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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第六部 見えざる敵
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最高の秘書

 

「それで……俺達が向こうに行ってる間、こっちじゃ何か変わった事はあったか?」


 ギルドのカウンターに乗り出した俺がそう確認すると、トールは唸りながら腕を組んだ。


「うーん……まぁ、あったっちゃあったかなぁ……」


「なんだよその微妙な反応は」


「いや、なんかお前らの方がよっぽどあり得ない事件に巻き込まれてて、それに比べりゃこっちの事なんて大した事ないっていうか日常の延長っていうか……」


「ああ確かに。俺らのは普通じゃないわな」


 まぁ旅行先で新種の生物に遭遇してあれやこれやと立ち回るなんて、普通はそんな事件に巻き込まれる事は無いんで最もな意見だと思う。


 あの後、タマちゃんの件はどうなったかというと、ほぼ計画通りに事態は進行してる。

 ギルドに対して新種の報告はすぐにしたし、狩猟を禁止する御触れも明日には出る。それと同時に生態調査もやる事になった。トールにバートンを指名して貰って、今度もう一度レジア湖まで行ってもらう事になっている。全部予定通りだ。


 ただ一つ、予定通りでないとすれば、シリウスさんの娘さんであるステイシアさんが俺達に付いてきちゃったことくらいか。


「けっ! 羨ましい限りだよ。俺なんかギルドマスターだってのに秘書どころか助手の一人もいないんだぞ? ほんと世の中間違ってるぜ!」


「だーかーらー、言ってんだろ? 秘書じゃなくて調整役だって」


 レジア湖とここメルスクじゃ結構な距離があるんで、シリウスさんは連絡を密にするために、娘のステイシアさんを俺に付けたという訳だ。


 しかしまぁこれがほんと凄いのよ。あなたほんとに調整役? って言いたくなるくらいの世話焼きっぷり。秘書通り越して実は専属メイドなんじゃねえのって言いたくなるくらい、徹底して俺に付き従っている。


 まだこっちに戻って来て2日しか経ってないのに、もう既に色々やらないといけない事とか覚えてくれている。なので凄く助かっているし、ありがたいのも事実。ただ問題があるとすれば……。


「俺が魔族だって知らない事なんだよなぁ……どうしたもんか」


 今だって、ステイシアさんに他の事を頼んだ隙にここに来てるくらいなんだ。この調子でぴったりくっつかれると、おちおち魔族関連の話もできやしない。


「ああん? そんなの些細な問題だろ。要らないなら是非ギルドに寄越してくれ。いつでも大歓迎だ」


 いや、だから調整役だから秘書として派遣とかは……はぁ、もう別にいいや。勝手に言わせとこう。

 それは置いといても実際問題どうするかはまだ考えていない。


「このままだとそのうちバレそうで怖いんだよ。どうしたもんか」


「別に俺っていう前例がいんだからいっその事ばらしちまったらどうだ? どうせ協力者増やさなきゃなんねえんだろ?」


「確かにそうなんだけどさぁ……」


 実際、バレても何とかなると思う。とはいえ、会って日が経ってない人間にバラすのはリスクが高すぎる。

 もしかしたら実は魔族に対して恨みを持っているかもしれない。せめてそういう思想の調査を終えて、特に何も無さそうなのを確認してからじゃないと。


 そんなような事をトールに言ったら、じゃあレイラちゃんには言わないのかよ、なんて返されてしまった。


「ああ、まぁレイラはね……」


 レイラと出会ってからもうかなり長い時間が経っている。それに前に過去を調べた時も、特に魔族に対して恨みなんかは無さそうだった。論理的に言えば別にレイラには教えてもいいはず。


「俺もよう、たまに分かんなくなりそうな時があってだな。こないだ嬢ちゃん(サリアスさん)に書類渡しそびれた事があったろ?」


「あったな、そんな事」


 この前、トールが中身を見られたらまずい書類をサリアスさんに渡そうと思って忘れた事があった。


 それでトールは、代わりにたまたま来ていたレイラに渡したらしいのだが、よくよく考えたらレイラって魔族関連のこと知らないじゃん、というのを後になって思い出したらしい。


 俺もまさかレイラから、“はい、なんかトールからあなた宛によ”、なんて軽いノリで、勇者候補に関する書類をポンと手渡されるとは思っていなかったので、かなり驚いた。もしもあれの中身を見られていたら、ガッツリ勇者がどうとか書いてあったので、かなーり言い訳に苦しんだ筈だ。


「レイラちゃんに言ってくれないと間違って俺の方からバラしちまいそうだよ」


「お前、ほんとにそれだけは気を付けろよ? マジで洒落になんないから」


 俺が幾分真面目なトーンで釘を刺すと、トールも反省しているのか、それ以上は何も言ってこなかった。


 そんな感じでレイラに言うか否かは適当にはぐらかしたけれど、俺の心の中ではほとんど決まっていた。レイラには俺が魔族である事は言うつもりはない。


 なんでレイラに教えたくないのかって? それはほら、あれだよ。あいつの事が好きだからだよ。

 怖くてしょうがないんだよ。事実を知った後、あいつがどういう反応をするかまるで想像がつかない。だから言わない。嫌われたくないから。


 これは論理的とは言えない決定だし、俺らしくはないと思う。実際、他の奴にレイラも協力者になってもらうべきだと理詰めで言われたら多分反論できない。


「おーっと、麗しの秘書様のお出ましだぞ……」


 俺の思考を断ち切るように、ステイシアさんがギルドに入って来た。粗野な奴ばかりしかいないギルド内に、突然華やかな雰囲気の女性が現れると目立つ目立つ。


「やっと見つけましたよグレゴリー様、ここにいらっしゃったんですね」


 ここの場所の事教えてないのによく分かったね君……。


「ああステイシアさん。ちょっと世間話してただけだからさ。ついて来させるのも悪いと思って」


「そんな事を仰らないで下さい。例え世間話でもお供致しますから」


「ああ、そう……」


 トールが能面のような顔を俺に向ける。そんなに羨ましがられても困るわ。こっちはバレないように必死なんだぞ全く……。



 ───



 はい、ステイシアさんにバレました。


 早いよ!? いくらなんでも早すぎだよ!? まだこっちに戻ってきてたったの3日だよ!?


 いや、やっぱり距離が近すぎた。流石に四六時中近くにいられると厳しいものがある。

 旅行に行く前はこんな秘書ができるなんて思ってなかったのも大きい。書類とか出し入れがめんどくさくて仕事場の普通の棚に置いといたのが良くなかった。勿論戻ってきて慌ててすぐに見えないところにしまったよ? でも一部だけそのままになってたんだよね。


 で、ステイシアさんがその書類を整理しようとじっくり見てるところに俺が戻ってきて、あっ……ってなって今に至る。

 最初しらばっくれようかと思ったけど、なんかステイシアさんの目が確信めいていたからそれはとっくに諦めた。

 まぁいずれにせよ俺がお馬鹿さんだったというだけの話なのだ。


「……」


「……まぁ、勇者に関するその書類について言いたい事はあるだろうけど、とりあえず座ってよ」


 勘弁して欲しいよ。なんだこの気まずい沈黙は。


「まぁね。こうなるかもってちょっと思ってた所はあるんだけどね。それにしても早かったな〜。3日か〜」


 ステイシアさんは相変わらず黙ったまま俺を見ている。


「そんな黙られるとちょっと困っちゃうなぁ。なんか言ってよ」


「……どうもおかしいとは思っていました。先日、バートンさんが“魔王様”という単語を口にされていたので」


 なぬ!? あいつ、やりやがったな。バートンのうっかりめ。どこで口滑らしたか知らんが後でとっちめてやる。


「それに、昨日ここでグレゴリー様がどなたかと通話されている時も“魔王様”という単語が聞こえてきましたから」


 あ、あれ? 俺もなの? 彼女の言う通り、昨日たしかに俺は魔王様に事務的な連絡をしていたし、“魔王様”っていう単語は口に出した。でもあの時はこの部屋には誰もいなかったのだ。


「まさか……あの時ドアの外で聞いてたのか!」


「ええ、たまたま外から戻ってきたときに聞いてしまいました」


 あちゃー。俺もうっかりだったか。これはバートンに文句言えんな。この部屋は防音仕様だから気にせず話してたけど流石にドアの前で聞き耳たてられたら聞こえるか。今度からは気をつけよう。


「“魔王”という言葉は発しても“魔王様”と敬称を付けることは普通ありませんからね。人間は特に」


 一応こっちではギルス呼びでいこうって気をつけてるつもりなんだけど長年の癖でつい魔王様って言っちゃうんだよな。最近は面倒だし別にいいかっていうのもちょっとあった。


「あぁそりゃ迂闊だったなぁ。いやぁ参った参った」


「……それにしても随分と落ち着いていらっしゃいますね? 私が告発するかもとは思わないのですか?」


「微塵も思わないね。あなたは賢い人だから」


 まぁバレちゃったけどたいして危機感は感じていない。何故なら俺はタマちゃんが万能薬を生成出来るという秘密を握ってるから。その秘密をこちらが握ってる以上、お互いが破滅するような行動は起こせるはずがない。


 勿論、全てを投げ打ってでも俺たち魔族に対してダメージを与えたいくらい恨みがある、っていうなら話は別だ。でも、この感じだとそれも無い。


「ふふっ、馬鹿な質問をしてしまいましたね? ……という事はこれでグレゴリー様と私達は対等になったと思っても良いのでしょうか?」


 今までは俺が一方的に秘密を握っていたけど、これでお互いがお互いの秘密を握っているという状況になった。多分彼女はそう言いたいんだろう。


「まぁ、そういう事になるかな。勿論そうでなくても君達の一族を見捨てたり、蔑ろにするつもりなんて無かったけどね」


 俺だってタマちゃん好きだしね。一応、名付け親でもあるし。


「母は極度の心配性なのです。人の弱みを握っておかないといつ裏切られるか分からないと思っている節がありますから……まぁ、人では無かった訳ですが」


 ははぁ、だからシリウスさんはステイシアさんを俺達につけたのか。連絡役としてだけじゃなく、俺達の弱みを探るのも一つの目的だったみたいだ。こりゃいずれにせよバレるのは時間の問題だったな。という事で、俺がやらかした訳では無いと思います!


 ま、それは置いといても、俺もどっちかって言うと人の善意とか好意とかを素直に受け入れられるタイプじゃないからシリウスさんの気持ちはよく分かる。逆に親近感が湧いて好感が持てるくらいだ。


「ならこれからは()()()()()をステイシアさんにお願いしても良いのかな?」


 俺は開き直った。そういう事とは、勿論、魔族に関連する事だ。そっちの書類の整理とかもやってくれるなら助かる。


「はい、()()()()()もお手伝いさせていただきます。言うまでもなく、グレゴリー様が私達一族の事をお忘れにならなければ、ですが」


 流石はステイシアさん、ここできっちりねじ込んでくるあたり(したた)かだ。でも、寧ろこういう利害関係がはっきりしてる状態の方が分かりやすくて俺は好きだな。


「そりゃあそうだ。頑張らせてもらうよ。なら改めてこれからよろしく頼むよ。ステイシアさん」


「はい、よろしくお願いします。それと……“さん”は結構でございます。ステイシアとお呼びくださいグレゴリー様」


 こうして、俺は最高の秘書を手に入れた。


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