんかが石羽鳥と戦ったら出会った瞬間石にされちゃうよ」


「あれ? お前も上級なんだろ? 確かそう聞いてたが」


 ぐぬぬ。サリアスさんが測定の時に余計な事をしたせいで面倒くさい事に……適当に言い訳するか。


「なれたのはたまたまだよ。実戦ならすぐにやられちゃうって」


「ほーん、そんなもんか。お前さんは……その、言っちゃ悪いがあんまり強そうに見えなかったからな。納得だよ」


「そりゃどうも」


 どうやらトールは見る目があるらしい。サブマスターだし当然か。


 その後、冒険者ギルドを出た俺は、また街の中を散策し始めた。しかし特に新たな発見もなく、歩き疲れた俺は街の中央広場にある噴水の縁に腰掛ける。すると、すぐ隣に座っていた二人組の会話が耳に入ってきた。


「なあ、聞いたかよ。あの最果ての集落、無くなっちまったってよ」


「ああ、聞いた聞いた。なんか集落ごと消されたらしいな」


 お、ちょうど聞きたかった例の集落の話だ。このまま黙って聞いてよう。


「物騒な世の中だよな、ほんと。集落ごと消し去るなんてどんな奴だよ」


「どうも魔族の仕業って話だ。生き残りが見たんだってさ」


 そんな馬鹿な……あり得ない。あれはほとんど人間の仕業で間違いないはずだ。俺は立ち上がって二人組に声をかけた。


「ちょっと失礼! そのお話、詳しく聞かせて貰えません?」



 ーーー



 その夜、俺とマゴス君と石羽鳥討伐からサクッと帰ってきたサリアスさんの3人で、買ってきたばかりの中古のテーブルを囲んで、消えた集落について話し合いをしていた。


「今日街中で話を聞いたんだけど、例の襲撃は魔族の仕業だって生き残りが証言しているみたい」


「街でそういう噂が流れてるという情報が先ほど僕の方にもクラウスから回ってきました」


「そんな……」


 サリアスさんが露骨に狼狽えている。魔族が掟を破ったなんて話、信じたくないのだろう。


「しかし、そうなるといったい誰がやったのかという話に──」


 マゴス君が話し始めたちょうどその時、部屋の窓ガラスに何かがガンガンとぶつかる音が聞こえた。


「ん? なんだ?」


 窓に近寄ると、小さなコウモリがこれまた小さな袋をぶら下げながら何度も窓に体当たりしていた。ピンと来た俺は窓を開けて迎え入れる。


「それはいったい……」


「多分魔王様の使い魔だね」


 コウモリはフラフラとテーブルの上まで飛んできて袋を放り投げると、またフラフラと窓から出て行った。テーブルに放られた袋を開けると、中にはあの魔王シアターとよく似た板きれが入っていた。


 こりゃいったいなんだろうと手に取ると、その板が突然ブルブルと震え出す。


「ああ……ここを押せば良いのかな」


 ポチッと真ん中のふくらみを押すと板から声が聞こえてくる。


『あー、もしもし? 聞こえるか?』


「「魔王様!」」


 サリアスさんとマゴス君がピッと姿勢を正す。いきなり自分のとこの社長が電話かけてきたら多分こんな感じの反応するよね。


「聞こえてますよ。なるほど、通信機に転用したんですか。これは便利ですね」


 あのでっかかった通信機をこんな前世のスマホ並みに小型化できるとは。魔王軍の研究開発チームはよっぽど優秀に違いない。また金が減ってそうなのには目を瞑ろう……


『こっちから何も伝えられなくて不便だったんでな。魔王シアターを改良して作らせた。まあそんな事はどうでもいいんだ。魔族で手を出した奴がいないか調査させていた結果が出た』


 実はまさか……? 俺達はゴクリと唾を飲みこんだ。


『結果は白だ。手を出した奴は居なかったぞ』


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