近衛師団
「マゴス君。悪いんだけどあのゴロツキ共についてちょっと調べてもらえる? あ、ごめんやっぱりいいわ。他の人に頼むから」
マゴス君にギャングの調査を頼もうかと思ったけど、めちゃくちゃ疲れた顔をしてたので頼むのを止める。
そういえば追加の人員を増やさなきゃなと思っていたのに忘れていた。いい加減、諜報関係の仕事ができる人員を増やさないとマゴス君達が過労死しちゃう。
「ちょうど人員を増やそうと思っててさ。良い機会だから増やす事にするよ。それでその増やした奴に頼むから」
「ああ、そうですか? それは正直助かります……」
マゴス君が死んだ魚の目をしている……今度社員旅行的なのに連れて行ってあげよう。俺は心の中でそう固く誓った。
ああそうだ。あとどうせなら追加の人員の希望を聞いてあげるか。
「ところで増やす人員についてだけど……諜報部に誰かめぼしい奴いないかな? なんか希望があればその人に来られないか聞いてみるけど」
仲がいいとか悪いとかあるだろうし、職場環境はなるべく希望に沿ってあげたい。せめてもの償いだ。
「うーん、そうですね……だったらアイリスという子に聞いてみて頂けませんか?」
マゴス君曰く、諜報の仕事で男だと都合が悪いこともあるらしくて、一人くらいは女の子が欲しいらしい。
というか今までクラウス君と男二人でやらせてたのも辛かっただろうな。全く酷い上司だな、顔が見てみたいよ。
「アイリスちゃんね。分かった、ちょっと聞いてみるよ」
俺は了解するとすぐに魔王様に連絡してアイリスちゃんを通話口に呼び出した。
「ああ、もしもし? 君がアイリスちゃん? 俺は参謀本部長のグレゴリーだけど」
『な、な、な、なんでございましょうか!? 私が何か粗相を!』
いやいや、そんなわざわざ呼び出して怒ったりしないよ……なんで俺って直接会った事ない魔王軍の連中に、ことごとく怖いイメージを持たれてるんだろうか? 今度ちゃんと調べた方が良さそうだな。
まぁそれは置いておいて、超テンパっているアイリスちゃんに事と次第を説明する。
説明の最後にこれはマゴス君たっての願いなんだよと言ったら、彼女はスッと落ち着きを取り戻して、じゃあ行きますと即答した。
「分かったよ、じゃあそういう事で。また詳細は近いうちに連絡するから用意はしておいてね。それじゃあ」
俺は通話を切ると、そっとマゴス君の肩に手を置いた。
「マゴス君、随分愛されてるじゃあないの。アイリスちゃんは君の彼女かい?」
「え、いや別にそんなんじゃないですよ。本当ですって!」
ちょっと聞いてみただけなのにえらい否定してくる。
ああそうか、自分の彼女を呼び寄せました、じゃあ公私混同甚だしいから否定するしかないのか。別に俺はそんな堅苦しいこと言わないから気にする必要は無いのに。
「別に隠すことはないさ。俺は仕事さえしっかりしてくれれば公私混同は気にしないタイプの理解ある上司だからね。ま、色々頑張ってな」
「いや、その……はい……分かりました」
「式を挙げるときは俺が仲人やってあげるよ」
まだ俺結婚すらしてないから仲人出来ないけどな!
「いやいやいや! まだそういうんじゃ無いですから! 違いますって!」
ほう? まだって言いよったよこの子。どうもそのうちそうなる気はあるらしい。
マゴス君は自分から白状してしまった事に気付く事なく、違いますからと否定し続けた。
ーーー
次の週、近衛師団にいるリヨン中佐の知り合いと会う約束をしていた日が来た。
紹介された人物に会うために、近衛師団の本部を訪れた俺は、そこで予想以上の歓待を受けて少し戸惑っていた。
「ようこそ近衛へグレゴリーさん! 待っていましたよ。早くお会いしたくて首を長くしていました。楽しみすぎてこんなものまで用意してしまいましたよ!」
その人物にそう言われて奥のテーブルを見ると、デッカいホールのケーキが置かれていた。いやいやなんでそんなもん用意してんだ。二人じゃ食えねえよそんなの。
まるで誕生日に学校のクラスでサプライズを仕掛けられた時みたいな気分だ。あれにちょっと似てる。
「えらい歓迎のされようで少々驚いていますがグレゴリー商会の会長をしておりますグレゴリーです。本日はよろしくお願いたします」
「ああ、いけないいけない。私とした事がまだ名乗ってもいなかった。私は近衛師団第5連隊長のアナンと申します。どうも本日はよろしくお願いします」
連隊長って言うと軍で言うところの大佐か中佐クラスだ。まあつまりそこそこ偉いということだ。
「ところで……なぜこのような?」
謎の歓迎っぷりの理由を聞くと、アナンさんは面白おかしく話してくれた。
なんとアナン連隊長、この前までは連隊長ではなかったらしい。
ところが俺の書いたあの匿名文書のおかげで、サージェス一味の大摘発と内部にいた裏切り者の処分までできたので、その事を評価されて大躍進したそうなのだ。
なるほど。あの後、近衛内部でそんな動きがあったとは。
そりゃあ俺を歓迎するのもよく分かる。結果としてあの文書は俺が書いたとバレてしまった訳だけど、それはそれで逆によかったのかもしれない。
これだったら俺のお願いも聞いてくれそうだ。
「それはご栄達おめでとうございます。あれを調べるのはかなり骨が折れましたからお役に立てたなら光栄です」
まぁ別にアナンさんのために書いたわけじゃ無いけど、恩を着せられるのなら着せとけの精神だ。
「あれからいろいろと上手く回り出して近衛も正常な組織に戻りつつあります。貴方のおかげですよ。ところで今日は何かお願いがあるとか?」
「ええ、実はちょっとばかし困っておりまして……」
俺は商店街で起こっている問題を事細かく説明した。
「うむ、確かにそれは難しいですな。我々も法を犯していないうちから逮捕や捜査は出来ないですから、我々近衛が直接手を下す事は出来ません」
だよねぇ。あんまりこの国の法律とか詳しいわけじゃないから分からないけど令状とかいるんだろうと思う。だがしかしちゃんとその辺は考えて来たのだ。
「そうでしょう? ですからお願いというのはですね───」
俺は心に秘めていたある計画を誰にも聞かれないように小さな声で話して聞かせた。それを聞いたアナン連隊長はニヤリと笑う。
「それは……いいですね。それならば我々も気兼ねなく介入できそうだ」
魔王様「俺には聞こえてるけどな」




