策に嵌めたと思ったら自爆してたみたいな話
進展はない
「最近どうよ?」
「どうよって……お陰様で充実した日々を過ごさせてもらってるわ」
レイラが訝しげな表情でそう返してくる。俺は工場が新しく出来たことや、ミスターXについて分かった事なんかを伝えるためにレイラを呼び出していた。
「レイラって今は回復薬作るの手伝ってんだよな? で、その合間にバートンに稽古付けてもらってる」
「ええ、そうだけど?」
「これからは回復薬の製造はやらなくて良くなるから。その代わりに魔物の肝を獲りに行ってもらう事になると思う」
「別にいいけど……私が抜けた分はどうするつもりなの?」
「実は20人ほど追加で雇ったからさ。そっちはそっちでちゃんと専門にやってもらおうと思って」
それを聞いたレイラが目を丸くしながら立ち上がる。
「20人! どうやってあの狭い工場にそんな人数入れるのよ!」
あ、話す順序間違えたわ。あー、またなんかレイラにいらん事言われそう。
「言ってなかったけど、メナスのポーション製造所ってあったろ? あそこを貰うことになったんだわ。今後はそっちで製造するから」
「……聞いてないわよ」
レイラのジト目が最近癖になってきた。そのうちなんかに目覚めそう。
「悪い悪い。まぁそういう事だからよろしく。それとミスターX……あー、あの例のお前を尾けてた正体不明のストーカーを俺達はそう呼んでんだけど、そいつに関しては何も手掛かりがない状態が続いてる」
「え? 調べてくれてたの?」
「なんだ、調べない方が良かったか?」
「いや、調べてくれてるのならありがたいわ」
レイラとしては調べているのが意外だったようだが、ここまで来たら善意で協力しているというよりかは、最後まで付き合わせろという思いの方が強い。
何しろミスターXにはこちらも出し抜かれているのだ。あの謎の人物の正体を暴かないとこっちの気が済まない。
「で、お前の評判とか評価をギルドで聞いてみたんだけど、意外な事にかなり良かったぞ。だから誰かに恨まれるてるとかは無さそうだ」
「意外は余計じゃないかしら?」
「おっと失礼。それで、そうじゃなかったらお前の故郷からの刺客か何かじゃないかと疑ってるんだが、故郷の方でなんかやらかやらかしたとかは無いか?」
「無いわ、絶対に。そっちの方がよっぽどあり得ない」
さいですか。まぁでもミスターX自体、ここ最近現れるようになったみたいなんで故郷からの刺客説は確かに無いか。
「じゃあもうさっぱり分からんわ。やっぱりあの時捕まえられなかったのが悔やまれるなぁ……」
「そうね……でもあれ以降、バートンさんと組んでるからかもしれないけど全く現れてないわ。だからそんなに気にしなくても大丈夫よ。ほんとありがと」
ニコッと笑いかけてくるレイラ。こう真っ直ぐ言われるとちょっとドキッとするな。でもほんのちょっとだけな? ほんとだぞ?
「それに最近は剣の腕も上達したわ。そう簡単に何かされたりしないわよ。そうだ! 今度一緒に依頼でも受けてみる? 私の強さを見せてあげるわよ」
「えー、いいよ別に。俺がポンコツだもん。見たって強さなんて分かんないよ」
「ふうん、そう……私の事なんてどうでもいいんだ……」
え、なんで断っただけでそんな責められなきゃならないんだよ。これじゃなんか俺がいじめてるみたいじゃねえか。というかお前、そんなキャラだったか? ああクソ! しょうがねえなぁ!
「分かった分かった! 今度行くよ。最近ちょっと忙しいから暇ができた時にでもな?」
俺が慌てて発言を翻すと、レイラは舌をペロッと出してクスクス笑った。
「ふふ、冗談よ! でも行くって言っちゃたのは事実だから男なら自分の発言には責任持つわよね?」
ちくしょうやっぱり演技だったんじゃねえか! 俺の純情を弄びやがったな! だったら俺も仕返ししてやる!
「はー! 勿論演技なのは知ってましたけど? 俺の事が好きで好きでたまらないレイラさんの為についていってあげようかなと思っただけですけどぉ?」
「何よ! 女っ気が無いあんたの為に美少女であるこの私がひと肌脱いであげようって言ってんだからありがたく思いなさいよ!」
「別にぃ? ありがたくありませんけど! だって女っ気あるし! サリアスさん居るし!」
「うっわ! 自分のとこの従業員をそういう対象に含めるなんて一番やっちゃいけない事じゃないの!」
確かに。そういうのってセクハラとかパワハラとかになるよね。いや本気でサリアスさんをそういう目で見た事は無いんだけどもさ。
「ああそうだよ、悪かったな! 仰る通り女っ気なんかありませんとも! そんな俺が可愛い美少女であるところのレイラさんについて行けるなんて幸せだなー! ありがたいなー!」
なんか段々喧嘩っぽくなって来たけど、俺がそこまで言ったらレイラはプイと向こうを向いてしまった。
「まぁ、その、分かればいいのよ……」
あれ? なんか急にトーンが下がったぞ? というかよく見たら向こうを向いてるレイラの耳が真っ赤だ。もしかしてあれか? 可愛いって真正面から言われて照れてんのか? さっき自分で自分のことを美少女って言ってた癖に。
「ねぇねぇ、レイラ。レイラはとっても可愛いよ。世界一可愛い」
レイラがギョッとした顔で振り向く。だが、やっぱり顔は真っ赤だ。
「あんた……!」
「レイラは可愛いな〜。宇宙一可愛い。ほんとお嫁さんに欲しいくらいだよ」
「〜〜〜っ!!」
揶揄われていると気付いたレイラが顔を真っ赤にしたまま口をパクパクさせる。
「ははは、照れてる照れてる。お前、顔真っ赤だぞ」
ふ、勝ったな。なんで負けたのか明日までに考えといてください。
「あんたに言われたく無いわよ! あんただって顔赤いからね? 自分で鏡見てみなさいよ。もう帰る!」
はぁ? 何言ってんだか……それに帰るって、お前が寝泊りしてるのってここじゃないんですか?
俺がそう心で突っ込んでいるのを他所に、レイラはスタスタ歩いて部屋から出て行くと、勢いよくドアを閉めてしまった。
一人残されて、改めて冷静になって考えてみると、実は結構恥ずかしい事を言っていたのに俺は気がついた。
「あぁぁぁっ!!! なんか勢いで嫁にしたいとか言っちゃったよ! 次に会う時どんな顔して会えばいいんだぁあああ!!」
俺は一人、部屋の中で馬鹿みたいに悶えまくった。




