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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第十一部 シズ王国編
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怪しい孤児院

 

「さて、何から話したらいいですかね」


 1ヶ月弱かかって王都に到着した俺は、ようやくマゴス君と仕事の話を始めることが出来た。


「まぁ取り敢えずこの一月くらいで分かった事を聞かせてもらって良い? 特に例のナントカ孤児院についてとか」


「セルバト孤児院ですね。王都のチームでざっと調べたところ、王都の外れにあるしがない孤児院であることが分かりました。ここまでは以前お伝えした通りです」


 王都に来る道中もちょくちょくやりとりしていたのでそれは聞いていた。


「それでまずは指示通り、資金面の方から関係性を洗ったのですが、運営資金は6割が国費で4割が寄付金でした。寄付金の内訳は多岐に渡っているため、まだ全部調査できていませんが、セリア教から金は流れていないようです」


「うーん、そうかぁ。セリア教の痕跡見当たらず、か……」


 となるとちょっと分からない。金が関係するかと思ったんだけど違うんだろうか。


「個人ではどうだろう。例えば司教のラウゼス個人が寄付してるとか」


「寄付者リストの寄付金額が多い人順にざっと調べたんですが、見当たりませんでした。というのもリストのうちの大半が偽名なんですよ」


「え? そうなの?」


「リストにある人物の身元調査をしていこうと思ったんですが、これが全然分からないんです。どこそこの誰々ですと書いてあるので調べに行くんですけど存在していない、というパターンが殆どで」


「へー、そりゃ不思議だな。何でだろう」


「それが自分としても謎なんですよ。身分を偽って金を出した方が良いことが何か有るんですかね?」


 なんだろう。税金とかの関係かな。この国の税制はあんまり詳しくないから分からないけど、地球だと公益法人に寄付することで税額控除が受けられたりってことがあったはず。でもそれだと名前を隠す意味が全くないな。むしろ名前はしっかり書くか。なんなら宣伝する。

 それとも孤児院が忌避されるような世論感情があって、名前を知られたくないとか? それなら最初から寄付なんかしないか。


「うーん、分からん。そうなるとまずその孤児院だけが特殊な例なのかが知りたいな。他でも同じ傾向にあるなら疑問はともかくとして、そういうもんだって一応納得はできるんだけど」


「たしかにそうですね……」


「他の寄付金募ってる団体の寄付者リストとか入手できないかな?」


「時間がかかるかもしれませんがやってみます」


 時間がかかるのか。リストって普通に行って貰えるものじゃないのか? 


「……ちなみにその孤児院の寄付者リストってどうやって手に入れたの?」


「そりゃ夜中に行ってこっそりとですよ。この程度訳ありません。あ、もちろん原本はすぐに元の場所に戻しましたよ。今手元にあるのは複写です」


「なんか気軽に頼んですまんかった……」


「いえいえ、グレゴリー様には感謝してもしきれませんから」


 そんな感謝されるようなことしたっけか。ああ、自分の彼女と一緒に仕事が出来て嬉しい的な意味かな。


「そういえばアイリスちゃんは見当たらないけど。今は居ないの?」


「待ってください、なんでその流れで彼女の名前が出てくるんです? 別に感謝してるってそういう意味で言ったんじゃ……」


「あーいいからいいから。で、どこ行ったの?」


「はぁ……もういいですけど。えー、彼女にはグレゴリー様が到着したことを知らせに行ってもらってるんです。クラウドさんの所に」


 クラウドといえば、シャリーン伯爵だ。俺達が王都についたら会うという約束は一応しているものの、具体的な日程はまだ決まっていない。


「それで思い出したけど、近いうちに伯爵とは会えるんだったよね?」


「一応向こうにはグレゴリー様達が来る日程は知らせてあります。今は返事待ちですね。近いうちに返答するとは聞いてますが」


 今度伯爵に会った時に飛行船に搭乗する免状も貰える手筈になっている。クラウドに免状を貰えないか聞いたら、あっさりと貰えることになったのだ。そんな簡単に貰えるとは正直拍子抜けだ。

 ひとまず方針は立ったので、今日の所は解散となった。



 ーーー



 それから何日かたった。今のところシャリーン伯爵からの連絡は無かったので、俺達は引き続きセルバト孤児院の調査を行なっていた。

 あれからマゴス君の獅子奮迅の働きもあって、とある団体の寄付者リストを入手することができていた。


「この名前もこの名前も知っている人ばかりですね。豪商やら貴族様やら有名人ばっかりだ。特に調べるまでもないですよ」


 リストは殆どが実在の人物の名前だった。この一例だけをもって判断するのは危険だが、偽名が一般的では無いということは少なくとも分かった。

 状況から考えて、あの孤児院のリストが異常であると断定してしまっていいいだろう。


「つまりやっぱりおかしいのはあの孤児院って事になるな」


「そうなりますね」


「いざこの事実を認識すると、そもそも孤児院から持ち出したリスト自体が本物かどうか怪しい気もしてくるな。孤児院側がでっち上げた偽物の可能性は?」


「……可能性としてはあるかもしれません。ただしその場合、あの孤児院には何か後ろ暗いことがある事になります」


 孤児院側が用意した偽物であれば、何かを誤魔化そうとしてそんな物を用意していた事になるし、本物であったとしても寄付した人間が偽名ばかり使うというのはやっぱりおかしい。


「まだ予想もつかないけど、怪しいことだけは確かだな。さて、どうしたものか」


 探りを入れる必要がある。問題は方法だ。蜘蛛型使い魔を使えば楽が出来るが、魔王様ばかり頼るのもどうかと思う。なので以前使った盗聴器を使用したいところだが、使い所がちょっと難しい。さて、どうするか。そう悩んでいたら、マゴス君が呟くように言った。


「一度、正面から行ってみますか。別にこちらは善良で慈悲深い一市民でしかない訳ですし。本名を名乗らなければそもそも足もつかないでしょう」


 慈悲深い善良な市民である自分達が孤児を憐れんで寄付をしに行く。ありと言えばありだが、セリア教に悟られる可能性があった。以前、揉めた時に顔も割れているので、あまりいい方法とは……ああいや、いい事を思いついた。


「……サリアスさんと俺の二人でその孤児院に見学に行こうと思う。万全の準備をしてからだけどね」


 俺は今思いついた内容をマゴス君に説明した。初めは目が点になっていたマゴス君だったが、しばらく考えてから興奮気味に言った。


「その発想は無かったです! それがうまく行ったら……動かぬ証拠が掴めますね! 例え宛が外れたとしても痛くも痒くも無い!」


 俺達は詳細をより詰めるために計画を練り始めた。


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