あぶく銭はパーッと使うに限る
「じゃあカリウス会長。これ本当に貰っちゃって良いんですね? 後悔しませんね?」
「ええ勿論ですとも。元より解決して頂けたらお礼はするつもりだったのです。むしろ受け取ってもらわなければ困りますよ」
「じゃあこれ、本当に貰っちゃいますからね?」
俺は目の前に積まれた札束を腕を組みながら見つめた。
この前、衛兵隊が事務所を制圧した後、どうなったかと言うと概ねは予想通りだった。
まずヘルサイスのメンバーだが、特に罪は侵していないので割とあっさり釈放された。しかし、無駄にタイミングよく現れた近衛の動きを見て、俺達グレゴリー商会と近衛は協力関係にあるらしいという事を察したようだ。ヘルサイスは報復行動を取ることもなくあっさり建物を手放すとどこかへ消え去った。
まぁ、あのヘルサイスの連中だってサリアスさんに手加減されたのは充分分かっただろうし、そんな歩く戦術兵器みたいな戦力がいるのに報復行動に出ようもんなら手痛い反撃を喰らうのは身に染みて分かったはずなのでそんなに不思議はない。
サリアスさんが手こずる事なく一人で殲滅したと知った時にはマイナスに転ばないかひやっとしたけど、どうやらプラスになったようで、今となっては逆に良かったかなとすら思っている。
そしてここからが副産物というか予想外の出来事だ。
なんとヘルサイスの奴ら、さっさとこの街から離れたかったのか、それとも本部からそういう指令が出たのか、なんとあの建物を安く売り払ったのだ。
最初に奴らが買った値段の8割程度の値段で売ったようで、かなりお得に取り返せたらしい。購入したカリウス会長曰く、普通に売ればもっと高く売れるはずなので売却が待ち遠しいとのこと。
「面倒な奴らを追い払ってくれただけでなく、お金まで儲かってしまうのですからこんなに素晴らしい事はないです」
そう言ってカリウス会長は、本来ヘルサイスに払うつもりだった金額と、実際に買い戻した金額の差額分を全部俺にくれた。その額なんと2000万デリウスリラ。価値としては日本円の2000万円と同じくらい。それがこの目の前のテーブルに積まれた札束なのだ。
「しかしですよ、これ商店街の皆さんから集めたお金なんでしょう? 本当に私が貰っても……」
「勿論全員に確認していますよ。反対する人は誰一人いませんでした。それくらい皆さん感謝しているという事です。どうか受け取ってください」
まぁそれはなんというか随分気前のいい話だ。それくらいああいった反社会勢力に居座られると困るって事なんだろうけど。
「分かりました。そこまで言うなら有り難く受け取ります」
俺が立ち上がるとカリウス会長も同時に立ち上がって握手を求めてきた。
「いやぁ良かった。これで私も心のつっかえが取れましたよ。これからもこの街に何かあったらお願いしますよ。グレゴリーさん」
あれ? そんな話だったっけ? そういう期待も込めての2000万なのかな。会長も意外とちゃっかりしてんなぁ。
「ま、何かあったら一応考えてみますよ。私で解決できる範囲であればですが」
そんなわけで、2000万リラという大金を手に入れて、ヘルサイス商店街事件は幕を閉じた。
ーーー
「というわけでね。みんなでこの金パーッと使って旅行に行こうかと思うの」
「旅行、ですか?」
俺はみんなを集めて、兼ねてより計画をしていた社員旅行計画を話して聞かせた。
「いやー、最近事件続きで休みもろくに取れずにみんな働き詰めだったでしょ? そういうのは雇用主としてはよくないなと常々思っていたわけですよ」
うちは断じてブラック企業では無いのだ。そんな奴隷のような働き詰めは、この世界が許しても俺の倫理観が許さない。労基法違反はダメ絶対。
……とまぁ冗談は置いておいて、長期休みくらいあってもよくない? と思ったので、旅行にでも行って疲れを癒してもらうのも悪くないかなと、この計画を提案したのだ。
パッと見たところ、感触はかなり良さそうだ。誰だってタダで旅行に行けるなら行くと言うに決まってるか。
「はい、じゃあ一応希望制にするんで聞きますけど、この中で行きたくない人居ますか〜?」
誰も返事をしない。これは決定だな。
「じゃあみんな行くって事で、場所はどこが良いと思う? 特に意見無いなら俺がどっか適当な高級リゾート地でも選ぼうかと思って───」
「はいはい! 私は海沿いが良いです!」
「うまい飯が食えるとこはどうでしょう!?」
「湖畔のコテージなんて素敵じゃありませんか?」
俺の言葉を遮ってみんなやいのやいの言い出す。結局この話し合いでは場所は決まらず、各自行きたい場所を調べてからもう一度会議で決めよう、ということになった。
ーーー
「なあに? 私もその旅行に連れて行ってくれるの?」
レイラにもその話をしに行ったら、少し嬉しそうに首を傾げて聞き返してきた。
「そりゃ勿論。レイラの他にも最初期に雇った人達は連れて行くつもりだよ。最近雇った人はまだ日が浅いから普通にお休みにするだけだけどな」
「ふうん、良いじゃないの。喜んでご一緒するわ」
「了解。場所はまだ決まってないからさ。なんか行きたいとこあったら調べといてよ。最終的には多数決で決めるから希望通りいかない可能性の方が高いけど」
個人的に海派と山派はきのこ派とたけのこ派くらい相いれないと思ってる。もし真っ二つに分かれたら2グループに分けても良いかも分からんな。
「それって絶対に案出さないといけないの? 私、そういうのはあんまり詳しくないのよ」
「ああ、いや別に出さなくても良いよ。みんなが選ぶとこのどっかに投票すればいいんじゃない? 俺もそうするつもりだし」
俺だってあんまり詳しいわけじゃない。海か山かどっちか選べって言われたら、山だけど別に海も嫌いじゃない。
というか旅行なんてみんなで行くのが楽しいんであって場所は関係ないと個人的には思ってる。一人旅行は知らんけど。
「そうなの。だったら気が楽で良いわね」
「じゃ、楽しみにしといて。今度の会議で決める時にまた呼ぶわ」
後は一応トールに声かけとこうかな。あいつはギルドマスターの仕事が忙しくて無理なんじゃないかとちょっと思ってるけど、だからって言わなかったら言わなかったで文句言われそうだし。
と、そんな理由で一応トールにも声を掛けにいった俺だったが、トールはとても悲しそうな表情で俺の話を聞いていた。
「忙しくていけない……もうやだこの仕事辞める」
「いや、辞めるな辞めるな。ちゃんとお土産買ってくるからさぁ」
「お土産……お前らだけバカンス楽しんで俺はお土産……」
うわぁ、めんどくせえ。そんなこと言ったってしょうがねえじゃねえか。
「あー分かった分かった。今度暇が出来た時にお前だけで行ったらいいじゃん。その金くらいは出してやるよ」
「え、本当か! 本当だな! 言ったな! 絶対に忘れんなよ!」
「急にやる気になるじゃん……」
ガバッとカウンターから起き上がったトールは目を輝かせて捲し立てる。金出すって言ったら急に元気になりやがったぞこいつ。まぁ一人旅行で満足するなら逆に良かったと思うとするか……




