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魔王の部下も楽じゃねえ!  作者: 普通のオイル
第三部 地盤を築こう
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危機到来は突然に

 

「冒険者向けになんか始めるのが一番だよな。ここ冒険者の街だし」


 街に平穏が戻ってからというもの、俺はどうやって金を稼ぐかを考えていた。


「あの……魔王軍でもやっている労災保険? を冒険者向けに出してみるっていうのはどうですか? あれ、私達はすごく助かってますから需要はあると思うんですよ」


「あー、それはねぇ……」


 行く行くはやろうと思っているが、今はまだ難しい。まず第一に信用がいる。魔王軍でやった時は参謀長という信用力で推し進められたから良かったけど、ここ人間界ではただの変なおじさんでしかない。そんな奴に金を出す奴はいないだろう。


 第二にものすごく多くの人材が必要になるという事。冒険者の死亡率、負傷率を調べ、価格設定をし、加入者の審査をして保険の適用するかどうかも調査する。これはちょっと今の人員ではとても足りない。


「今はちょっと厳しいかな。もうちょっと簡単なやつがいいかと思ってるんだけど」


「うーん、そうですか……」


 シュンとするサリアスさん。ごめん、せっかく案を出してくれたのに。


 次にマゴス君が口を開く。


「グレゴリー様、これはクラウスの調査によるものなんですが、この街の回復薬はちょっと質が悪いみたいです。そこで回復薬の製造販売に手を出してみるのはどうでしょう?」


 それは有りだな。質の良い回復薬なら我々魔王軍が製造技術を持っている。製造法さえ知られなければ問題なく売れる。


「いいね。ただちょっと門外漢なんで分からないんだけど材料は何が必要なのかな?」


「えーと、きちんと調べなければ分からないですが難しいのは魔物の肝と何かの薬草くらいだったと思います。あとは普遍的な材料でできたと思いますよ」


「じゃあそれで行こう。もうちょっと調べて行けそうだったら場所借りて、グレゴリーのポーション製造所とか看板かけとけばそれっぽくなるでしょ」


「あ、私は魔物の肝だったら取ってこれますよ。依頼のついでにでも」


「おお、助かるよ。多分それが一番高級材料だろうからさ」


 よし、そうなったらもうちょっと人材が欲しいな。人間を雇ってもいいけど製造法を秘匿する関係上、最後の重要な部分は魔族にやってもらいたいんで魔族が一人は必要だ。


 俺は携帯もどきを取り出した。


「あ、もしもし魔王様? ちょっと相談があるんですが……」



 ーーー



 それから何日か経ってから俺は二人の魔族と共に冒険者ギルドの前にやって来ていた。


「で、ここに入って登録すればいいんでしょう? ちゃちゃっと終わらせて来るっすよ!」


 そう自信満々に答えるのはバートンというリザードマン。どっかの部隊の腕自慢なのだが、暇そうだったんで連れてきた。


「そうは言いますがねバートンさん……僕なんかろくに剣も振ったことないんですよ? 本当に登録できるのやら……」


 対照的に自信がなさげなのはカイルというドワーフだ。この男は技術畑の魔族なんで、戦闘はからっきしだ。


「大丈夫っすよ! だってグレゴリー様でも登録できたんだし余裕っす!」


「ちょっとバートンさん! 本人の目の前でなんてこと言うんですか!」


 本当だよこのトカゲ野郎、バカにしてんのか? いや確かにサリアスさんの助力無しじゃ登録も怪しかった気がするけど面と向かって言うやつがあるか。


 どうもこのバートンて奴は根はいい奴なんだけど馬鹿正直で考えが足りない時があるんで本当に連れて来て良かったか疑問が残る。腕は確かなんだけどな。


「おいバートン。カイルの試験の時にバレない範囲で手助けしてやれ。別に上級冒険者にしろって言ってるわけじゃねえぞ? 俺の言いたいこと分かるか?」


「うっす! そういう事なら了解っす! 任しといてください!」


 チャラい。チャラすぎるよバートン君。正直めっちゃ不安なんだが。


「とにかくほどほどにやるんだぞ」


 俺はそう言い含めると冒険者ギルドに入る。今日はトールが受付にいたんで、そこに向かった。


「よおトール。冒険者志望の奴を連れて来たんで登録して欲しいんだけど」


「ほー……その二人か?」


 なんだか非常に緊張した面持ちで俺の後ろを見るトール。やっぱりサリアスさんという前例があるし、見る目があるんでバートンが強いって分かっちゃうのかな?


「そうだよ。まあこのバートン、サリアスさん程ではないけどまあまあ強いから。よろしく」


「ああ、見りゃ分かる……クソッ、頭が痛くなって来た……!」


 トールは何か書類を書くと、奥の演習場に二人を連れて行く。すると他の人に任せたのかすぐに戻って来た。


「あれ? トールが見るんじゃないの?」


「いや、他のやつに任せた。ちょっとお前に確認したい事があってな。ここじゃなんだから奥で話そう」


 依頼を受けまくって貢献してるサリアスさんならまだしも何もしてない俺に? いったい何の用だろう? 疑問符を浮かべながら俺はトールに促されるままについて行った。


「まあ座ってちょっと待っててくれ」


 トールは案内すると一旦部屋から出ていく。


 その部屋は防音されているようでとても静かだった。ギルド内とは思えないほどだ。いや待てよ? こんな秘密の部屋で会話するほどの事が俺とトールの間にあるか? なんかおかしくないか?


「よお、待たせたな」


 俺の疑問を打ち消すようにドアをガチャリと開けて、トールが部屋に入ってくる。手には見慣れない形状の箱を持っていた。なんだあれは。


「こいつが気になるか? こいつはな、()()()()()()()


 トールが空中にパッとその箱を投げる。すると箱は一気に展開してバラバラになって俺の手足に吸い付くようにくっついてきた。俺は何も出来ないまま、あっという間に拘束された。


「そいつは魔道具の一種だ。一度拘束すれば大抵の奴には破られない」


 手足を動かそうにも本当に全く動けない。やばい、これはやばいぞ。何故かは分からないがトールは俺を逃すつもりはないらしい。


「!? おいおいトール、冗談きついぜ……俺が何したってんだよ」


 精一杯虚勢を張りながらなんとか時間稼ぎをする。俺の見ている光景は魔王シアター改を通して魔王様も見ているはず。今頃は慌てて近くの誰かに連絡を入れてくれているだろう。そうすれば誰かが助けに来てくれる。それまで会話を引き延ばして時間を稼ぐしかない。


 しかしトールは俺と会話をするつもりがないらしく、淡々と事実を説明してくる。


「お前もこの部屋に入って気づいたかもしれんが、この部屋は外との繋がりを一切遮断する部屋だ。光は勿論、音波、電波、魔力波、全ての振動を遮断する。だからお前がいくら喚いても助けは来ない」


 何それ詰んでね? 詰んでるよね? それだとこの緊急事態に魔王様が気づいてない可能性がかなーり高い。

 トールの話が本当なら、この部屋に入った時点で魔王様とのリンクは切れているだろうが、魔王様にあぁそういう部屋なのかな? って流されてたら終わりだ。


 どうするん? 俺の話術だけでこの場を乗り切らなきゃいけないん? ちくしょう、やってやるよ! 伊達に口だけで生きてきたわけじゃねえんだぞ!


「なあトール。それじゃまるで俺が助けを呼ばなきゃならないみたいじゃないか。俺は善良な一市民だぞ? なんでこんな事する?」


 トールはフンと鼻を鳴らして俺を見下した。


「善良な一市民? ああ、確かに善良だな。それは認めてやる。あのお嬢ちゃんもかなり貢献してくれてるし、ギルドとしては正直助かってるよ」


「だったら───」


「だが一市民というのは嘘だな。それはお前自信もよーく分かっているはずだ。そしてそれはお嬢ちゃんも、今日お前が連れてきた二人もそうだ。違うか?」


「……」


 どうやってかは知らんがトールは俺達が魔族だと分かっているらしい。これは本格的にまずいぞ。


「目的はなんだよトール。わざわざこんなとこに連れてきて話をするってことは目的があるんだろ?」


「それはこっちのセリフだ。お前らあんな戦力を集めてこの街をどうするつもりだ。戦争でもおっ始めるのか? 正直に答えなければ今ここでお前を、殺す」


 やべえよトールのやつ。完全に目が逝っちゃってるよ。まじで殺す気だよ。いくら魔王プロテクションがあるからって動けないんじゃあって無いようなもんだ。


 しくじったな。油断してたのが悪いが完全に俺の失態だ。まあ今更どうこう言ったところで遅いけど。


 信じてもらえるかは分からないが俺は正直に話すことにした。


「……俺たちの目的はな。人間界を裏から操って勇者召喚をやめさせることだ」


 トールの眉がピクリと動く。


「それで……あの集めた戦力はほとんど俺の護衛だよ。ちょっと過剰だとは思うけどな。街で暴れたりする予定はない」


 まあその護衛さん達は今頃呑気に人間界ライフをエンジョイしてるんでしょうけどね。誰かそろそろ来てくんないかな? 俺、殺されちゃうよ?


「ならお前達は戦争を起こすつもりは無いってことだな?」


「ああそうだ」


 これはセーフか? セーフであって欲しいなぁ……感触的にはセーフなんだけど。

 トールは深い溜息をつくと何か呪文を唱えた。するとあっという間に俺の手足に絡みついていた拘束が解かれてまた箱状に戻る。どうやらセーフだったらしい。


「トール、お前いったい何者なんだ」


「……まぁ、そう思うよな。教えてやるよ。どうせ俺のことを調べたら分かることだしな……」


 そう言ってトールは自分の正体を語り始めた。


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